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第ニ話『日常?』


 目を開いた僕の眼前には大きなお屋敷があった。


「ここが君の実家で僕達の今の家だよ」

「私たちの家!パパも今日から一緒に暮らせるんだよね?」


 呆然とする僕の横ではオウカが嬉しそうに飛び跳ねている。


「どうなってるんだ……」


 ちょっと待ってくれ、さっきから何が起きてるのか微塵も理解できないぞ。


「……はっ!やはり夢!」

「今のはマリアさんのスキルだよ。空間術式と言って、さっきのは僕たちと家までの空間を破壊してるらしいよ」


 未だ、状況が飲み込めない僕にお姉さんが説明してくれる。


 なるほど、空間術式、便利そうなスキルだ。

 しかしあの殴るような仕草は必要だったのか疑問である。


 おかげでちょっとチビリそうだったではないか。


「本当は物を別空間に収納したりするのが一般的なんだけど……マリアさんは一般の人とは『格』が違うから距離を消したり敵の周りの空間を操作してバラバラにしたりペチャンコにしたり穴だらけにしたり出来るんだって」

「なんだその化け物」


 控えめに言ってドン引きである。それはもはや人間と呼んでいいのか怪しいラインだ。


 一体この世界にあの化け物を殺せる者が一体どれ程いるだろうか。


「今思えば、マリアさんすごく強いよね」

「それにマリアさんすっごくおしゃれに詳しいんだよ!」


 子供たちがマリアについて話し出す。

 どうやら子供達とマリアは付き合いがあるようだ。しかも不本意なことに仲も良さそうである。


 そうか、おしゃれに詳しいのか、確かに体格はすごかったけど肌はきれいだったしきちんとスキンケアとかしてそうだな……


 いや、そんな話は一旦やめておこう。


「ここが、僕の家…」


 子どもたちが呼び鈴を鳴らすと大きな門が開かれた。

 門を通り抜け玄関に向かっていると、前方から下駄の音が聞こえてくる。


 そこには甚平を着たおじさんが無表情に歩いていた。


 髪はボサボサで目元まで伸びていて表情が分かりづらい。

 うん、我が父である。


「じーじー!ただいまー」

「ただいまお爺ちゃん」

「帰ってきたか……久しぶりだな」


 親父は子供たちの頭を軽く撫でた後、表情を変える事なく僕に声をかける。


「あれ?」


 ふと疑問に思う。親父年取ってなくない?薄れた記憶の中の親父と今の親父は全くと言っていいほど変わっていないのだ。


 記憶が混同してるのだろうか。


「マコト?」

「えっ、あっ……た、ただいま?」


 まぁそこらへんはあとで聞いてみるとしよう。


「お帰り。記憶がないことはミコトちゃんから聞いた。早く入れ、外は寒いだろ。馬鹿が」


 おっと、もしや我が父お口が悪い?まさか再開して早々馬鹿と呼ばれるとは。

 しかも呼吸でもするかのように吐き捨てたんだがこの父。


「馬鹿って……ん?ミコト?」

「あ、そういえばまだ名前を教えていなかったね。ミコト、それが僕の名前だよ」

「あれ、まだ名前聞いてなかったっけ?」


 なるほどミコト、頑張って思い出そうとしてみるが……やっぱり思い出せないな。


「さて取り合えず飯の準備でもするかな。なにか食べたいものはあるか?」


 僕が悶々と唸っている間にリビングに着く、すると後ろからそんな声がかかる。

 振り向くとそこには割烹着を着たオウスケがいた。

 一体いつの間に着たのだろうか……その無表情さも相まってなんだかとてもシュールだ。


「じーじハンバーグ!」

「えー、この前も姉ちゃんハンバーグだった」


 その言葉を聞いてオウカはハンバーグを所望するが、モミジが待ったをかける。


「二人とも、今日はお父さんの退院祝いなんだからお父さんが決めるんだよ?」


 揉める双子をメッ!とミコトは叱る。


 二人は確かにと頷き、すぐに仲直りの握手をした。


「可愛い……」


 15歳にしては素直すぎないだろうか。

 このくらいの年頃は反抗期とかで口もきいてくれなくなるイメージなのだが。

 いや、素直なのはいいことなのだが。


「パパは何が食べたいの?」


 油断しているとオウカが話しかけてくる。


「え……唐揚げ?」


 とっさに答えてしまった。


「……いいだろう、腕によりをかけて作ってやる」


 すると、後ろにいるオウスケが何故かやる気を出し始める。

 振り向くとその手には何故か刀が握られていた。


「刀!!?」

「唐揚げ!久しぶりに食べるかも!」

「からあげだ」


 そんなことは気にもとめず子供たちは盛り上がる。


「君は覚えてないかも知れないけどお義父さんの唐揚げは取っても美味しいんだよ?」


 ミコトも刀には触れずに昔の話をし始める。

 もしかすると僕が覚えていないだけで料理に刀を使うのはよくある話なのだろうか。


「ほら孫共、手伝え。『働かざる者食うべからず、餓死しろ』とよく言うだろう」

「はーい」

「何からすればいい?」


 気づけば子供達と親父の声が少し離れたところから聞こえて来た。

 いつの間にか台所まで移動していたらしい。

 そしてなんだか一言多そうな教訓も聞こえてくる。


「何か、聞きたいことはある?」


 僕が親父の英才教育に頬を引きつらせているとミコトが話しかけて来る。


「……えっと、そういえばミコトさんと僕はいつからの付き合いなんですか?」


 せっかくなので、少し気になったことを聞いてみよう。


「もう!ミコトで良いって。君にさん付けされるのはなんと言うかむずむずする!あと敬語も禁止!」

「よ、呼び捨て……が、頑張ってみる」


 呼び捨て、難易度が高いなぁ。

 いくら夫婦?とはいえ正直、僕からしたら初対面も変わらない、こんなキレイな人に呼び捨てはちょっと。


「ゴメンゴメン慣れたらで良いよ。僕と君の付き合いだっけ?僕たちは幼馴染みだよ、レンとも昔からの付き合いさ」


 僕が困っているのを察したのかミコトは苦笑しながら昔の話をしてくれる。


 どうやら僕たちは幼なじみだったようだ。

 そういえばミコトの家族はどうしているのだろうか。

 一応挨拶とかしといたほうがいいのだろうか?


 ふとそんなことを考え、少し緊張する。


「聞きたいことはそれだけかい?」

「その、オウカとモミジって僕達と年齢が近すぎる気がするんだけど……」


 もう一つ不思議に思っていたことをさりげなく聞いてみる。


「あー、そうだよね、不思議に思っちゃうよね。……あの子たちは養子なんだ」


 なるほど、腑に落ちた。


 すがに年の差が一桁はおかしいと思っていたが……そうか養子なら納得だ。


「実の子供じゃないって知ってショックかい?」


 ミコトはすこし不安そうな顔をして俯いた。


「まさか!でも……あんまり実感湧かないというか……」

「自分にそういう人達がいるって思ってなかった?」


 ミコトは僕にそう尋ねる。


「まぁ、ちょっとだけ……」

「あはは。まぁ、ゆっくり思い出せばいいよ」


 子供達と僕の年齢差が少ない理由はわかった、しかしここで新たな疑問が浮かび上がる。


 ……待てよもしかして僕ってまだ童て――


「しまった、卵がねぇな」

「唐揚げできない?」

「小麦粉もちょっと少なくなってるよ」


 衝撃の可能性に気づきかけたその時、台所から三人の声が聞こえてくる。


「そうだな……よし、マコトお前ミコトちゃんと一緒に卵と小麦粉買ってこい」


 台所から親父が顔を出して僕たちに買い物を頼む。


「アタシもいく!」

「お前らは俺と一緒に裏山に鶏肉を取りにいくぞ。マコト良い機会だからミコトちゃんに町の案内してもらえ」


 オウカは僕達と一緒に買い物に行きたがるが桜輔さんに止められたようだ。


 そして鶏肉を取りに行くってなんだ?裏山に鶏でもいるのだろうか……それともダジャレか……


「鶏肉を取りに行く……じーじダジャレ?」

「……」

「姉ちゃん……」

「……ごめん」


 そんな事を考えていると台所からそんなやり取りが聞こえてくる。

 果たして本当に養子なのだろうか、考えることが同じな気がする。


 そして、ミコトと買い物……ぜひ行きたい所ではあるが……


「この足じゃ時間かかるんじゃ…」


 そういって僕は自分の足を見る。

 この足では車椅子は必須だし、もし買い物に出掛ければ迷惑をかけてしまう事は明白だ。


「僕が付いていくと遅くなりそうだしミコトさんも……」

「呼び捨て……」


 ミコトから悲しそうな顔で指摘が入る。


「でもさっき慣れてからでいいって……」

「呼び捨て……」


 はなから、僕に選択肢はなかったようだ。


「……ミコトひとりで行った方が早いんじゃないかな」


 圧に押され、すぐさま呼び捨てで会話を再開する。

 それにしてもズルいなあんな顔をされたら罪悪感がわいてくる。


「……ミコトちゃん、あのヤブ医者はこいつの魔力回路とか足の神経とか何か言ってたか?」


 台所から出てきた親父がミコトに話しかける。

 魔力回路?聞いたことのない言葉だ。いや、忘れてるだけか。


「あ、これを預かってますよ。足の麻痺症状と魔力回路の修復箇所についてみたいです」


 ミコトはどこからか取り出した数枚の手紙を親父に渡す。



〜〜〜



「何だ、いい仕事してるじゃねえか」


 一通り手紙を読んだ親父は、感心したように頷くと、いきなり僕の足と心臓に手を当てて来た。


「今からお前の体を戻す、変な感じがしたらすぐ言え」


 僕の体に手を当てたままオウスケは言う。


「え?どういうこと……」

「まぁ物は試しだ、『大樹の鼓動』」


 触れられた手のひらから暖かいナニかが流れて来る。

 嫌な感じはしないが……少しムズムズする。


「なんか暖かい…」

「もう大丈夫だろ。よし、立ってみろ」

「えっ、でも」


 時間にして数十秒、親父は突然立ってみろと僕に言う。

 一体僕の体に何をしたのだろうか。


「大丈夫、立ってみてごらん」


 少し躊躇しながらも、ミコトに促され恐る恐る足を動かしてみる。


「動いた!」


 僕は車椅子から立ち上がることができた。


 すごいな、感覚すらなかったのに一体何が起きたのか。

 僕は歩けることに感動しながら辺りを歩き回る。


「すごい。あ、ありがとうございます」


 僕は興奮しながら親父に感謝の言葉を送る。


「や、やめろ気持ちわりぃ!敬語なんか使うな」

「えぇ……」



 しかし帰ってきたのは予想とは違う反応だった。

 

 今まで働いていなかった親父の表情筋が、初めて顔を引きつらせるという仕事をする。

 まぁそれもほんのわずかだが。


 感謝すると気持ち悪いと罵倒されるとは……理不尽だ。


「いいか、敬語なんぞ使うな。俺はお前の親父なんだから」


 気持ち悪いと、シンプルな悪口に少し気を落としていると親父は僕の目の前までやって来てそんな言葉を掛けた。


 どうやらただの理不尽ではなく、気を使ってくれたようだ。


「「顔真っ赤ー!」」


 台所から子供たちの声が聞こえる。


「えっ、真っ赤……?」


 親父の顔を覗き込む。

 確かに血色がほんの少し良くなった様な……?

 いやダメだ、わからん。

 一体子供達には何が見えているのだろうか。


「……わかったお前たちには特別に人参たっぷりの野菜炒めを作ってやろう」

「えぇー!」

「ご、ごめんなさい」


 子供たちの楽しそうな声が一転して、悲鳴にも近い謝罪が聞こえる。

 どうやら子供たちは人参が苦手なようだ。


「ぷっ、あはは!親父ありがとう。卵買ってくるね」


 なるほど、これが家族か。


 忘れていたが、存外悪いものではないようだ。


「お、おう」

「じゃあついて来て、この街を案内してあげよう」


 急に笑い出した僕に親父は少し驚いたようで、その後ろでミコトはいつの間にか外出の支度を終えていた。



~~~



「それで、どこに行くの?」


 あれから、親父に謝り続ける子供たちを傍目に家から出た僕は、少し歩いたところでミコトに尋ねる。


「そうだね、卵と小麦粉の他にも色々買い足したいからショッピングモールに行こうか。あそこなら服、食料、武器、書店全部あるから便利なんだよ」

「ぶ、武器?なんでショッピングモールに武器なんて売ってるの?」


 僕の記憶では武器の類は国が許可を出した一部の店舗でしか販売が許されていないはずだ。日用品が大半のショッピングモールでの販売なんか聞いたことがない。


「そこも忘れちゃったか…」


 ミコトが困ったように頭を捻る。


「ご、ごめん」

「全然大丈夫だよ。モンスターやダンジョンの事は覚えてるかい?」


 謝る僕にミコトは説明を始めた。


「う、うん……」


 それは覚えている。


 モンスターとは人間に危害を加えるスキルや魔法を使える生物であり、ダンジョンとはモンスターがたくさんいる自然生成された構造物の事だ。


「最近ダンジョンが急に増えていてね、そこからモンスターがあふれ出て来るなんてことが結構頻発してるんだ。それで武器の需要が高くなったけど供給が追い付いてないから最近だと比較的簡単に武具の生産と販売の許可が取れるようになったんだ」

「な、なるほど…」


 それからミコトは僕が覚えていなかったこの世界のことを話し始めた。


 最近戦争が起こりそうな国があるとか、何人かの神は地上で暮らしているとか、もうすぐ大陸中の探索者や実力者を集めて武術大会が行われるとか。


 中でも神様たちが地上で暮らしている話には驚いた。

 てっきり天界とかでのんびり暮らしているのかと勝手に想像していたがどうやら物好きな神様もいるようで、ミコトによれば帝国にも神様が何人かいるらしい。


 あと覚えがあるのは武術大会か、確か3年おきに行われる帝都で一番大きな大会だったはずだ。

 なんでも優勝者には神様直々に褒美が送られるらしい。

 なんだか思ったより神様って人前に姿を現すものなんだなと僕は認識を改めた。




〜〜〜




 あれから数十分、僕達は歩きながら雑談を続けていた。


「それでね、獣人国がつい先日宣戦布告されたんだけどその相手が……」

「ショッピングモールってもしかして今通り過ぎたところじゃない?」


 ふと大きな建物の前で人が出入りしているのを見つける。

 ミコトは気づいていないようで話をつづけながら歩き続けていた。


「え、ほんとだ。あはは、久しぶりに君と話せたから舞い上がっちゃったかな……」

「ふぐっ……!」

 

 まだミコトと会話して一時間も経ってないが気づいた事が一つある。

 この嫁、可愛いくないか?


 正直、ミコトの仕草が目に入るたびに心臓がバクバクうるさくなる。


 僕が女性慣れしてないヘタレと言う可能性もあるが……おそらく違うだろう。

 というのも、実は先ほどから道を通りすがる人達がちらちらとこちらを見ているのだ。


 それはなぜか、ミコトが可愛いからである。


 病室で会った時から思っていたが、ミコトの容姿はとても整っている。


 正直、なんでこんなきれいな人が僕と結婚しているのかよくわからない。

 本当に疑問である。


「ごめんね入口はこっちだよ」


 そんなことを考えていると、ミコトは僕の手を引いてショッピングモールの中まで歩いていく。


 不味いな、そろそろ心臓が破裂してもおかしくないぞ。


「ミコト先輩……?」

「ん?」


 その時、一人の女性がミコトに話しかける。

 ミコトは振り返り、その人物を見ると驚いた表情になる。


 学生だろうか、ミコトに声を掛けた彼女はなんだか僕達よりも若く見える。


「アオバちゃんか!奇遇じゃないか、何を買いに来たんだい?」


 ミコトがアオバと呼んだ女性は丁寧にお辞儀をしてミコトに挨拶する。

 どうやら知り合いだったようだ。


「えっと……」


 彼女は僕のことに気づいていなかったのか、こちらを見ると驚いた表情を見せる。


「あぁ、紹介しようか。この子はアオバちゃん、僕の前の仕事の後輩で今は学園に通いながら探索者をしているんだよ」

「なんだか凄そうだな」

「始めまして。その、先輩のお知り合いの方ですか?」

「アオバちゃんにも紹介しようか、僕の夫のマコトだよ」


 ミコトが僕のことを紹介する。


「へ……」

「は、初めまして?」

「な、なんで?先輩の夫……え?先輩、既婚者?」


 ミコトの説明を聞いた途端アオバさんの表情が硬直する。


 ミコトが結婚してるの知らなかったのだろうか?ひどく狼狽えた様子を見せる。


「まぁ、僕のことは何も覚えて無いみたいだけどね」

「その言い方は……それじゃ僕が奥さんのことを忘れた薄情な人みたいじゃ……」


 僕はミコトの言い方に何か言おうとするが、何も否定できないことに気がついて少し落ち込む。


 そしてそんな説明をされた彼女の方はと言うと。


「……ミコト先輩のこと忘れるなんて……あなたみたいな人に先輩はふさわしくありません!ミコト先輩にはもっと優しくて強くて頼れる人がふさわしいです!」

「えぇ……」


 ほら何だかややこしくなってきた。


 この人誰がふさわしいとかふさわしくないとか、確かに僕はひ弱かもしれないけど、本人の前で言うか?


 ふとミコトの方を見てみる。

 ……ダメだ爆笑してる。


 前を向くと彼女はまだ喋っている……はぁ


「……うるさいな」

「は?」

「あっ、やべ」


 まずい、つい本音が出てしまった。

 慌てて顔を上げる……そこには般若の如く恐ろしい顔があった。


「ヒィッ……!」


 思わず悲鳴が漏れる。


「ちょっと二人と――」


 ヒートアップしてきたのに気付いたのかミコトが仲裁に入ってくる


『緊急放送、緊急放送。館内、地下3階でシードダンジョンの出現を感知しました。モンスターが出現する恐れがあります。至急、非難をしてください。』


 その時、ショッピングモール全体に魔道具による館内放送が流れた。


「……シードダンジョン?」


 また知らない単語が出てきたな。


 それでもこれが異常事態なのはわかる、周りの人の中には悲鳴を上げて走り出してる人もいるくらいだ。


「先輩、私が行ってきます。その、今さっきはすいません取り乱しました。あなたも逃げてください」


 意外なことにアオバさんは冷静だった。

 謝る彼女に先程までの雰囲気はなく、少し緊張したような意思を固めたような……戦う人の顔つきをしていた。


「でもモンスターが出現するって……」

「私はB級探索者です。無駄な心配はいりません」


 B級探索者、それがどれほどなのか僕にはわからない。

 ただ、嫌な感じだけがショッピングモールの中に広がる。


「いや、僕が行こう。この魔力はA級以上かもしれないな、アオバちゃんマコトをどこかに避難させてあげて」


 ミコトがそんなことを言い始めた。 


「えっ!?」


 さり気なくミコトが戦える事が発覚し、僕は衝撃を受ける。


「な、なんで……先輩あんなに戦闘はもうしないって行ってたのに!」

「とにかく!……頼むよ」


 青葉の静止を振り切りミコトは下に続く階段を向く。


「ちょ、ちょっと先輩!」

「下りるって言っても、通路が人で埋まってるよ?」


 しかし階段の方からは大勢の客が出口に向かおうと混雑していた。

 これでは下の階に行くことは難しそうだ。


「ん?大丈夫だよ。道ならあるから」


 そう答えると、ミコトは下の階へ繋がる通路に走り出す。


「えっ?ちょっと……」


 次の瞬間ミコトは地面から足を離した。


「マジかよ……」


 何だあれ……人が混雑してるからって壁走りながら降りてるんだけど。


 その意外すぎる身体能力に唖然とする。


「もう!……仕方ないですね。ほら早くいきますよ」


 ミコトが人混みの向こうへ消えたのを確認すると。

 アオバさんは僕を避難させるために出口に向かう。


「でも…」


 対して僕は嫌な予感が拭えず、その場から動けずにいた。


「余計な心配ですよ。ここ数年活動してなかったとはいえ先輩は私と比べ物にならないくらい強いですから文字通り『格』が違います……ほら!さっさと避難しますよ。ちょっと持ち上げますね」

「え……うわぁ!!?」


 そう言うと彼女は僕を担いで出口へ走り出した。


 女子学生に担がれる僕、逃げ惑う人々も何事かと足を止めそれを見る……不思議と周りに溢れていた喧騒は薄れていた。

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