浮気され婚約破棄されたので魔法銃をぶっ放しました
優雅な五つ星ホテルのスイートルームで、第一王子ランスと婚約者ベルタが仲良く軽食をつまむ。そんな予定調和なティータイムは、今や見る影もない。そこにあるのは、王族の威厳もへったくれもない未曾有の混沌だけだった。
「いやぁぁぁ!? また私ぃぃ!? 足、足が腫れて……!」
床に転がる浮気相手のアニータが、本日二度目の悶絶を披露する。彼女の5倍に膨らんだふくらはぎからは、膨張性の魔力を含んだ弾丸による紫の煙がもくもくと上がっていた。
「ぁあ!また外してしまったわ!ごめんなさいね、あなたに当てるつもりは無かったんだけど、思ったよりもこのハンドガンが重いものだから。さぁ!次は当てるわよ」
ベルタは脇をしっかりと締め、その細い両手でハンドガンを持ち直し銃口をランスへと向けた。
「やめろやめろ!こっちに向けるな!何だそれは?!新手の魔法杖か?!」
「杖だなんて古いですわ。これは我がチャカスキー家が開発した新作のリボルバータイプの魔法銃ですのよ」
「り?りぼ?銃だと?!」
「あーらご存じない?時代遅れもいいとこですわ」
ランスは家具を盾にしながら悲鳴をあげるアニータに近づいていく。
「今までのような杖では魔力量や魔石の品質に左右されてしまいますけれど、これなら魔弾丸をこめるだけで誰でも扱えますの。杖のように出来るだけ小型化して、婦人でも持ち運べるをコンセプトにしました。1.5kgしかないのです。しかも連続で発射できるので、外れてもまだ大丈夫なのです」
「そんな物騒なものがあるのか?!ひぃっ!」
パァッンと小気味良い音が響くと当時に、ランスとアニータから悲鳴が上がった。今度も彼女に命中した。右腕から緑の煙があがり、みるみるうちに腕が小枝のように細く小さくなった。
「ひぃぃっ!もうやめてぇ!!ランス助けてぇ!」
「すまないっ!」
「あらあら、エイムが悪くてごめんなさい。ランスを狙ったのに。なぜそっちにあたるのかしら。やっぱりまだ重すぎるわね。軽量化は最重要項目だわ。次は確実にいきます。お覚悟!」
「いや、ワザとだろう?!俺を取ったアニータが憎いんだろう?ベルタ、君の愛は充分わかったからそれを下ろすんだ、やめ、うわぁぁ」
ベルタの発砲は弾切れまで続いたが、逃げ回るターゲットにはかすりこそすれ、直撃することは無かった。
のたうち回るアニータには3発くらい偶然当てられてはいたが。
ベルタは魔弾丸を充填しながら怯えるランスにイライラしていた。
「愛だなんだと勘違いなさらないで。もうとっくの昔に枯れました。自分のクソエイムが忌々しいですわ!そもそも逃げないでくださいまし!すでにあなたの拘束の許可はおりていますの!」
「なっ?!俺は第一継承権を持つ王子だそ?!何故そんな許可が降りる?!ありえないだろ!」
「まだわからないのですか?そのニセ聖女にのめり込んだ上に婚約破棄を言いだすだなんて」
「ニセ聖女?アニータうそだろ…ゴホゴホ、しかしなんだこの気色の悪い煙は」
ランスは複数の銃弾を浴びて息絶え絶えのアニータを守るように抱きしめようとするが、被弾箇所からの煙が凄くて近寄れなかった。
「気色の悪いですって?!パステルカラーでラメ入りなのに?!こだわりカラーなのにっ!」
「ひぃ?!」
ベルタはのたうち回るアニータを一瞥もせず、発砲した。
その表情は、婚約破棄を突きつけられた女の絶望ではなく、作品をバカにされた作者の顔、あるいは使い心地を懸命に分析する開発者のそれだった。
「その女は隣国のスパイですの。危うく国家存続の危機でしたわ。さらに、私を疎かにするということは、国に代々仕えてきたチャカスキー家への侮辱とみなされました。武器生産を家業としている我が家への不当な扱いは許されざることです。だから今、ついでに新作の婦人向けハンドガンを試しているところです。さぁ撃たれなさい」
ベルタはサングラスをつけ、改めて冷静に構え直す。
標的はランスの心臓だ。
放たれた銃弾は、ベルタの細い腕を無慈悲に跳ね上げ、弾道は天を仰ぐ。そのまま豪華なシャンデリアのチェーンを鮮やかに切断した。
「……あ」
「あ、じゃないだろぉ!!」
跳ね上がった弾薬が奇跡的にシャンデリアの破片に反射し、屈折。その弾丸は、逃げようと腰を浮かせたランスの、ちょうど眉間のど真ん中を正確に射抜いた。
次の瞬間、彼の全身から、直視不可能なレベルの七色の光が爆発的に噴き出した。
「う、うわああああああ! ま、眩しい! 眩しいぃぃぃ!」
「やっと当たりましたわ!これは無傷なまま過剰な光量で視界と行動を完全に封じる魔法ですの。効果の種類を知らせる発煙もバッチリですわ」
歓喜をあげるベルタをよそに、ランスは人生初めての屈辱を味わっていた。
自分の体が放つ強烈な輝きで目が眩み、恐怖で叫びを上げながらその場でのたうち回った。その様は、まるで部屋の中で暴れ狂う人間ディスコボールのようだった。
そこへ、重厚なブーツの音が廊下に響き渡った。
「そこまでだ、ランス殿下! 国家反逆および不当な契約破棄の疑いで、拘束する!」
踏み込んできたのは、ベルタの実家であるチャカスキー公爵家が誇る、特殊魔法部隊の面々だ。彼らは全員、ベルタが事前に配布していた「特殊光の遮光100%の特製サングラス」を装着していた。
「ベルタお嬢様、お見事です。実験データの回収を」
「ええ、隊長。これからいつまで光るか分からないからサングラスは外してはダメよ。……ああ、ランス。言い忘れていましたわ」
ベルタは光輝く元婚約者を見下ろし、スカートの裾をつまんで優雅に一礼した。
「貴方は私のことを『刺激が足りない』とアニータに言っていたそうですね。ですから、これからの貴方の人生には、一生分の刺激をプレゼントして差し上げますわ」
後日。
第一王子ランスの籍は抹消され、彼はチャカスキー武器研究開発所の最深部へと送られた。
そこでは日々、チャカスキー家が開発する絶対に死なないが、死ぬほど恥ずかしいといった類の新型魔弾薬の、安全性テストが行われている。
実験体として、彼が七色に光りながら絶叫する姿が見られるという。




