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第三話『覚悟』

「そろそろ外に避難できたかな?」


 ショッピングモール地下三階、探索者用の武器販売エリアにミコトはいた。


「それにしてもこんなとこでシードダンジョンが出現するなんて…」


 シードダンジョンとは通常、山や洞窟など自然に発生するのが通常である。

 ……が、中には稀に、人の居住区に発生する物も存在する。


 放置すればモンスターが溢れ出し、いずれダンジョンが完成されてしまうので早急に対処しなければならない。


「見つけた、それにしてもこれは……」


 視線の先には空間に空いた大きな赤い穴、シードダンジョンがあった。


 周辺には溢れ出たスケルトンの死骸とそれを抑えようとしたであろう探索者達の死体で溢れている。


「全員死んでる…主は一体どこに……」

『呼んだか?』


 背後から声がかかった。

 

「……ッ!」


 振り向くと同時に大きく伏せる。


 次の瞬間には鉄と鉄を強くこすり合わせたようなギャリギャリとした嫌な音がする。

 後ろの壁には深い斬撃が刻まれていた。


『ふむ?首を切り飛ばしたと思ったのだが……運が良いようだな』


 そこには大人2人分はあるであろう巨大な骸骨がローブと大鎌をもって浮かんでいた。

 その姿はさながら死神を連想させる。


「君がこのダンジョンの主だね?」


 ミコトは動じる事もなく淡々と質問をする。


『だったらどうする?』

「もちろん殺すさ。僕にも守りたいものがあるんだ」

『そうか死ね』


 少しの会話の末、骸骨が青い炎をその手に生み出し、放とうと手を掲げる。


『ん?』


 しかし、手を掲げた先にすでにミコトの姿は無かった。

 一瞬の混乱の後、骸骨の胸元から声が響く。


「『魔法強奪(マジックスティール)』」


 骸骨が手を掲げる瞬間、ちょうど視界が隠れるその一瞬で骸骨に接近していたミコトは生み出した炎に手を重ね、すくい取った。


『なッ!!儂の極炎を!』


 骸骨は驚く。

 まさか自分の魔法が、打ち消されるでも、いなされるでもなくただ”奪われた”その事実に唖然とする。


「この程度で炎の極みとは……僕が知ってる人はこれの十倍はエグいのを使うよ。あっこれ返すね」

『舐めるな!』


 ミコトから飛んでくる己が炎、それに対し次は赤い水球を生み出し薙ぎ払う。


 そしてその一滴がミコトの腕につく。


「……何をしたんだい?」


 途端にミコトの動きが止まった。


 しばらくして膝をつくミコト、その手には黒い紋様が現れていた。


『何だ、もう気づくか……なんてことは無い。ただの呪術だ』


 そう話す骸骨の手上に2つの人形が生み出される。

 人形は次第に膨れ上がり、白い髪をした二人の少年と少女に姿を変えた。


『儂の寿命半分を代償に発動するとっておきの奥義。まさかこんなに早く使うときが来るとは、光栄に思うがいい』

「それは……オウカとモミジ!?」


 先ほどまでの余裕は一転、ミコトの顔に焦りが浮かんだ。


『動くな。……この人形が傷つけば対象者にも反映される、愚かな人族でもこの意味がわかるな?』


 そう説明する骸骨は勝ち誇ったように手の上でその人形を転がす。


「……あぁ、なるほど」


 かと思えば一転どこか納得したかのような表情を見せると、ミコトから焦りが消える。


『良いのか?これがどうなっても』


 そんな態度を不思議に思ったのか、骸骨は双子の姿をした人形の首を掴んで持ち上げる。


「や、やめろー」


 心なしか棒読みの悲鳴を上げながらもミコトは物凄い速度で骸骨に接近し、攻撃しようとする。


『気に食わんな……』


 それを不快に思ったのかオウカの形をした人形の首をへし折った。


『良いのか?もう1つ死ぬぞ?生かしたいなら抵抗するな』

「……わかった」


 ミコトの動きが止まる。


『ふむ、やはり人族は愚かだな』


 骸骨は地面から水の魔法を生み出しミコトを拘束しようとする。


 ミコトは何か考える素振りを見せる、しかし特に抵抗もせずされるがまま水の魔法に拘束された。


「それでこれからどうする気だい?」


 ミコトは拘束された状態で骸骨に話しかける。

 

 このような状況、並みの者であれば涙を浮かべ命乞いをするか、諦めて静かになるかそのどちらかだろう。


 しかしミコトは未だ焦りを見せず、日常会話でもするかのようなテンションで骸骨に話しかける。


『取り合えずお主を殺す、その拘束魔法は相手の魔力と体力を吸い、より強力になる。お主でもあと5分と言うところか……まぁ5分待つのも退屈だな……やはり今すぐ殺すか 』

「……ふーんそういう感じなのか」


 骸骨はその手に持っている大鎌を首に当てる。


 まさに絶体絶命。しかしミコトは依然として焦りを見せず、その瞳はどこか遠くを見つめていた。


「ミコト!」


 その時、荒れた階層に声が響いた。


「……!!?何で来たんだい!?」


 声の主を見た瞬間、再びミコトの顔に焦りが浮かぶ。


 声の主、つい最近永い眠りから目覚めた白髪の青年、マコトは体を震わせながらも骸骨を睨みつけていた。




~~~




数十分前


「ここまで来れば安全でしょう。私は先輩を手伝ってきます」


 あれからアオバさんに担がれショッピングモールの外に運ばれて来た。


「ま、まって!」


 すぐに戻ろうと踵を返す彼女を僕は呼び止める。


「なんですか!こうしてる間に先輩に何かあったらどうするんですか!」


 彼女の顔にはミコトを心配しての事か、焦りが浮かんでいた。


 そんな彼女に僕は言う。


「僕も連れてって」

「駄目です」


 即答だった……考える間もなく却下された。

 彼女はすぐに踵を返しショッピングモールへと向かおうとする。


「な、何で」


 そんな彼女の手をとり、引き留める。


「当たり前でしょう!一般人を死なせるわけにはいきません。それとも何か戦闘経験がおありで?」

「……」


 苛立ちながらも彼女から出てきた言葉はどれも正論だった。


 ぐぅの音も出ないとは、まさにこの事。


「……わからない」

「わからないってなんですか!相手にするだけ無駄でした」


 僕の言葉に腹を立てたのか再びショッピングモールの入口に戻ろうとする。


「き、記憶喪失なんだ……」

「え?」

「お、覚えてないんだ!自分のことも家族のことも!」

「……そうだったんですか。ですがあなたからは魔力が微塵も感じられません……そんな人は正直足手まといです」


 同情からだろうか……先程よりも真剣な表情でこちらを見て会話をしてくれる。


 そして尚、駄目だと、足手まといだと、僕の目を見てはっきりと彼女は吐き捨てた。


「おーい!アニキ!」


 その時、聞き慣れた声が響いた。


「レン?」


 声のする方を向くと、建物の屋根の上を飛び越えながらレンがこちらに走ってくる。


 おかしいな、ミコトもそうだしアオバさんも僕を担いで走るし、レンはあんなだし……なんか運動神経いい奴多すぎない?


「アニキ!よかった親父から念話で2人がここに居るって……ん?」


 ものすごい速さで僕の前まで走って来たレンは息切れもせずに話し出す。


「あ、ああ、あの!も、もしかしてレンさんですか?あの『空白の世代』の!?」


「くうはくのせだい?って何?」


 アオバさんの様子がおかしい。

 裏返った声で蓮に話しかける彼女は、まるで押しのアイドルに遭遇した女の子のようだ。


 いや、流石に言い過ぎか。


 そう思いレンの方を向いてみる。

 そこにあるのは整った顔つき、さっぱりと整えられた白い髪、服の上からでもわかるその筋肉……まさに女子が悲鳴を上げるほどの美貌があった。


「アイドルだ……ほんとに僕の弟?」

「何言ってんだ兄貴」

「わ、私、橘流二刀術のファンで……はっ、そんな事より先輩が!……ミコト・カンザキと言う女性が魔門のモンスターを今抑えてて……」


 ふと不思議な単語が聞こえて来た。

 カンザキ……ってもしかしなくてもミコトの姓だよな?


「え、ちょっとまってカンザキって姓の貴族いなかったっけ?」


 流石に考えすぎ、いや思い違いだと思うが。

 もしそうだとしたら流石にそれはめんどくさすぎるぞ。


「え、あなた知らなかったんですか?先輩の御実家は帝国に三家ありとよく謳われるあのカンザキ公爵家ですよ?」

「えぇ、よりにもよって三家かよ……」


 まじか、一体何があったら貴族の御令嬢と結婚する羽目になったんだ。


 貴族ってあれでしょ?しかもあの公爵でしょ?はぁ、気が重くなってきたなぁ……


「あーそうか、兄貴にまだそこら辺の説明してなかったな……まぁ、説明はあとだな」


 そんな僕にレンは苦笑する。

 その時、ショッピングモールの方から一際大きな悲鳴があがった。


 ショッピングモールからは赤い霧のようなものが立ち昇り、入口からは骸骨が溢れ出ていた。


「……アニキ避難してから何分たった?」


 レンが僕に尋ねる。

 僕が担がれて外に出るまでに十分ちょっとで、今ちょっと話してたから……


「多分15分くらい」


 まだ十五分しか経ってないというべきか、もうそんなに経過したというべきか。


「その、何でこの人のことを兄貴って……それに先輩のことをミコ姉って……お知り合いだったんですか?」


 僕たちの話を聞いていたアオバさんが恐る恐るといった感じでレンに尋ねる。


「ん?ミコ姉から聞いてないのか?」

「え……?」


 アオバさんは困惑した表情になる。


「コイツはで俺の兄貴、んで兄貴とミコ姉は結婚してるからミコ姉は俺の義理の姉でもある。お前がさっき呼んでたカンザキはミコ姉の前の姓だなもうカンザキの姓はないぞ」

「え、えぇぇぇ!!!?」


 アオバさんの驚いた声が響く。


「な、なんでぇ!?」


 アオバさんは心底驚いたのか僕の肩を揺らして問い詰める。


「いやそんなの僕のが知りたいよ。そんな事より早く助けにいこう」


 しかし僕がそんな事を覚えているはずもないので、答えが出て来ることはないのだが。


 確かに面倒な予感はするがとりあえずは後回しだ。

 早くミコトを助けに行かないと。


「まだ言ってるんですか!あなたが行っても死ぬだけですよ!」


 やっぱりダメか……頭では自分がどれだけ無謀な我儘を言っているのか理解している。

 しかし、足手まといになると分かっていても僕の直感が言っているのだ絶対に僕も行くべきだと。


「でも……!」

「わかった、アニキ着いてこい」


 その時、話を聞いていたレンが声を出す。


「え、いいの?」

「へ…ちょ、ちょっと!」


 それにアオバさんは抗議しようとする。


「うるせぇ!大丈夫だ。何かあったらアニキは俺が守る、まぁ多分大丈夫だろ」

「やだ!僕の弟かっこいい!」


 レンは静止する彼女の声を無理やり押し切る。


 あぶない、僕が女で兄弟じゃなかったら惚れてたかもしれない。


「じゃあ!私も行きます!私もB級探索者です足手まといにはなりません」


 しかしそれで引き下がる彼女ではなかったようだ。

 アオバさんもどこから出したのか短剣を腰に差しショッピングモールの方に向く。


「……わかった俺はアニキの世話で精一杯だ。自分の身は自分で守れ」


 少し考える素振りを見せ、レンは許可を出す。


「はい!」

「じゃあ行くぞ。アニキちょっと揺れるが我慢してくれ」


 そう言うとレンは僕を肩に担いだ。


「え?ちょ、うわぁぁぁ!!」


 元居た景色がどんどん離れていく。


「モンスターが……」

「どうしますか?」


 お尻の方からそんな声が聞こえる。

 僕は今頭が背中側になるように担がれているので前方で何が起きているのかなにもわからない。


「問題ない突っ切るぞ……橘流二刀術『断界』」

「す、すごい…これがS級探索者……」


 本当に何が起こっているのだろう。

 ガラスが割れたような音がしたと思ったら流れていく景色に頭と体が分けられた骸骨が大量に移り始める。


 かと思えば、次の瞬間にはショッピングモールに入ったようで、地面が整備された木材の床に切り替わった。


「あれか……おい!突っ込むぞ!」

「え、でもあれは流石に……」


 お尻の方からレンの叫ぶ声、そしてアオバさんの困惑する声さんが聞こえる。


「兄貴ちょっと揺れるかも」

「え、何?」


 レンに話しかけられる。

 しかし僕は意図が分からず聞き返す。


「ほら飛び込むぞ!」

「も、もう!わかりましたよ!」


 なぜだろう、なんだか嫌な予感がする。


「うわぁあ!」


 次の瞬間、視界に映っていた足元が消え、突然の浮遊感に襲われた。

 落ちてる最中に気づいたが、どうやら建物に巨大な穴が開いていたようでその穴に飛び込んで地下までショートカットしようとしたようだ。


 もうちょっと心の準備をさせてほしいと思った僕であった。




~~~




「あでっ!……あれが……」


 地面におろされ前を向くと、少し先に赤い穴が見えた。


「先輩!」

「おい待て!……良く見ろ子供が人質に一人はもう殺され……あ、あれは……」


 走り出すアオバの腕をレンは掴む。

 どうやら子供が人質に取られすでに一人は殺されているらしい。


 思ったよりも凄惨だったのかレンの驚いた声が聞こえる。


「あの白髪は……」


 僕も周囲を見てみる。

 そこには何かの魔法で拘束されたミコトと巨大な骸骨に捕まれた白髪の子供が見える。


 嫌な予感がした。

 心臓が大きく鳴り始め、体中に嫌な汗があふれる。


「あっ、ちょっと」

「ま、待てアニキ!」


 僕の体は気づけば前に走り出していた。


「邪魔すんなよ」


 止めようと近寄ってくる二人に僕は一言だけ言い放つ。

 なんてことは無いただの言葉だ。魔力もこもっていなければスキルでもない。

 ただほんの少しの不安と怒りで思ったより厳しい物言いになってしまっただけの言葉。


 でも何故か、その言葉に二人は気圧された。


「ぅ……」

「……ッ!?おっと危ねぇ……あ、待て兄貴!」


 アオバさんが何故か気を失い、倒れそうになるのをレンが受け止める。

 その隙に僕は骸骨の方へ走り出す。


「ミコト!」


 正直、なんで僕も助けに行こうと思ったのかいまだに分からない。


 なんなら足が震えて息ができなくなるほど怖いし。

 わざわざ大して戦えるわけでもない僕がなんで探索者の奥さんを助けに行こうなんて出しゃばったのか、誰も理解できないだろう。


 でも仕方ない、僕の直感が、本能が言っていたんだ。後悔するなと。


 ならばもう、やることは簡単だ。


「……!!?何で来たんだい!?」


 全力で助ける。

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