30話 空中都市メテオラ
飛行船の発着場には、クラウドホルスの影響なのか、かなりの数の人が並んでおり
この空中都市の人気の高さが伺うことができる。
全員が初めての観光地であるメテオラに到着して、早速上着を羽織るくらいには空気が澄んでいて
また涼しいと感じる程の気温に地上よりも下がっていた。
街の様子は白い遺跡を一部切り取ったような構造となっており、中央通りから十字に細い道が複数伸びており、
外周付近には途中で折れているような先端になっている柱がまばらに建っており
落下防止の柵が景観を壊さない程度に設置されている。
今レルゲン達がいるのは中央の浮島で、浮島の下部には巨大な浮遊魔石が遺跡部分と一体になっているのだが、他にも小さな島がいくつか浮いている。
気になった一向がスカイに尋ねると
「この付近に浮いている島は中央の浮島の下部にあります浮遊魔石の引力によって
直接魔力を流し込む事なく浮いているのですよ。
この浮遊魔石は超貴重な魔石として認定されていますので、危険を犯してまで削って盗もうとする輩が居るほどなのです。
レルゲンさん達は空を飛べますので、浮遊魔石に簡単に近づけると思いますが…盗まないで下さいね?
国際的な指名手配になりますので」
「やりませんよ」
マリーはスカイの軽口を完全に受け流し、目を閉じ大きく深呼吸をして満足そうな表情をしている。
「うーん!空気がおいしいー!」
マリーに釣られて他の皆も同じように深呼吸をして、気分を落ち着ける。
レルゲンが振り返って周りに尋ねる。
「まずはみんな何がしたい?」
「お腹空いた」
「観光!」
と大体二つに分かれている。
話を聞いていたスカイが、レルゲンを呼んで提案してくれた。
「観光されながら、出店でお腹を満たしてはどうでしょうか?」
レルゲンが周りを見ると
「「賛成!」」
と全員が口を揃えて賛同するので、今日は中央の浮島を巡りながらゆっくり観光し、お腹を満たす事に。
セレスティアは柱を触りながら歴史を肌で感じて楽しんでいた。
「この石柱は、一体いつ頃から立っているのでしょうか?」
「資料が少ないので何とも言えない部分はありますが、一説では数千年もの間この浮島にそびえ立っているとの研究結果がありますよ。
材質で調べるそうです」
「なるほど…数千年もの間、この島は浮き続けているのですね」
セレスティアが額を柱に付けながら目を閉じて、歴史を感じ取っている。
この石柱に魔力は流れていない。
しかし、脈々と受け継がれてきた風情ある雰囲気が額を通じて流れ込んでくるようで
今まで高まり続けていた神経が落ち着いていくのを実感していた。
カノンも歴史的な建造物に大変興味があるようで、セレスティアの手を引いてどんどんとレルゲン達から離れていく。
「セレス姉!次はあっちにいこう!早く早く!」
「分かりました。今日はやけに元気ですね」
ミリィと召子は観光よりも食べる事に夢中のようで、串が刺さった焼き肉を頬張っている。
口がしょっぱくなったら氷を専用の機械で削った塊に
甘い果汁がかかった物を口の中に一気に流し込み頭がキーンと痛くなるのを楽しんでいた。
「召子さん!この氷の食べ物は前にも食べたことがあるんですか?」
「これは多分かき氷っていう、私がいた世界にもあった食べ物だと思います。
久しぶりの元いた世界の料理に触れられて、ちょっと感動です…」
「これが召子さんがいた世界の食べ物…!」
(この世界の料理も美味しいものが沢山あるけど、もっと母国の味を再現した料理を自分で作ってみても面白いかも?)
フェンが焼き肉を欲しがっていたので、召子はタレがかかっていない部分を渡すと、夢中になって食べ進めている。
負けじと再び二人が一気にかき氷を口いっぱいに放り込み、頭を押さえながらもかき込むのは止まなかった。
マリーはというと、レルゲンとディシア、三人で纏まって歩いて浮島から見える下に広がる雲海を眺めていた。
レルゲンが買ってきた串焼きをマリーとディシアに渡し、近くのベンチに腰掛ける。
「ありがと」
「ありがとうございます」
三人で串焼きを食べていると、普段こういった物は食べたことがないのか、ディシアが「美味しい…」と溢してパクパクと食べ進める。
横で見ていたレルゲンとマリーは、年相応な反応を見せるディシアを見て少し微笑み
柵に肘をついてリラックスしていた。
「まさかこんないい所があるとはな」
「でしょう?来るまでが大変なだけで、来ちゃえば都なのよね。レルゲンもここまでの飛行お疲れ様」
「ああ、このくらいの距離なら全然問題ないから、これはまたここに来てもいいかもな」
食べ終わったディシアが、レルゲンに向かって改めてお礼をする。
「私を拾って下さるだけでなく、こんなところにまで連れて行ってくれて、本当にありがとうございます」
「いいんだ。皆の頑張りがあってからこその今があるんだから。この一週間は存分に楽しもう」
各々が楽しんでくれる旅行になればいいなと、レルゲンは爽やかな風を浴びながら考えていた。