第六話『再会』
予約投稿ができていないことに、今気づいた。
「ふぁぁぁ……良く寝た」
風呂からでたあと疲れていたのか過ぐに寝落ちてしまった。
目を覚ますと簡素な机とベットそれから黒い弓が目に入る。
どうやら昨日家で目を覚ましたへやが僕の部屋だったらしい。
机と弓とベッドしかない部屋ってどうなんですかね?
「確か今日はギルドに行く予定が……今何時だ?」
眠い目をこすりながら一階へ降りようとベッドまで向かおうとする。
「おはよう、起きたかい?」
隣からミコトの声がした。
「!!?……お、おはよう!」
「朝ごはんもう出来てるよ」
何事も無いかのように一緒にベッドから降りて扉まで向かうミコト。
え?なにこれ?どういう事?
寝起きの頭をフル回転させて昨日のことを思い出してみる。もしや一夜の過ちが……
いや、ない!何もなかった。
すぐ寝たし。
「なな、何でふちょ、布団の中に……」
考えても答えが出ないので混乱で舌を噛みまくりながらも理由を聞く。
「……てへっ」
「???」
帰ってきたのは何とも可愛らしい間の抜けた一言だけだった。
「パパ起きたー?」
「姉ちゃん声大きい」
僕が放心状態になっていると部屋の外から子供たちの声がする。
扉の外からオウカの元気そうな、対してモミジはまだ眠そうな声が聞こえてくる。
「おはよう」
扉を開けると制服を着た子供たちが待っていた。
「これから二人を学園まで送って行くんだけど一緒に来るかい?」
そんなことを提案される。
「え?……でも」
大丈夫だろうか、恐らく僕一回も行ったないよね?
変な目で見られるのではないだろうか。
僕はあんまり気にしないが子供たちに何か都合の悪いことが起きてしまうのは許容できない。
「一緒に行こー?だめ?」
そんな心配をしているとオウカが上目遣いでおねがいをしてくる。
「ふぐっ……じゃ、じゃあ行ってみようかな」
「やった!」
そう答えると子供たちは嬉しそうに部屋から出て行った。
「危ないな、恐ろしく攻撃力の高いお願いの仕方……僕でなければ抱きしめていた……」
「なに言ってるんだい」
ミコトとそんなやり取りをしながら一緒に階段を下りる。
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「よし!じゃあ早くご飯食べなー」
僕の前にお味噌汁と焼き魚が出される。
「いただきます。……うまぁ!」
何だこの魚!今までに食べたことのない美味しさだ。
何の魚だろう……
そう考えて、昨日の夕飯がフラッシュバックする。
果たしてこれは本当にただの魚なのだろうか?
……いや、やめようこれ以上は良くないな。
湧きあがって来た疑問を無視して僕は朝食を済ませる。
「そういえば親父とレンは?」
朝から二人の姿を見ていないな。
昨日、親父もレンも用事があるって言ってたし、もう出かけたのだろうか?
「レンは仕事にオウスケさんはもう探索者ギルドに準備に行ったよ。学園の隣がギルドだから子供たちを連れていく次いでに僕達も行こうか」
そうして僕は子供たちの学園までついて行くことになった。
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「ここが学園?思ったより大きい……いや、デカすぎない?」
目の前には帝都の城門まで続く壁と巨大な門がそびえ立っていた。
「学校はこの中だよ。ここは帝国学園って言って、学力をつけるだけじゃなくて探索者や騎士、魔法使いを育成して輩出する学校なんだよ」
「……覚えてないな」
これだけ存在感があるなら覚えてそうだが残念ながら記憶には残っていないようだ。
それにしてもデカいな……もしかしたら帝都の城壁と同じ位の高さなのではないだろうか?
「帝国学園は保育園から大学院まで一貫して進学出来て、この門の向こうは全部学園の敷地内なんだ。飛び級もできるし授業で依頼を扱ったりするから探索者ギルドが学園の向かいに立ってるんだよ。他にも……」
「ママはやくー」
「遅い」
ミコトの説明が長くなりそうなのを感じ取ったのか子供たちが僕たちを急かす。
「あ、お母さん!おはようございます」
学園内に入ると眼鏡を掛けた女の先生が挨拶をしてくれた。
「おはようございます」
「あら、妹……失礼しました、弟さんですか?」
あれ?今妹って言ったか?
……っていうか、弟でもないし。
「夫です」
ミコトがさらっと答える。
「あらそうなんで……え?いや十七、十八歳……え?」
先生が二度見してくる。ちょっと待ってくれ、そんなに驚くか?
「一応二十三歳です」
「す、すみません。その、とてもお若く見えたものですから」
先生は恥ずかしそうに頭を下げる。
僕ってそんなに若く見えるのかな?
「それで同意書は持って来られましたか?」
「はい、これです。今日はお願いします」
ミコトが何かの紙切れを渡し、頭を下げる。
「?」
渡すときにミコトが少し申し訳なさそうにしていたのが気になった。
一体何の同意書なのだろうか?
「はい、確認しました。モミジさんとオウカさんは保護者の振りをして探索実習の同意書にサインした前科がありますからね。今回はきちんと許可を取って来れて先生は嬉しいです」
先生はそう言って二人の頭をなでる。
「あはは……まだ覚えてたんだ」
「ごめんなさい……」
二人は気まずそうに顔を背ける。
「探索実習?」
「あれ?昨日話してなかったっけ?」
僕の疑問にミコトが反応する。
そういえば夕飯を食べ終わったときにまだ話したいことがあるとか言っていた様な……もしやこれの事だったのだろうか?
「今日は探索実習なんだよ!ベテランの探索者の人が引率してくれてクラスのみんなで外にってモンスターの討伐や薬草の採取をするの!」
「姉ちゃんモンスターの討伐はまだ先だよ。今日は薬草の採取と地形の把握だけ」
どうやら、帝都の外に出て探索者のように実習を行うらしい。
ベテランの先生がついてくれるようだし安心だろう。
「そろそろ時間かな。マコトもう行こうか」
「わかった。じゃあ二人とも頑張ってね」
どうやら時間が来たらしい。これから実習があるらしい二人に応援を送り背を向ける。
「学校の向かいにギルドがあるんだっけ?」
「そうだよ。そろそろギルドが開く頃だから込む前に行こうか」
僕とミコトは先生に軽く挨拶をして学校から出ようとする。
「パパ!」
後ろからオウカに呼び止められる。
未だにパパと呼ばれる事にどこか慣れていなかったのか、振り向くまでに時間がかかってしまった。
「お迎えも来てね!」
「ちょっと姉ちゃん離して!!?」
オウカがそばに立っていたモミジを巻き込んでいってらっしゃいのハグをしてくれる。
「はぅっ……」
まずいな、僕の父性が爆発しそうになる。
……もう少しこのままでもいいな。
「ふふ、はい行ってくるね。……また夕方に会えるから、もう行くよ」
そんな僕達を見てミコトは少しの間微笑ましく笑っていたが、その後なかなか離れない僕を引きずり学園を後にした。
〜〜〜
そして場面は変わり現在探索者ギルドの前、目前には少し大きな木製の扉がある。
「それじゃあギルドに入ろうか」
なんだか緊張するな。
扉に手をかけ、ふとギルドと言えばチンピラに絡まれると言うお約束を思い出す。
いや流石にそんな事は無いか。
あれは物語の中だけの出来事なはず。
「よし!」
気合を入れて扉を開く
「「あ゛?」」
丁度扉から出ようとしていたのだろうか、人相の悪いおじさんとお爺さん二人とぶつかってしまい物理的にお見合い状態になってしまった。
「ヒェッ……」
そっと扉を閉じる。
「……ミコトさん。こ、こんなに怖いのギルドの人って?」
何だあれは、あんなの人がしていい人相じゃないだろ。
「しょうがないな」
ミコトがため息を吐きながら扉を開ける。
「すまんの、驚かしてしまった」
「俺たちこんな顔なもんで……」
扉が開くと想像していなかった言葉が聞こえてくる。
恐る恐る二人の方を見ると、先ほどよりも申し訳なさそうな表情で謝っていた。
しかし、今だに顔つきは怖いままだ。
「あ、おはようございます先生。今日はお休みですか?」
ミコトが二人に話しかける。
まさか知り合いだろうか……
「お、なんじゃミコトさんだったか。おはようございます」
「今日から俺たち2週間ほど休みでして。明日ナイトメアゴートでも討伐しに行こうかと依頼の受注を……あれ?あんた……」
金髪のおじさんが僕の顔をまじまじと見る。
「もしや、あの子たちの親父さんか!」
今度は片目に傷がついた方の怖いお爺さんが僕の肩を掴む。
怖い怖い怖い怖い!
「……えっと?どちら様でございますことでしょうか」
僕は内心を隠し、比較的冷静を装う。
しかし、恐らく僕の膝はいまものすごく震えている事だろう。
「こちらは、子供たちの学年主任のタンゾウ先生と剣術指南のダイン先生だよ」
混乱する僕にミコトは説明してくれる。
「えぇぇぇ!!?」
人は見た目で判断してはいけないなんて言うけどさあ、流石にこれは無理だと思う。
「俺がダインで」
「儂がタンゾウだ……おっと、そろそろ行かないと込み始めるぞダイン先生」
タンゾウ先生がギルドの中の時計を指さす。
「うわ、もうこんな時間か……すいません俺たちはこれで。主任こっちでしたっけ?」
「違う!そっちは真反対じゃ!すまんの新しいスイーツ店がこれからオープンするんじゃ。それでは」
少しの挨拶を交わすとすぐに走り去ってしまった。
「あれでスイーツ……」
「最初は意外に思うよね、でも子供たちも先生たちに良く懐いてるんだよ」
きっとこう言うのをギャップというのだろう……
「ほら、僕達もそろそろ入ろう」
「ちょっと、まだ心の準備が!」
ミコトに手を引かれギルドの扉を超える
「お、また来たぜさっきの優男……男か?」
「さっさと帰れ!お前見たいなひょろひょろが来ていい場所じゃねえぞ!」
「さっきの聞いたか?『ヒェッ……』だってよ!」
「ひゃははは!おい見ろよアイツ女の後ろに隠れてやがる」
「おねぇさーん!ここは職場じゃありませんよー?そのスーツ脱がしてあげようかー?」
一部始終を見ていたのだろう、中に入るとチャラチャラしたお兄さん達から冷やかしが跳んでくる。
「騒ぐな」
その瞬間ミコトが凄まじい圧を出す
「ヒィッ……」
「ウッ……」
暴言を吐いたお兄さん達はミコトの圧をもろにくらい失神している。
ギルドの中が静まり返った。
え、人ってこんなに簡単に失神するっけ?
(おい、あれって)
(アイツら終わったな……)
(最近調子乗り過ぎだったんだよ)
「アハハハ!朝っぱらから飲みすぎやって!……でもまあ、最近高ランクの人らおらんなってから調子乗りすぎやったし自業自得か……アハハハ!」
ひそひそと話し声がする。
同情する人、不満をこぼす人、反応は様々だ。
っていうか最後の奴、笑いすぎだろ。笑い声の方を向くと黒いパーカーを来た青年と目が合った。
「えっ……」
青年は驚いたように僕を見る。
もしかして知り合いだろうか。
「あの……」
「ほら行くよマコト」
勇気を出して話しかけようとするがミコトに手を引かれ受付まで引きずられていく。
「あ!ミコトさん!お久しぶりです!もしかして復帰ですか?そうですよね今申請書を……」
ミコトの顔を見た受付嬢は、驚いた顔をしながらも話をすぐに進めようとする。
「落ち着いて、今日はこの人のギルドカードの更新に来ただけなんだ」
ミコトが事情を説明すると、受付嬢の顔は先走ってしまった恥ずかしさからか段々と赤くなっていく。
「へ?そ、そうでしたか勘違いをしてしまいました……あの、そちらの方は一体?」
「僕の夫。はいこれ書類あと記憶喪失なんだけど」
ミコトは一瞬で説明を終わらせ、更新手続きの書類を取り出す。
「ミコトさんの夫ぉぉ!!!?未成年はダメですよミコトさん!!」
何だかよく驚かれるな。
そんなに僕若く見えるのかな?
「まじかよ……なんであんな奴と……」
「おれメッチャタイプだったのに……」
「アハハ!君ら知んかったの?学園でたまに子供2人と話してるでしょ。あれミコトさんの子供やで」
「はぁぁ!!?子持ちかよ!?」
受付嬢の叫び声を聞いた探索者たちがまたざわつきだす。
「あ、あの」
呆然としている受付嬢に話しかける。
「は!……すいません!えっと、記憶喪失なんですか?」
「はい実は自分が探索者だったのも覚えてなくて…」
「そうですか…それは大変ですね。えっと、履歴が、ありました。もうすぐ更新期限だったんですね。えっと、階級が……ありましたCランクですね」
受付嬢が手元のタブレットで僕の情報を見せてくれる。
「えーと、それってどれくらいなんですか?」
ミコトとかレンはSランクって言ってたから凄いのはわかったんだけどCランクってどれくらいなんだろう。
「おいおい、あいつCランクだってよ?」
「なんであんな奴がミコトさんと……」
少し離れた所で聞き耳を立てていた探索者たちがまたヒソヒソと話し始める。
「ちょっと皆さん!盗み聞きしないでください!」
それに受付嬢が両手を上げてプンスカと注意する。
なんだか小動物でも見ているかのようだ。
それで注意になるのかとも思ったがその可愛さに魅了され静かになる奴が何人か続出する。
「それではランクの説明をさせてもらいます。まず上から順にABCDEの五段階でランクが分かれています。それぞれのランクで受注できるクエストが制限され、特典も変わってきます。Cランクからは特典もつき始めてマコトさんの場合はギルドカードが身分証の代わりになったり武器や防具を買うときに少し割引がついているはずです」
受付嬢の説明を聞いていると、後ろから何かに気づいたような話し声が聞こえてきた。
「待てよあの白い髪」
「まさか…あのランク詐欺師と名高い……」
「何だ?おれ知らねぇかも」
「知ってる奴は知ってる話だがな、あの白い頭の小僧、あいつがCランクなのは絶対おかしいって何人か抗議したらしいぜ。中には高ランクの探索者もいたとか」
何だか身に覚えのない呼ばれ方をしているのに気付く。
しかし白い髪の奴なんて何処にでもいるだろうし、恐らく僕の事じゃないだろう。
わざわざ詐欺してなったのがCランクならそもそも探索者向いてないだろうし。
僕ならとっとと辞めてるね。
「それで規則では記憶喪失の方はもう一度審査を受けてもらわないといけなくて……今日は初心者講習やギルドの登録試験が開かれていて、そちらを受けて頂くことに……聞いてます?」
「ハ、ハイ!」
やば、後ろの話に気を取られてて聞いてなかった。
「うーん、仕方ないか。じゃあ、頑張ってねマコト!僕は先にオウスケさんの所に行くから終わったらまた案内してもらってね」
「それではご案内しますね」
そういうと、受付嬢にギルドの奥の方に連れていかれる。
「え、えっ?」
何?どこに連れていかれるの僕!?怖い!
~~~
連れていかれた先には訓練場だった。
広いグラウンドにいくつかの人形の的が置いてある。
「あら、新しい受講者?……やだぁ、マコトちゃんじゃないの!」
「嘘だろ……終わった……」
そして何の間違いか、そこには先日病室で目が覚めた瞬間、僕の肋骨を折ってくれたあのオカマがいる。
しかもバニーガール姿なのが悪質だ。
不健全丸出しの格好で鞭を振り回すマリア、そしてそんな化け物に追いかけられる若い探索者たちが訓練場を走り回っていた。
「ほら休んでんじゃないわよ!逃げ回りなさい、ヤっちゃうわよ!」
「逃げろぉぉ!」
「捕まったらヤられる、捕まったらヤられる!」
「もう足が、誰か助けてくれ……誰か!嫌だ、来るんじゃねぇ、来るなぁぁぁ!……あふぅん!」
まさに阿鼻叫喚だった。
さて、大事な事なのでもう一度だけ言おう。
「……終わったぁぁぁ!」