26話 決着
ここで召子の視界の端に四つのスキル獲得画面が表示される。
〈魔力眼〉〈勇者の気概〉〈守護者〉〈世界の抑止力〉
獲得と同時に相手の悪魔が繰り出す魔力の塊が視覚情報として捉えられ、感覚で躱していた魔力を固めた遠距離攻撃を目で追いながら躱すことが出来るようになっていた。
これには悪魔も即座に勘付き
(俺の攻撃がさっきよりよく視えているな)
と遠距離での拳攻撃の回数が若干減り、その分召子の身体に直接拳が当たった時に追加で衝撃を与える方法に切り替わって行く。
「がはっ」
口から血が流れ出てゆき、内臓の何処かが傷ついたが、それでも召子は攻撃の手を緩めない。
この意思の強さは〈勇者の気概〉と〈守護者〉による補助がかけられていた。
〈勇者の気概〉は自身が決めた意思を曲げない、相手の甘言に対して強い耐性を。
〈守護者〉は誰かを護る意思の発現で能力をレベル以上に発揮することが可能に。
急激に強くなっていく召子を見て、マリーがレルゲンに確認する。
「レルゲン、召子の身体が今纏っているものって」
「ああ、間違いなく魔力だ」
「でも召子に魔力は備わっていないのよね?」
「そのはずだ。だからあれは地脈から供給された純粋な魔力。
あそこまで自然に地脈からの純粋な魔力を自身の糧にできるまでは相当な鍛錬が必要な筈だが
間違いなく〈スキル〉によるものだろう」
そう、レルゲンの予想は当たっていた。
この変化は〈世界の抑止力〉によるもので
地脈さえあれば魔力を吸収して自身の戦闘力に上乗せすることができていた。
レベル差をどんどんと埋めていく召子に一瞬焦りを感じたのか、悪魔は再度距離を取り、新しい技を繰り出してくる。
「眷属召喚」
地上に見た事のない紫色の魔法陣が現れ、黒く鋭い牙を持つ化け物が現れる。
すかさず召子も待機させていたフェンを呼ぶ。
「フェン君!お願い!」
「ヴァフ!!」
これで戦況は変わることなく、召喚主と召喚獣同士の戦いが繰り広げられる。
召喚獣はフェンが圧倒的に悪魔が召喚した化け物よりも力強く、何匹いようがお構いなしに戦闘不能になって行く。
それを見た悪魔は召子に両手を使った全力の掌打を浴びせて、大きく吹き飛ばすことで距離を作る。
「予想以上だ。女の勇者よ、名を何という?」
「最上、召子」
「そうか、では最上召子よ。今回はここでお開きにさせて頂く。
私の名はアッシュ、力の階級は"下から二番目"。この意味が分からない君達じゃないだろう」
マリーが逃すまいとアッシュに向けて駆け出そうとするが、レルゲンがマリーの肩を掴んで静止する。
「どうして?逃げられるわ!」
「落ち着け、今仮に奴らの拠点を掴めても無事に帰れるか分からない。
まだそこまで無理をしてまで追いかける時じゃない」
アッシュが少し驚きつつも、レルゲンを賞賛する。
「冷静な判断だ、人間。追いかけても構わんが、魔界へ強制転移させてやる事だって簡単にできる。
知らない土地で相手も数も分からない状況、それでも尚来ると言うなら招待しよう」
マリーが止まると、アッシュの口角が上がり紫色の魔法陣を地面に展開し、姿を消して行く。
アッシュの姿が消えたのを確認すると、召子の口から更に血が流れ出ており、聖剣を地面に突き刺して方で息をする。
フェンが心配そうに召子の髪の近くで鼻を動かしながら、口から流れる血を舐めて心配そうにしている。
脅威が去ってからセレスティアが駆け寄り、回復魔術をかけると、召子が短くお礼を言う。
「セレスティアさん、ありがとうございます」
「いいえ。格上の悪魔相手に貴女は立派に戦っていましたよ。撤退させただけで勝ちと言っていいでしょう」
「えへへ」
勇者の表情から一般人へと戻った召子を見るとセレスティアも安心したのか、召子の身体を抱き寄せて優しく頭を撫でていた。
「フェン君もお疲れ様」
「クゥン」
召子が優しくフェンの首元を撫でると、フェンもまた表情が柔らかくなり、召子の匂いを嗅いで甘えていた。
レルゲンは消えたアッシュという悪魔が最後に溢していた言葉を思い出していた。
(下から二番目の階級か…)
あの魔力量で下から二番目とは、一番上の階級になったらどれだけの強さを持っているのか
今の戦力で本当に足りるのかなど、眉間に皺が寄っているのを見たディシアがレルゲンに声をかけてくる。
「未来の事を考え過ぎると足が止まってしまいますよ」
「そうだな」
レルゲンは空を見上げて、大きく息を吐き出すのだった。