第五話『時々何の肉食べてるか分からないときあるよね』
ごめんなさい。遅れた
「ん……あれ?」
目が覚めると知らない天井があった。
ベッドから起き上がりあたりを見渡す。
部屋には椅子と机、それからなぜか壁に弦が張られていない黒い弓が飾られていた。
まじまじとその弓を眺める。全体が黒く輝くそれは素朴ながらも美しく見えた。
「パパ?お母さんおきたよー」
「おはよう」
そんな僕に声がかかる。
扉の向こうから子供たちがこちらを覗き込んでいた。
「……!い、生きてる…よかった」
ベッドから降りようとするが毛布がもつれてそのまま頭から落ちてしまう。
「……?変なのー」
「早くご飯食べようよ」
子供たちはそんな僕を見て不思議そうな顔を浮かべながら部屋から出ていく。
「起きたかい?」
ベッドから落ちた僕の前に今度はミコトがやってくる。
「ミコト……大丈夫だったの?」
そういえばあれから一体どうなったのだろうか。
確か、ミコトは捕まっていて子供たちは骸骨に人質にされていたような……
しかし、どれだけ思い出そうとしても記憶が曖昧だ。
きっとレンとアオバさんが何とかしてくれたのだと、自分の中で勝手にそう結論付ける。
「はぁ……起きてすぐそれか。まったく君はもう少し自分の事を心配した方がいい」
「え?」
そんな僕の様子を見て、ミコトは呆れたように僕に話しかける。
「自分が魔法を使おうとしたことは覚えてるかい?」
「そういえばそんな気が……するような?」
ミコトの話ではどうやら僕は何か魔法を使おうとしていたらしい。
ダメだ全然思い出せない。
というか、そもそもの話僕が魔法を使えたかどうかすら覚えていない。
「いいかい?四年間も動いてなかったんだから急に魔法を使うと魔力回路が詰まって身体中ズタズタになってもおかしくなかったんだからね?」
そう注意するミコトの顔は笑顔ではあったがその瞳に光は宿っていなかった。
どうやら僕は大分危ない事をしたらしい。
「そも君は昔から――」
そしてミコトの説教が始まったのだった。
〜〜〜
「――わかったかい?」
あれから数十分間ミコトの説教は続いていた。
今回のことはもちろん、昔から危なっかしいだとか、病院に運ばれた時は本当に死にかけてたとか、今となっては覚えていないので反省出来ないところまで怒られていた。
「ふぁ、ふぁい……グスッ…」
大人しく頷いていると扉の方からノックする音が聞こえてくる。
「まだやってんのか、早く飯食べようぜ」
「お父さん……大丈夫?」
「あたし、お腹すいたんだけどー!」
子供達に腕を引っ張られて連れてこられた蓮がいた。
それにしても純粋に僕の心配をしてくれるのはモミジだけとは……トホホ。
「まあこのくらいで許してあげようか。着いておいでリビングは下だよ」
ミコトは子供達に引っ張られ部屋には僕とレンだけが残った。
た、助かった。説教をしてる時のミコトは思ったよりも怖かった。
僕はレンにサムズアップで感謝を伝える。
「……ミコ姉は怒るとちょっと怖いから、気をつけろよ。あとこれ」
こんな僕に同情してくれたのだろうか。
哀れみの表情で肩を叩くとレンは僕にハンカチを渡す。
「べ、別に泣いてないから!」
〜〜〜
「起きたか、早く座れご飯が冷める」
「いただきまーす」
「頂きます」
リビングに着くと白いご飯とお味噌汁、サラダそして大盛のからあげが出てきた。
「い、頂きます」
あまりの量に内心驚きながらも、恐る恐る唐揚げを口に運んでみる。
「美味い…」
何だこれ!美味すぎる。
何処か素朴でいつでも食べたくなるような味、そう!家庭的な味とはまさにこのことだと実感する。
「僕たちがお肉殺ってきたんだよ」
「頑張ったー!」
子供たちが奇妙なことを言い出す。
「や、殺ってきた?親父この肉って」
嫌な予感がする。
念のため親父に聞いてみると。
「ん?コカトリスの肉だが……」
「コカトリス……なるほど?」
聞いたことが無い鶏肉の品種だった。
ふむ、しかしこれほどジューシーな唐揚げだしきっと高級な品種なのだろう。
「モンスターのことだよ」
「目を会わすと石化させられる奴な」
自分の中で勝手にそう結論づける。
しかしミコトとレンが唐揚げを食べながらその正体を暴露した。
「へぇ~、そうな……え?」
今モンスターって言ったか?しかも目が合うと石化させられるモンスター。
「やっぱり唐揚げの肉はコカトリスに限るな」
「ね、裏山に大量にいるしお肉代要らないんだよね」
モミジがこれまた衝撃の事実を溢す。
「裏山に大量にいるの!?モンスターが?」
驚きで箸が止まっている間にも、コカトリスの唐揚げは減っていく。
少し躊躇したのちとりあえず考えないようにして、僕はまた唐揚げを頬張ることにした。
うん、美味しい!
「そういえばレン、明日は空いてるか?頼みたい事があるんだが……」
「あぁー、すまん親父。明日は退魔の定例会がある。何か困りごとか?」
ここで一つ新たな知識をお教えしよう。退魔とは、近衛退魔師団の略である。
近衛退魔師団は国民から近衛や退魔と呼ばれ親しまれることが多く、王族の周りの警護や騎士団や宮廷魔術師でも対処できないような事態に対処するスーパーエリート部隊である。
退魔に入った者は退魔師と呼ばれ、もれなく全員が高レベルのスキルや身体能力、知識、技術を持っており非常に優秀な事で有名である。
そしてそんな超エリート集団に我が弟が入っていたとは……お兄ちゃん誇らしい!
「明日探索者ギルドから初心者講習を頼まれてたんだが思ったより人数が多そうでな……指導官ごとに受講者を分けて講習をすることになったんだ」
親父はめんどくさそうに事の顛末を話す。
なるほど、親父が探索者なのは朧げに覚えてはいたが、まだ探索者をしているようだ。
「それなら僕がいきましょうか?」
親父の方を見ているとミコトが手伝おうかと声を上げる。
「それは助かるが……また探索者をやるのか?」
「そうですね、マコトも起きたしそろそろ復帰しても良さそうですね」
どうやらミコトは探索者を辞めていたらしい。
もしかして僕が眠っていた事と関係あるのだろうか?
だとしたらかなり申し訳ない。
「そういえば、アニキのギルドカードそろそろ更新じゃなかったか?」
聞きなれない単語が出て来る。
「確かにそろそろだけど更新できるのかな?記憶喪失になったときは申し出をしないといけなかった気がするような……」
「ギルドカードって何?」
「あー、探索者の免許証みたいなもんだな。これがあると身分証とかパスポートの変わりにもなる。ほらこれだ」
レンが自分のギルドカードを見せてくれる
なるほど、結構便利そうだな。
確かにとっておいて損はなさそうだが、それを持っているという事は僕は探索者だったらしい。
「S級?」
ふとギルドカードの右上に記されている階級の部分に目が行く。
「これは階級だよ。A~EまであってAが一番上だよ」
「Sは?」
ミコトが説明してくれるがその階級の中にSランクは無かった。
「それはまた別の階級だ。通常の昇級審査じゃなれねぇ」
「国に認められないと審査を受けれないからね、それにS級になると国からの要請とかを受ける義務が出てくるからちょっと面倒なんだよね」
蓮とミコトは少しめんどくさそうな顔をして教えてくれる。
「じゃあレンは国から認められたってこと?」
「まぁそれくらいじゃないと退魔師になれないしな、あとミコ姉もS級だぞ」
「えぇぇぇ!!!?」
まさか僕の弟とお嫁さんが国から認められる程だとは、その衝撃の事実に口を開けて固まってしまう。
「ごちそうさま」
「ごちそうさまー」
いつの間にか子供たちがご飯を食べ終わる。
気が付くと、僕が驚いて固まっている間に子供達だけでなくレンとミコトもご飯を食べ終えていた。
「レンくんゲームしよ。今日は負けない」
「いいぞー、果たして今日は一本取るまでに何時間かかるかな?」
レンとモミジがリビングから出ていく。
「そうだママ!学校の運動着もう冬服に変えたい」
「そうなの?冬服どこに閉まったかな?少し見て来るね」
続いて2人もリビングから出ていく。
「明日はミコトちゃんと一緒にギルドまで来い、ギルドカードの更新に行くぞ」
二人残されたリビングで親父が唐揚げを食べながら明日の予定を話す。
しかし、さっきの事と言い今日一日でいろんな事があって疲れしまったのか会話が頭に入ってこない。
「……唐揚げ美味しい」
僕は考えることを放棄し、夕飯を楽しむことに集中した。
~~~
「ごちそうさま」
少しして、頭の整理ができたころに親父から明日の予定を再び教えてもらい、夕飯を食べ終わる。
「あら、食べ終わっちゃったか。まだ話したいことあったのに」
ちょうどその時ミコトとレンが戻って来た。
「これから風呂に行くんだが、アニキもくるか?」
「お父さんも……一緒にはいる?」
レンとモミジからお誘いがかかる。
「えーと……」
「あ、無理しなくていいぞ。気まずいなら二人で入ってくるから」
確かに気まずいけど、せっかく誘ってくれたし……何よりモミジのあの期待に満ちた眼差しが辛い。
「……行って来い、風呂でゆっくり話せば何か思い出せるかもしれねぇ。そうでなくてもガキと仲を深めるくらいはできるだろ」
少し考えていると、親父が後押ししてくれた。
「それじゃあ一緒に行こうかな」
「よっし、それじゃ先に行ってるわ」
「わぁ!」
僕がそう返事をするとレンは少し嬉しそうにモミジを抱えてリビングを出ていった。
なんて言うか、絵面が誘拐現場みたいだったな。
「あれ?お風呂場ってどこ?」
「お風呂は外だよ。はいこれ、着替えとタオル」
ミコトが着替えを渡しながら場所を教えてくれる。
「外?」
「そう、外。廊下に出て突き当りを左に曲がると外の廊下に繋がってるからそこを行けば良いよ。……僕も一緒に入ってあげよっか?」
場所の説明を受けていると唐突に、ミコトがそんな提案をしてくる。
それはつまり……どういう事だ!?
「え!?だ、ダメだよ!レンとモミジもいるし……」
文字通りの意味だとしても今行けばモミジとレンが入ってるし、それ以前に僕の心の準備ができていない!
「二人っきりならいいの?」
慌てる僕にミコトはそんな風に返してくる。
「そ、それは……」
顔面が熱い。おそらく僕の顔は真っ赤になっていることであろう。
他に言い訳を探すがうまく言葉にできない。
「んふふ。冗談だよ、冗談」
「え?も、もう!」
どうやら、揶揄われただけのようだ。
少し残念なような気もするがそれ以上にほっとする。
女性と2人でお風呂に入るだなんて流石に僕には刺激が強すぎる。
「ほら早く行っておいで、レンとモミジがのぼせちゃうよ?」
そして、悪戯に微笑むミコトに急かされ風呂場に向かうのだった。
〜〜〜
「露天風呂かよ……」
風呂場についた僕は驚いていた。
外にあると聞いていたから少し広いのかとは思っていたがまさか露天風呂だとは……
「モミジ!逃げるな」
「やだ~」
浴場の扉を開けるとそこでは熾烈な戦いが繰り広げられていた。
「観念しろ。これで終わりだ」
「くっ、まさかこんなに手強いなんて……」
「ルールに剣術の使用を禁止していなかったのがお前の敗因だ」
何やら水で出来きた剣を片手にしたレンにモミジが角まで追いやられている。
「……何してるの」
恐る恐る話しかけてみる。
「お、アニキ」
「油断大敵!」
「あっ、しまった。あべっ!……」
僕の声に反応したレンがこちらを振り返ったその時、その頭に小さな水球が勢いよくぶつかる。
レンの後ろでは両手を重ね合わせ、狙いを定めていたモミジがしてやったりと笑顔を浮かべていた。
「くそ、油断した……」
「今日は僕の勝ちだね。コーヒー牛乳もらい」
どうやら二人はコーヒー牛乳をかけて何か勝負をしていたらしい。
仲がいいようで何よりだ。
「モミジ、先に湯船につかっててくれ。ちょっと兄貴と話したいことがある」
「ん、わかった」
レンがモミジを湯船に入らせる。
どうしたのだろうとレンの方を向くと薄い笑顔を浮かべたレンがゆっくりとこちらに歩いてきた。
……あれ?なんだか嫌な予感がするぞ。
「兄貴。ちょっと体見せろ」
そう言うとレンは僕の体からタオルをはぎ取り体中を触り始めた。
「いやぁぁぁ!犯されるぅ!」
なんてことだ!まさか我が弟が変態さんだったとは。
突然の事に僕は悲鳴を上げてしまう
「違えよ!体に傷が残ってないか確認するだけだ!」
「え……傷?」
「この前急に魔力を放出しただろ?外傷が残ってねぇか触診してるんだよ!」
そういえばミコトも似たような事をいってたな。
まぁ覚えていないのだが。
「ちょ、ちょっと。それって触らなくても良いんじゃ……ひぃ!」
「我慢してくれ。目で見ても分からない傷もある」
まずい、思ったよりも恥ずかしいぞこれ。
変な声が出そうなのを我慢していると、湯船の中からモミジが白い目でこちらを見ているのに気が付く。
違う!違うのだ。そんな目でこっちを見ないでくれ。
「うん、大丈夫そうだな。新しいケガは無しと」
「もういい?」
「あぁ、体洗って俺らも湯船につかるか」
湯船の中から何か哀れみの視線を感じる。
「お父さん……」
「……」
しばらくの恥辱に耐え、拷問にも等しい触診を乗り切った僕であったが何か大事な威厳を失った気がした。
〜〜~
「そういえばさ」
「うん?」
体を洗いながらレンに少し気になったことを聞く。
あ、ちなみに浴場にいるモミジは気づけば浮き輪に乗ってプカプカとお湯の上を漂いながらコーヒー牛乳を飲んでいる。
なんとも楽しそうだ、僕も後で使わせてもらおう。
「僕たちってミコト以外髪が白色だけどこれってどうして?」
そう、改めて思ったが。僕達はミコトを除いて全員白髪なのだ。
僕と親父、レンはまだ分かるのだが、養子である子供達が白髪なのが少し疑問なのだ。
「あー、遺伝子……もあるが魔力の性質のが多いかもな」
「魔力の性質?」
「あーどこから説明したもんかな……魔力にはまず属性と密度って言うのがあってだな――」
レンの説明によると、魔力には火、水、風、土のような属性が何種類かあるらしい。
そして魔力には属性ごとに少なからず色が着いていて、探索者の様に魔力密度、簡単に言うと魔力についた色が濃い人は体毛や瞳に魔力の色が出やすいらしい。
「じゃあ、僕たちも魔力の色が出てるってこと?」
「うーん、多分?」
急にレンの返答があやふやになる。
「そうだなー、まず俺達の髪は白色だろ?」
「うん」
「俺の目を見てくれ、何色だ?」
そう言われ、蓮の瞳を覗き込む。
そこには深紅の瞳が輝いている。
なんかこれ、ちょっと照れるな……
「あ、赤色です……」
「照れんなよ気持ちわりぃ」
少し顔を赤くした僕を見てレンは鳥肌でも立ったかのように腕をさする。
ちょっと酷くない?
「……魔力が影響してるなら瞳から体毛の順に色が変化するはずなんだ」
なるほど、つまり蓮の瞳が赤色なのは魔力の色は赤色だからなのか。
「じゃあ、どうして髪が白色なの?」
「そこは多分遺伝だな。稀に化け物みたいな魔力濃度の人が子を設けるとその子供の体毛が変色したまま生まれることがあるらしい」
「ほえ~、じゃあ子供達は何で白髪なの?」
確かに僕達が白髪なのは親父が化け物ってことで解決したけど、子供達はどうしてなのだろうか。
ミコトは養子って言ってたけど、可能性としては親戚の子供とかだったり?
「それは……兄貴が自分で思い出すか子供たちに聞いた方がいいな」
「?」
僕としてはすぐに答えを知りたかったのだがレンは自分が話すことではないと話を終わらせてしまう。
これは……僕と子供たちの事だから当時者同士で話し合えという事だろうか?
「それにしても、兄貴が一番俺たち兄弟の中で親父の影響を受けてるよな」
「え、そう?」
ふとレンがそんな事を話す。
「瞳も親父と一緒で真っ白なの兄貴だけだぞ……まぁ本人が言ってただけで、親父の瞳誰も見た事ないんだけど」
「誰も見たことないの?」
確かに前髪で目元は見えないけど、誰も見たことないのか。
僕達家族が知らないなら誰も知らないのではないだろうか。
「上二人の兄貴と姉貴なら見た事あるかもだけどな」
「へぇ~」
「そうだ、目の前の鏡見てみろよ」
そう言われ目の前の曇った鏡を拭って自分の顔を見てみる。
「あれ、こんなに髪長かったっけ?」
鏡に映る僕の髪の毛は鼻先まで伸びていた。
「気づいてなかったのか」
前髪をかき上げ再び鏡を見てみる。
「うわ、まじか……」
そこには白髪白眼で右の目元にタトゥーのようなものが入った青年が居た。
その体にはいくつかの傷跡が残っており、それらを見た僕は戦慄する。
「うそでしょ、僕こんなボロボロの体だったの?」
「ああ、その傷な。多分手術の時についた奴がほとんどだな」
「…………タトゥー」
もう一度鏡を見る。
最悪体は服で見えないから大丈夫だと思うのだが、問題なのは顔だよ顔!
だってこんな厨二チックなタトゥー……病院であのヤブ医者と話してたときもショッピングモールでアオバさんと合ったときもこの顔で話してたの?
いや、確かにちょっとかっこ良さげだけども!
「……まあ、アニキ顔は悪くないし恥ずかしくはないんじゃねえの?」
イケメンがなんか言ってるよ。
こんなのと一緒にされたらたまったもんじゃない。
「はぁ、まあ仕方ないか……。そういえばマリアが言ってたけど、僕にまだ兄弟がいるんでしょ?教えてよ」
話題を変えよう。
さっきの会話にも出てきたし、マリアも病院でそんなことを言ってた気がする。
「あー、いるにはいるんだが……」
レンの顔が曇りだす。
「タタラはともかくカンナは……控えめに言って変態だな」
「えぇぇ……」
「タタラはよく遊びまくってお金を溶かす、カンナは殺意を向けられたり罵られて興奮したりする変態だな……」
二人の事を話すときのレンの表情や、二人の事を呼び捨てで呼んでいることからもどれだけ尊敬されてないかが良くわかる。
碌でもない人達の予感がプンプンするのは気のせいだろうか?
この人たちは子供たちの情操教育に悪影響を与える気がする。
……とはいえ何か迷惑かけたかも知れないし、一応合っておいたほうが良いような気もしなくはないな。
「一応聞くけど、その二人は今どこにいるの?」
「カンナは今職場だな。アレでも仕事はできる方だからな。そろそろ休み無しで9ヶ月くらい経つんじゃねえの?」
「ブラックだ……大丈夫なの?」
二ヶ月職場に拘束されてるって……いくら何でもブラック企業過ぎないか。
姉の体調が心配になってくる。
はっ!もしやそれが原因で精神に異常が――
「あ、心配しなくていいぞ。自分から刺激を求めてここ数ヶ月休まずに働いてるだけだから。何ならこの前職場のお偉いさんが来て、手を着けられないから何とかしてくれって親父に頼みに来てたらしい。ミコ姉が苦笑してたの覚えてるな」
嘆かわしい……
残念なことに僕の姉は正真正銘の変態だったようだ。
僕の心配を返してくれ。
「それでお兄さんの方は?」
「あー……えっとなぁ……」
レンの顔が更に曇りだす。
何だ、さっきの話より話しづらい事があるとでも言うのだろうか?
「……特殊犯罪者収容所『鳥籠』、簡単に言うと探索者とか魔術師とか魔法やスキルが高いレベルで使える奴ら専用の刑務所に収容されてる……」
「……レン」
少しの間を開け名前を呼ぶ。
「お、おう」
「そろそろ出ようか」
「え、でもまだ湯船に使ってな――」
「そろそろ出ようか」
「……おう」
よし聞かなかったことにしよう。
今日は色々あって疲れたし、もう寝よう。
そして僕たちは露天風呂を後にした。
あ、ちなみに廊下で湯船を漂ってたモミジを思い出して、再び浴場に駆け出したのは内緒の話だ。