28話 束の間の休暇
「レルゲンって同時に何人くらい運べるの?」
「そうだな。運べる人数が多くなればなるほど一度に飛べる時間が減ると考えた方がいいかもな。
運べる人数は魔力糸で接続をすれば制限はほぼ無いぞ」
「そうなんだ。折角召子がちゃんと仲間になったし、連れて行ける人全員で行ってみたい所があるのよ」
「へぇ、どんなところ?」
「空中都市のメテオラよ!」
「初めて聞いたな。どんな所なんだ?」
「そうね。簡単に言ってしまえば浮遊魔石を核にした、常時浮いている都市ね。
行って帰ってくるまでが色々陸路やら飛行船やらで時間がかなりかかるけど…!」
「俺が飛んでいけばそれも短縮できるって訳か」
「そう!一週間で行って帰ってくるのに一日使ったとしても、沢山遊べる時間があるってこと!」
「いいかもな。そのメテオラっていうのは何が有名なんだ?」
マリーが想像を膨らませながら、メテオラの魅力を語る。
「ご飯も美味しいって有名だけど、やっぱり御来光と夜見える星々が綺麗って有名よ!」
レルゲンもマリーの意見に乗り気になってきており、実際に連れて行くメンバーを確認する。
「景色か。確かに観光するにはいい所かもな。誰を誘うんだ?」
「とりあえず全員誘いましょう!セレス姉様も良いでしょ?」
「私もメテオラは行ったことがないので、是非行ってみたいです」
三人でまとめた旅行案を元に、全員を誘ってみるとハクロウ以外のメンバーが全員参加する事になった。
ハクロウに不参加の理由を尋ねると
「俺はもう少しこの腕の調整に時間がかかりそうなのと
若い嬢ちゃん達の中に割って入るのは少し眩しいってもんよ。だから俺の事は気にせずに楽しんできてくれ」
とキッパリ断られてしまったので、それ以上無理に誘う事はなく
すぐに希望メンバーで出発する準備を整える事に。
お護りで炎剣と白銀の剣を持ち、重量軽減のために黒龍の剣は今回お留守番にする事に。
黒龍の剣は重量に換算すると軽く百キロ以上はあるため、念動魔術で操作しなれているとはいえ
持って行かないだけで二人分程の重量軽減になる。
「最近あの剣を持たないレルゲンは何だか新鮮ね。これからはその赤い剣をメインに使って行くの?」
「性能で言うならまだまだ現役だと思うけど、やっぱり重量が気になるな。
黒龍の剣より、取り回しがかなりいい炎剣の方が手で持つのは優れていると思う。
黒龍の剣は浮遊剣の内の一本にして、瞬間的な火力を出したい時に持ち変えるのが一番良いと思ってるよ」
「そっか。手に持たなくても浮かせておけば瞬時に持ち変えることも出来るものね。
いつかレルゲンの浮遊剣が全て魔剣になる日も近いのかも」
「そうなると使い分けが大変そうだけど面白いな。色々な属性を組み合わせるとか」
ここでセレスティアが盛り上がっている二人を見て軽く咳払いをし、用意を進めるように小言を漏らす。
「出発は明日なのですから、魔剣トークはそれくらいにして手を動かして下さい」
「「はーい」」
携行食はいつも遠出をする時に持ってきていたが、数時間の飛行だ。
持って行くのは水や着替えだけで良いだろう。
他に何を持って行くか悩んでいると、マリーが暖かい服装を提案してくる。
「空中都市だからな、確かに必要かもしれない。皆んなにも暖かい格好を持ってくるように伝えておこう」
出発当日、女王が現在のメテオラの場所が記載されている地図を用意してくれていた。
天気は快晴。雲一つない空に恵まれて、まさに旅行日和だ。
「現在メテオラはフィルメルク領の海上にございます。メテオラからうっかり落ちないようにお気をつけ下さい」
レルゲンが女王にお礼をし、目的地は移動していることを知る。
「地図、大変助かります。メテオラは動いているのですね」
「はい。季節によって変化する風が上空を流れているのですが
現在の季節だとこの辺りにメテオラが浮かんでいるはずです。
では騎士レルゲン、皆を頼みます。
今回は任務ではありませんが、全員の守護は一任致します」
「承知致しました」
騎士令を取り、マリー、セレスティア、カノン、ディシア、ミリィを念動魔術で浮かばせる。
召子はフェンに跨り、天歩の加護でそのまま着いてくることになった。
フェンが疲れたら一緒に運んでやろうと心に決めて、ゆっくりと上昇してゆく。
「では、女王陛下。行って参ります」
「良き休暇を過ごして来てください」
全員が女王陛下に手を振って、レルゲン達は空中都市メテオラを目指して飛んでいく。