31話 劇団
一通り景色や歴史、出店などを楽しんだレルゲン達は一度荷物を下ろすべく宿を探していた。
丁度よく大人数で泊まれそうな宿を見つけて入ると、客と見られる二人の男女が、焦りの表情を浮かべながら話し合っている。
「これじゃあ公演に間に合わないよ」
「仕方ないだろう!六段階目なんて出てきてしまっては、飛行船だって止まるさ」
「でも中止にするわけにも行かないし、何かいい方法がないか…」
「もう規模を縮小してやるしか無いんじゃないか?」
「ダメよ、ようやくここまでのし上がったんだから、今日の演目は全部やり切らなきゃ」
そんな話を聞きながらも、レルゲン達は通された部屋に持参してきたものと、新しく増えた荷物を置いて一息つく。
下での話を聞いていたマリーが、レルゲンに話しかけて確認する。
「ねぇレルゲン。さっきの人達って」
「多分劇団のメンバーじゃないか?クラウドホルスのせいで何かあったようだけど」
「私一度生で見てみたかったよ!行ってみない?」
「そうだな、折角だし俺も見てみたいが、皆はどうする?」
マリーとセレスティアやディシア、ミリィ辺りは見てみたい派。カノン、召子はどちらでもいいとの事なので、見てみる方向で固まった。
「さっきの劇団の人達。何か困っていたようですけど、大丈夫でしょうか?」
ミリィがレルゲンを見つめながら心配そうな顔を向ける。
「話だけでも聞いてみるか」
そうして劇団と思われる人達に話を聞いてみると
劇団メンバーの女性が答えてくれる。
「すみません。本来はこういった話は周りに人がいない所でするものなのですが、私達も焦っておりまして…」
「俺達とは別でメテオラまで来るはずだったメンバーが、六段階目の魔物が現れたせいで到着が間に合わなさそうなんだ」
「そこで代役を探してくるか、規模を縮小するかで彼と話していたのですが、中々纏まらなくて」
レルゲンが一通り話を聞き終えて、自分達も劇団の演目を楽しみにしている旨を伝えると
「ありがとうございます。ほら、やっぱり規模の縮小なんてやっぱりダメよ!何とかして代役を立てないと」
「でも代役って言ってもそんな都合のいい人材がいるかね?ジャグリングだけでも出来たらいいんだが…」
「ジャグリングが出来ればいいのか?」
瞬間、劇団の目の色が変わり、レルゲンの手を取る。
「できるのか?」
「そうだな、"手を全く使わない"ジャグリングなら出来るぞ。こんなふうに」
袋から十枚以上のコインを空中へ放ると、規則正しく円を描きながら回るコインを見た劇団員がレルゲンに向けて
「頼む、君の力を貸してくれ!」
「それはいいけど、もう一人、似たような事ができる人がいる。人員を増やしてもいいか?」
「構いません!是非よろしくお願いします!」
劇団の演目は全くの素人だが、念動魔術を使ったトリック程度のことなら朝飯前だ。
もう念動魔術をひた隠しにして過ごす必要もない。これくらいなら助けてあげたいとレルゲンは思った。
マリーに参加をお願いすると、少し考える表情を取って
「その演目、やるのは構わないけど、それまでの間裏方から間近で見られるってこと?」
「それはもう特等席もいい所だろう」
「なら出るわ!でも私は魔力糸を使ったやり方しか出来ないから
レルゲンみたいに魔力糸無しでの操作は無理よ?」
「大丈夫だ。魔力糸の細さだけで言ったら俺とマリーはもう遜色ないから
暗い壇上に上がってしまえば見えなくなるはずだ。
今のマリーって精密操作するとしたら最大で何本の魔力糸を出せる?」
「そうね、ジャグリングくらいの難易度なら十本程度は余裕だと思う」
「ほう、さては俺が知らない所で結構練習してたな?」
「あっ、分かる?いつかは魔力糸なしで操作できるようになるまで練習は続けるつもりよ」
レルゲンが頷き、皆んなにはレルゲンとマリーは急遽劇団を見られなくなったと伝えて楽屋に入る。
中には劇団の支配人と思われる強面の男性が待ち構えていた。
「兄ちゃんがアイツらの言っていた手を使わないジャグリングが出来るって人かい?」
「そうだ。一日だけにはなるがよろしく頼む」
強面の表情がニッと笑顔に変化し、マリーの方を見る。
「嬢ちゃんも出来るって聞いてるが、本当に出来るのか?」
「重さや形にもよるけど十個程度なら問題なく出来るわ」
「そうかそうか!十個程度ならか!いやぁ心強い!一度俺の前で見せて欲しい。
道具は適当に貸すからよ」
二人が強面の支配人に念動魔術を使ったトリックを披露すると、ガッチリと握手を交わし
「後半の演目を任せたい。頼んだぜ!」
と残して安心した様子の支配人がその場を後にした。
一発で認められた二人を見た他の劇団メンバーが感嘆の声を上げ
「何者?」
と溢す物もいた。
すると、宿屋であった二人組がやってきて、改めてお礼を言われる。
「出来る限りの事はやらせてもらうよ、俺も彼女も。
後、貸してもらいたい物があるんだがあのメンバーが顔につけているやつ。予備はあるか?」
「あぁ、アレなら沢山予備があるぜ。少し待ってな。今持ってくる」
そして劇団が開演する時刻になり、照明が消されると観客が歓声と拍手を送る。
「お待たせ致しました、紳士淑女の皆様方。
本日はお集まり頂きありがとうございます。
それでは堅苦しい挨拶は抜きに、どうぞお楽しみください。まずは…」
と司会が劇団の進行を進めてゆく。
出番が来るまで特等席で見られるマリーは興奮の余り少し跳ねていた。