25話 真の勇者
「だが、戦いを始まる前にお前に聞いておかねばならないことがある」
召子は悪魔を正面に捉え、見つめ返す。
「なんですか?」
「お前はこれからどうなるか本当にわかっているのか?」
「魔王が復活して大勢の人を殺しに来るんでしょう」
「違うな、やはりお前は分かっていない。"お前が召喚されたせい"で魔王様が復活するのだ。
言ってしまえば魔王様が復活なされるのは勇者のおかげなのだよ」
悪魔が両手の拳に魔力を込めて、召子に向けて突きを繰り出す。
虚空に繰り出された突きは一つの衝撃波となって、召子の胸へ一直線に向かってくる。
即座に聖剣を構えて悪魔の突きを防御する体制を取ると、見えない衝撃が召子の全身を軋ませる。
「驚いた。今のをよく防いだ」
「私もです」
「まぁいい。なら、これならどうかな?」
今度は連続して突きを繰り出し、手数を増やした攻撃に切り替える。
咄嗟に召子も聖剣を盾にして、衝撃に耐えるが少しずつ地面を削って後退して行く。
悪魔は更に召子を追い詰めようと遠距離の突き技を繰り出しながら口を開く。
「勇者が発生するのは本来世界が混沌に陥れられてから。だが、今回はどうだ?
お前という異分子が現れ、勇者召喚に引っ張られるように世界のバランスが崩れ、俺達悪魔も復活して行く」
召子が話を遮ろうと悪魔に接近戦を仕掛けるが、これをいなしながらも更に話す口は止まらない。
「親が、子供が殺されて行く中で人間達がその事を知ったらどう思うだろうな?
俺達悪魔を恨むか?いや、違うな。
人間達の心は弱い。
身近なお前を憎み、俺達悪魔は手を下すこともなく勇者であるお前は責任を取らされるだろう。
弱き者を救う為に戦っていたはずのお前は、弱き者達に殺されるのだよ。勇者ァ!」
「私のせいで…」
ここでレルゲンが攻めあぐねている召子に加勢しに行こうと一歩前に出るが、マリーが手で静止する。
「待ってレルゲン。もう少しだけ」
召子は悪魔の腕を弾き、魔力を拳で固めて飛ばす一撃を上体を逸らしながら躱しまた聖剣で斬り込む。
悪魔は硬い腕を利用して剣を弾き、弾き損ねて腕が裂けると瞬時に腕がくっ付いて再生すると、
また召子に向けて魔力の籠った一撃を放つ。均衡状態が暫く続いていた。
召子は攻撃の手を緩めることなく、悪魔に向かって高らかに宣言する。
「私はここまでどうして苦しい思いをしてまで勇者をやっているかはわからなかった。
でも、今は向こうで私の勝利を信じてくれる人達がいる。
元の世界で私を待ってくれる人達がいる」
聖剣がチカッ、チカッと光を発しながら、召子の気持ちの変化に反応を見せ、尚も召子は続ける。
「私のせいで、これからあなた達に殺される人もきっと沢山いる。
でもそれは私が先だとか、魔王の復活が先だとかは、多分関係ない。
今、幸せに暮らしている人達の未来を平気で奪ってしまうあなた達を止める気持ちこそが、勇者である私に期待されていることだと思うから。
だから私はあなた達を止めるよ。
どれだけ戦う相手が強かったとしても」
召子の思考に引っ張られるように聖剣が白く、温かみのある光を発すると
それまで防げていた一撃でも完全に防ぎきれなくなってゆき、悪魔が一旦距離を取る。
(聞いていた話とは全くの別人だな)
悪魔の頬を汗が伝って行く。
(自分の世界に帰る事しか頭にない勝手な人物だと聞いていたが、魂がこの短期間で随分と成長していると見える)
召子は徐々に身体が軽くなっていくような不思議な感覚になり
少しずつではあるが悪魔を押している実感があった。
(私が負けてもまだレルゲンさんが、皆さんがいる!ここは守りよりも攻め!)