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 現在、私の屋敷でフィオナとお茶をしている。


 婚約はあの後、すぐに決まった。 私の母が大賛成したのだ。 お兄様達も、トワだし……という感じで最後には賛成した。 お父様だけは、最後まで泣いていたが、母が説得した。


 そして、婚約して一番変わったことがあった。


 毎日、トワが私に会いに来るのだ。 花を一輪だけ持って。 毎回、違う花なのだが、昔、私が可愛いと言った花をプレゼントしてくれるのだ。


 そして、私に会うと、蕩けるように、嬉しそうに笑うのだ。


「エレイン。 今日も会えて嬉しい。 昨日の君も可愛いけど、今日はさらに可愛いね」


 と、今までなら絶対に言わない言葉を吐くのだ。 それも、胸焼けしそうなほど、砂糖よりもドロリと甘く重たい声色でだ。


「このままでいいのかな?」


「どうしたの?」


 目の前に座るフィオナは心配そうに私を見た。


「トワと婚約したじゃない?」


「そうね。 毎日、浮かれているお兄様……正直、うざいわ」


「……ごめんね」


 私が謝る理由はわからないが、とりあえず謝っておく。


「でも、それがどうしたの? お兄様が何かした?」


「ううん。 毎日、会いに来てくれるし、花もプレゼントしてくれる。 それに……私のことを可愛いって……」


 彼のことを話すと恥ずかしくなって、モジモジとしてしまう。


「エレインは可愛いよ」


「……ありがとう」


「もう! エレインは可愛いの!」


 本当にこの兄妹は私のことをどう見えているのだろうか?


「……今まで、違う人のことを好きだったのに、こんな簡単にトワのことを好きになっていいのかな?」


 今まで、トワではなく、色んな人を好きになった。 告白された時もだ。 少し前に好きな人がいた。 それなのに、告白されたから好きになったっていったら……。


「…………普通にいいと思うよ。 それに……エレインは昔からお兄様のことが好きじゃない」


「えっ⁈」


 フィオナの発言に驚きを隠せない。


「ふふ。 前に魅了の力を話したことを覚えている?」


「うん……」


「エレインは私の魅了の力も効かなかったから、私の運命の相手なんじゃないかって思ったでしょ?」


「そうだね……。 フィオナの魅了の力も私に効かなかったから、フィオナもそうなのかなって?」


「ふふ。 そうだよねー。 でも、それは違うの。 運命の相手には、ヴィスト家は執着するのよ。 私もエレインのことは好きだけど、それは……友愛。 束縛したいとか、閉じ込めたいとかって気持ちじゃないの。 エレインには幸せでいてほしいって気持ちなの。 それが運命の相手かどうかの規準」


「執着……」


「それに、力が通用しないのは当たり前。 他のヴィスト家の力が通用したら、嫉妬から運命の相手は殺されちゃうから。 運命の相手だと認識した瞬間に他の人間の力は作用されないの」


「へっへえ……」


 とんでもない発言に顔が引き攣りそうになるのは仕方がない。


「あっ! エレインがお兄様のことを好きだったって話よね。 お兄様は気づいていなかったけど、エレインは昔からお兄様を目で追っていたのよ。 酷い言葉をかけられてもね」


「えっ……」


「だから、振られても、そこまで落ち込まなかったのよ。 だって、本当に好きなわけじゃなかったんだから。 すぐに好きな人を作るのは、無意識にお兄様のことを吹っ切れたいから」


「そんなに……目で追ってた?」


「うん! 屋敷のみんなに分かるほど」


「ええ⁈」


 恥ずかしい。 顔を隠すように手で顔を覆った。


「でもね。 エレインに好きな人ができる度に大変だったの」


「えっ?」


 フィオナの言葉に顔をあげた。 それを見た彼女は笑った。


「だって、エレインのことを大好きなお兄様は、自分だけを見てほしいのに、他に視線を向けるものだから、いつも嫉妬していたの。 だから、その相手に毎回会いに行って、魅了の力を使おうとしたり、事故に見せかけて排除しようとしたの……」


 フィオナは困った、困ったというように手を頬に当てながらため息を吐いていた。


「だから、お兄様が事件を起こす前に私が動いたの」


 そう言った彼女はにっこりと笑った。


「エレインの好きな人にわざわざ会いに行って、円満に振ってくれるように頼んだの」


「…………えっ?」


「本好きの彼は本当に困ったわ。 あんなに嫉妬に狂ったお兄様を抑えるのが大変で……。 前までは私に紹介してくれていたから、前もって対処できたけど、今回は本当にギリギリだった」


 遠い目をしながら話すフィオナもいつもと違っていた。


「だから、今更……お兄様と婚約しないと言ったら……大変なことになるから、やめてね。 それに、大好きなフィオナと姉妹になれるのだから、私の楽しみも奪わないでほしいわ!」


 私の手をとって、にっこりと笑う彼女は可愛い。

 だが、先程の話の内容が衝撃的すぎて、苦笑いするしかなかった。


「エレイン。 こんなところにいたのかい?」


 フィオナとお茶をしていると、件の彼がやって来た。


「エレイン」


 だが、彼はフィオナが見えていないのか、私だけに視線を向ける。


「今日も可愛いね。 可愛い君に会えて、僕は嬉しいよ」


 そう言って、花を一輪プレゼントしてくれる。


 フィオナは呆れたように彼を見るが、私は先程の話を思い出したが、彼を見たら、そんな話などもう、どうでもいいやと思えるほど、彼に絆されているようだ。


「私も……嬉しいです。 ありがとうございます。 トワ」


 椅子から立ち上がり、花を受け取った。 そして、彼の目の前に立って、背伸びをした。


「エレイン」


 驚いた彼の唇に自分の唇を軽く合わせた。


「えっ? ええ⁈」


 彼は驚きから、手で口元を押さえて、耳まで真っ赤に染まっていた。


 私はそんな彼の様子に声を出して笑った。


「ふふっ」


 そして、悪戯が成功した子供のような顔をした。


「トワ」


「……エレイン」


「今まで、一回も言ってなかったけど……」


「うん……」


 あれ? 心臓がドキドキと高鳴って、声にならない。 今までの好きな人にはすぐに告白できたのに……。


「エレイン?」


 落ち着きを取り戻したトワの瞳に私がしっかりと写る。


「トワのことが……すっ……すっ……」


「エレイン?」


「すっ……すっ……好き……」


 とても小さな声になってしまった。 彼の耳に届いているだろうかと不安になった。


「えっ……ええ⁈」


 だが、そんな心配は杞憂だった。

 彼はさっきと全く同じように、口元に手を当てて、耳まで真っ赤に染まっていた。


「エレインが僕を好き……? 夢じゃない……よね?」


 その様子が可愛くて、私は彼の胸に抱きついた。


「トワ! 私のことを好きになってくれてありがとうございます。 私も貴方が……大好きです」


「……っ!!」


 ゆっくりと、私の身体に腕を回した。 そして、私の存在を確かめるように、ギューと強く抱きしめた。


「僕も……僕も、エレインが大好き。 世界で一番、君を愛している。 もう……離さないからね」


「うん……」


 そして、ゆっくりと顔を見合わせて、二人の瞳にはお互いしか写っていない。


 段々と顔を近づけて、口と口が合わさりそうになった瞬間に声がかけられた。


「私がいること……忘れてない?」


「きゃっ!」


 私だけが驚いて、彼から距離を取ろうとしたら、私の身体から腕が離れなかったため、距離が取れなかった。


「トットワ!」


 彼の背中を叩くが、一向に離れてくれない。 それどころか、ギューと抱きしめたままだ。 そして、私の肩に顔を埋めた。


「ごっ、ごめんね……」


 トワが離れないので、フィオナに謝った。


「……まあ、いいよ。 仕方がないもん! エレイン! お兄様が何かしたら、いつでも言ってね!」


 それだけ言うと、フィオナは席をたった。


「トワ」


 名前を呼ぶと、肩から顔をあげて、私を見つめた。


「エレイン。 好き。 大好き。 愛してる……世界が二人だけだったら、いいのに……」


 どろりと甘く重たい言葉を吐く彼を、私も見つめた。


「私はみんながいる世界が好きです。 だけど……気持ちは嬉しいです。 私も……トワのことが、好き。 大好き。 愛してます」


「エレイン……」


 彼が蕩けるような笑みを浮かべる。


 私はそんな彼が愛おしくなって、背伸びをして、彼の唇に自分の唇を合わせた。


 彼は一瞬だけ、目を見開いたが、すぐに私の唇にかぶりついた。 深くなる口付けに息が苦しくなる。


 だが、それと同時に嬉しくなった。


 トワ……私を離さないでね。


 やっと、唇が離れた時には息が絶え絶えになっていた。


 だが、私を見つめる瞳が甘くて、嬉しそうに笑うので、私も自然と笑ってしまった。


 そして、甘々な婚約期間が終わって、私達は結婚した。

 勿論、その間にトワとお兄様が揉めたり、フィオナとトワが揉めたり、と様々なことがあったが、無事結婚することができた。


「エレイン。 愛している」


「私も……愛してます」


 最悪の出会いだったけど、この麗しい兄妹に出会えたことに感謝している。


「可愛い……」


 彼は、毎日のように私のことを可愛いと言ってくれる。

 例え、他の人には私のことが可愛く見えなくても、愛している彼に可愛いと思ってもらえるなら……大丈夫。


「絶対に離さない」


 例え、嫉妬からベットの上から一日中出してもらえない日があるほど、彼から重たい愛をぶつけられてしまってもだ……。


「トワ……大好き」

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