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「一日勇者になろう!」 ~吟遊詩人(アイドル)の私が一日で魔王討伐まで目指す話。い、一日だけなんだからね!~ 3話

<前回までのあらすじ>


 私、エリナ・ルウ・アメリア、十六歳。地方都市で吟遊詩人アイドルやってます!

 今日は王都のイベントで、『一日勇者いちにち ゆうしゃ』をやることになったんだけど……。

 勇者にしか抜けない聖剣を握ったら、本当に抜けちゃって大慌て!

 でも、私はプロの吟遊詩人アイドル。契約は守るよ。

 今日一日は『勇者』をやりきってみせるんだから!


 こうして仲間集めを始めた私とロイ王子。

 最初に加わったのは、ロイ王子の妹のロザリアちゃん。

 そしてロイ王子には、次の仲間の心当たりもあるみたい?


 果たして次の仲間とは、どんな人物なのか?

 残り時間内で本当に魔王討伐ができるのか?


 だけど何をどう言われたって、私が勇者をやるのは、一日だけだなんだからね!



* * *



【王国時間 11月15日 15:00(残り18時間30分) 】



「エリナ、大丈夫ですか?」

「だ、だ、だ、だいじょばないぃぃー!」


 目の前の景色が、ものすごい速さで流れていく。

 今乗っているのは空飛ぶドラゴン、飛竜。それもかなり大型で人が何人も乗れるタイプの子。

 飛竜は翼をはためかせながら、王都から南に向かって空を飛んでいた。


 飛行速度が尋常じゃなく速くて、全身に風がすごい勢いでぶつかってくるよ。

 振り落とされないために革の帯で体を固定しているんだけど、それがなかったら……なんて、考えるだけでコワイ。


「でも、素晴らしい景色でしょう、エリナ!」


 手綱を握ったロイ王子が振り返る。


 ヤダ、こっち見ないで!

 風圧で髪の毛も乱れまくりでひどい感じになってると思うの!

 直したいけど直してもムダだし、何より必死過ぎて髪にかまってる余裕がないんだから!


 だけど私の腰にしがみついてるロザリアちゃんは歓声なんてあげてる。


「エリナお姉さま、すごぉいです! ほら、下! 森がじゅうたんみたいです!」


 もうもう! この兄妹、どうしてこんなに余裕があるのよ!


「エリナ、目的地が見えてきましたよ」

「どこ? 雲しかないよ?」

「はい、目的地は雲です」

「ええええ?」


 確かに前には、立ちはだかるような大きな雲があった。


「僕はあちこちに連絡して、大きな雲をずっと探していたんです。今度こそ間違いありません。あの雲の中に『雲竜の館』と呼ばれる場所があるんです!」


 ロイは手綱を引いて飛竜の飛行方向を微調整すると、その雲に入った。

 視界が一気に真っ白になって方向感覚がマヒするけど、ロイは分かってたみたい。

 だって目の前が開けたかと思うと、唐突にお屋敷が現れたんだもん。


 その館は、びっくりするほど大きかった。王都のお城にも引けを取らないと思う。

 しかも館の周りに広がる庭園には色とりどりの花が咲き乱れていて、その中を蝶が舞っていたりもする。

 雲の中に、こんなところがあるなんて。なんだかすごく幻想的というか、夢みたい。


 ポーっとなって見ていた私だけど、ふと気がついた。

 周囲にはベ―ルのような雲が幾重にも重なり合ってる。


「ロイ。もしかしてあの表面にかかっている薄い雲みたいなのって、結界?」

「そうです、そのまま突入しても跳ね返されるだけですね。ですから魔力の薄いところを探して、飛竜の速度でなんとか突破します」

「ふうん……」


 確かにこの結界はかなりの魔力だと思う。でも――。


「そんなことしなくても、聖剣で切れるんじゃないかなぁ」

「……エリナ?」

「え? あ、あれ?」


 今の、何? 口から言葉が勝手に……。


「な、なんて。さすがに無理だよね、あははは」

「……なるほど。試しにやってみますか?」

「いや、あの、本気で言ってる?」

「はい」

「エリナお姉さまなら、きっと切れます!!」

「ロザリアちゃんまでっ?!」

「あくまで試しですから、気楽にやってみてください。駄目なときは次の方法を考えますので」

「え―とじゃあ……わ、わかった」


 私は聖剣を抜いて集中してみた。

 ……館の周りの魔力が分かる。

 流れに沿って、呼吸を合わせて……。


 よしっ! 


「いっけぇぇぇぇ!」


 思いっきり振り下ろすと、聖剣から放たれた光が一直線に伸びる。

 そして、目の前の雲に亀裂が広がって、パリン! って何かが割れるような音がした。


 すかさずロイが飛竜を操って、隙間に突入した。そのまま庭園の芝生にドサリと落ちる。

 私とロザリアちゃんは、なんとか振り落とされることなくその背に乗ったままだったんだけど……ロイだけはポ―ンって向こうに投げ出された。

 ここで決まってたらカッコよかったのに。ううう、なんだか“残念”なのが、残念。


「ロイ! 大丈夫?」


 声をかけたけど返事がない。

 私の顔から一気に血の気が引いた。

 もしかしてどこかケガした? 気を失ってる?


 飛竜の鞍についた帯を外して、慌てて駆け寄ると、ロイは小さな声で何かを言ってる。


「……ロザリアのときといい……どうして……。記憶が引き継がれているのか……いやそれはありえない……」

「……あの、ロイ? 大丈夫……?」

「ああ、エリナ」


 ロイが体を起こしてにっこり笑う。


「ちょっとお尻が痛いですが大丈夫です。それにしても、さすがですね! まさかあの結界を本当に切ってしまうとは!」

「エリナお姉さま、すばらしかったです! まるでおとぎ話に出てくる女勇者みたいでした!」

「え、あ、ああ、あは、あはは」


 自分でもびっくりだよ。なんで『切れるかも』って思ったんだろう。


「さて」


 ロイは立ち上がって、庭園を見回す。


「まずは、『館の主』に挨拶をしないとですね」

「館の主?」

「ええ。この『雲竜の館』の主人が、私達の新しいメンバ―候補です」

「そ、そうだったんだ……って、結界壊したら怒られるんじゃない?!」

「いえ、むしろ歓迎されると思いますよ、ほら」


 ロイが指さす先には、大きなお屋敷。

 庭園を抜けた先には両開きの大きな扉があるんだけど……。

 その扉がゆっくりと開いたかと思うと――中から一人の男性が出てきたんだ。


「その顔はロイ、か? お前、結界が張ってあったの見えなかったのか?」

「やあ、久しぶりですね。ベアル」


 現れたのは、大きな帽子を深くかぶった男性だった。 軍服っぽい服の上に黒いマントを羽織っていて、腰には剣が下げられている。

 そしてその手には大きな槍まで。な、なんだかすごい人が出てきたっ?!


「“久しぶり”じゃねえ! なんで結界破ってきてんだよ? 俺は、お前とはもう敵同士なんだ!」

「まあそう言わずに。中に入れてくれませんか? 大事な話があるのです」

「ふざけんな!」


 やっぱり、めちゃめちゃ怒ってるよね。

 よ、よし。ちょっと怖いけど、結界を壊したのは私だし。ちゃんと謝ろう。


「初めまして、ベアルさん。私はエリナ・ルウ・アメリアと言います。あの――結界壊しちゃってゴメンナサイ!」

「ああ? って……エリナ……」


 いきなり私を見るベアルさんの目が変わった。

 さっきまでの怖い感じから、急にキラキラした目に……。


「……おいおいおい、待ってくれ。ウソだろ…… “ホユ―ニアの天使”エリナちゃん……だ……なんでこんなところに……」

「えっ?」

「ゆ、夢を見てるのか俺は……」

「あはは、がっつりはまってますね」


 ロイがさりげなく私とベアルさんの間に割って入る。


「エリナ。彼はね、誰かさんの大ファンなんですよ」

「そ、そ、そ、それは、お前が……いや……まあなんでもいい……とにかく今の俺は幸せだからよ……」

「ちょっと! お兄さまも、そこのクソ雑魚のキモヲタも、お姉さまに近づく権利なんてないんですけどぉ?」

「なんだこの小娘? 俺はこの手の属性には興味ないんだよ!」

「とか言って私のこともジ―っとみちゃってるし、きも―い!」

「見てねぇ!」


 王子は苦笑して、ロザリアちゃんは何故かベアルさんに対してめちゃくちゃ怒って。

 変な展開だけど……でも、でも。


 ……なんだか、懐かしい……。


 ううん。じゃ、なくて!


「あの、それで……ロイ。ベアルさんが、私たちの勧誘したいお仲間であってるよね?」

「そうですね。彼ならきっと、アナタの力になってくれるでしょう」

「おい、ちょっと待て。ロイ、何の話だ……ああ、でも、推しの頼みならなんでもしますけどね、俺!」

「ね?」


 ねって、何が?


「エリナ。屋敷の中に入れてもらえるよう、ベアルに頼んでもらえませんか?」

「えっ、私が?!」

「はい。ぜひお願いします」

「ああ? 俺の屋敷に入るだとぉ?」


 ベアルさんの目がまた怖くなったけど……これ、大丈夫なのかな。

 でも確かに、このままじゃ話もしにくいし……。


「あの、ベアルさん。よければ、私たちをお屋敷に入れて頂けたり……しませんか?」

「は、はい! 推しの頼みでしたら喜んで! どうぞ! こちらです! 大歓迎!」


 ……本当に入れてもらえちゃった。



* * *



「どうですか、この部屋!」

「どうって……えーっと……すごいですね?」


 私たちはベアルさんの案内で、お屋敷の奥にある部屋に通されていた。

 屋敷内は、まるでお城の中みたいな豪華な内装だったんだけど――。この部屋の中はポスタ―やグッズが所狭しと並べられていて、すごいことになってる。

 あ、あれって……私のフィギュア?! あんなの出した覚えないよ? しかも何体も並んでるし!


 ちょっとびっくりするけど、でも、こんなに推してくれてるんだから、素直に喜んでいいのかな……。

 って、そんなことはあとあと! 時間が無いんだから!


「あの、それで……ベアルさん」

「はい、なんでしょう?」


 私は改めて姿勢を正して、ベアルさんと向き合う。


「私たちに力を貸してもらえませんか? 一日だけでいいんです。私 “一日勇者”なので!」

「ゆ、勇者だって?!」


 ベアルさんは呆然とした様子になる。


「……ってことは、その腰に下げてるのは、本物の“聖剣”……」

「え―っと……はい、本物です。王都でのイベント中に何故か抜けちゃって。それで私は、魔王討伐の旅にでることになったんです」


 改めて考えたら、なんか変な話だよね。

 だけど本当だから仕方ないし。

 とにかくベアルさんをパ―ティメンバ―として……。


 ――あれ?


 そういえば、どうしてロイはベアルさんを仲間にしようって思ったんだろう?

 もともと知り合いみたいだし、強そうだし。だからなのかな。


 うん、きっとそうだね。

 納得した私はベアルさんに手を差し出す。


「どうかベアルさん、一緒に来てください」

「ひとついいかな」

「なんでしょう?」

「その一日勇者っていうのは、吟遊詩人アイドルがよくやる、一日○○みたいなやつ?」

「はい。でも一応、ロイ王子と話して魔王討伐まで行こうかと。あははは……無謀ですかね?」


 ベアルさんは手を顎に当ててしばらく考え事をしてから、ロイを睨みつけた。


「なるほど、状況は大体わかった。……ロイ! 何考えてやがる!」

「何……とはどういうことでしょう?」

「とぼけんじゃねえ! 全部分かってて彼女を巻き込んだろ! おまけに魔王を討伐する? お前……自分が何を言ってるのかわかってるのか!!」

「もちろんです」

「てめぇ!」


 ベアルさんはすごい剣幕でロイの襟首をつかんだ。

 でも、ロイは動じることなく、ニッコリ笑っている。


「そんなに興奮すると、推しの前で帽子が落ちますよ?」

「馬鹿野郎、 そんな状況じゃねぇだろ! いいか、ロイ。この二百年間、魔族は一度だって人間の国に侵攻してない。それはアイツが今も……!」

「分かっています。ですが、何もしなければ何も変わらない。アナタだってそう思ったからここにいるんでしょう?」

「それは……だが、こんなのは間違ってる!」

「例えそうだとしても、彼女は聖剣に選ばれたんです」

「……くそっ!」


 ベアルさんは襟首から手を離すと、苦しそうな表情でうつむいてしまった。

 そのとき、一歩前に出たのはロザリアちゃん。


「なんだかわからなけど、お姉さまが誘ってるんだから、ごちゃごちゃ言ってないでメンバ―に加わりなさいよっ!」

「はぁ? お前、何言って――」

「ロザリアちゃん、ストップ! ベアルさんは多分、何か事情があるんだよ」

「でも、お姉さま!」


 ロザリアちゃんは腰に手を当てながら、ベアルさんを睨みつけている。

 そんなロザリアちゃんを見て、ベアルさんは顔を引きつらせた。


「ちょ……まさか、このガキ……あの時の……」

「な、なによ?」

「……そういうことか! ロイ、お前、本当にこんな計画が成功すると思ってるのかよ!」

「ええ。アナタが協力してくれれば、ですけど」

「あ―そうかい、じゃあ協力なんかしねえ!」


 ベアルさんは部屋を出ていこうとしたんだけど……。


「おや、いいのですか? “アナタの大好きな推し”が危険な目にあったとしても、問題はないと?」

「……ぐぬぅ! てめぇ……」

「ほらほら、アナタの大好きなエリナちゃんが一緒に冒険したいと言ってますよ?」

「えっ? い、いえいえ、なんだか事情がありそうなので、無理しなくて大丈夫なので……」

「……あああああ!」


 ベアルさんは帽子を深く被りなおしながら、大きくため息をつく。


「わかったよ、仲間に加わってやるよ……」


 そして改めて私の方に向き直ると、突然顔を近づけてきて耳元でささやいた。


「あいつ……ロイの言葉は信用するな……」

「へ?」

「いや、なんでもない。とにかく、君は俺が守る。四天王の誇りにかけて……いや、一生を誓った推しだからな!」


 そう言って、ベアルさんはドンと胸をたたいた。

 なんだかよくわからないけど……とりあえず、一緒に行ってくれるってことでいいのかな?



* * *



【王国時間 11月15日 16:30(残り17時間00分) 】



「……ついに動き出した……」


 私は頬杖を突きながら、水晶に映る映像を眺める。


「あなたの不器用さったら、二百年前と変わっていないのね。ふふ、懐かしさすら覚えるわ」

「魔王様、これからいかがいたしましょう?」


 呼びかけられて私は振り返る。


「そうね。とりあえずは様子見よ」


 言いながら私の胸は期待で高鳴ってくる。

 ああ、この二百年は、本当に長かった……。


「今度はどんな喜劇を見せてくれるの? 楽しみにしているわよ、『勇者殺しの呪いを受けた者』ロイ!」

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