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第一話『……あれ?知らないオカマだ』

初めまして。倉山九楽です。今まで人が書いた小説を読むのが大好きだったのですが。なんやかんやあって自分で小説を書いてみようと思いました。完結まで書き続けるつもりなのでのんびり楽しく呼んでいただけると幸いです。

追伸:少々多忙ですので更新遅めです。ごめんなさい。

 遥か昔、その星がまだ地球と呼ばれていた時代。

 突如怒り狂った地球の神は、人類を滅ぼそうとモンスターを作った。


 最初は重火器が通用しないモンスターに蹂躙され、人類は約8割の人数を失う悲惨な結果を生んだ。

 しかしまぁ、何やかんやで魔法やスキルが使えるようになった人類はモンスターを殲滅し、神に直接接触することに成功。


 神と当時の人類最強達とで繰り広げた戦いは世界を超え、本来干渉できるはずのない神界にまで余波を及ぼした。


 当然、何事かと別の世界から騒ぎを聞きつけ上位の神々が集結。

 結果、状況を確認した神々によって地球の神は一時封印。

 残った人類と神々で相談した結果、地球は複数の神が共同で管理する事が決まり、しばらくして星の名前は忘れ去られた。


 それから数万年の月日が立ち、世界は多くの変化を遂げる。


 人々にはステータスと言う恩恵が神から与えられ、星のサイズも以前の約三倍、何柱かの神は自分の管理する世界から新たな種族を移住させた。

 中でも獣人族やエルフ族、ドワーフ族は国を作るほど種族を発展させ、それぞれの国で貴族制度が成り立った。


 そして驚くことに、この世界には神が住んでいる。


 それはなぜか、人類に対処できない凶悪なモンスターがいまだ蔓延っているからだ。

 国や大陸を脅かすほどのモンスターが暴れ出した時に早急に対処するため、神は世界に居座っている。


 まぁ、そんな大騒動が起きたことは片手で数える程しかなく、もはや時折大規模なイベントを開くほど娯楽に飢えた物好きな神々がこの世界を満喫しているだけなのが実情である。


 外を歩けば化け物に、町を散歩すれば神に出会える……かもしれない。

 そんな死と神と人が近しい世界。


 そして今から書き記すのはそんな世界を巻き込み、混乱に陥れた一人の男の愉快な物語だ。




〜〜〜〜〜




 古代文明の技術を一部再生し、この世界に新たな魔法技術を生み出した魔法の国、その国の中心、皇帝が鎮座する帝都の病院の一室にて一人の患者が目を覚まそうとしていた。


「う……ぁぁ…」


 患者はうめき声をあげ、体を動かそうとする。

 その体はやせ細り、腕を上げることすら難しそうだ。


 しばらくして、患者は無意識にゆっくりと体を緩め深い呼吸を始める。

 途端、患者の体で何かが鼓動する。


 次第に体は熱を持ち始め、心臓がはち切れるのでは無いかと思うほど鼓動する。

 しばらくして、先ほどとは明らかに健康そうになった青年が目を開いた。


 ゆっくりと体を起こした青年の右目には赤い刻印が刻まれており、肩まで伸びたその白髪も相まってどこか只者では無さそうに感じる。


「マコトちゃーん!お見舞いに来たわよー」


 それと同刻、病室のドアが乱暴に開く。


 扉の向こうには筋骨隆々のオカマがいた。

 その容貌は青年よりも只者ではなさそうだ。


「……」


 青年はまだ寝ぼけているようでオカマを見つめたまま硬直する。


「……?」


 少しづつ目が覚め状況が解ってきたのか、青年は困惑し始める。


「……あれ?知らないオカマだ」


 静寂に包まれた室内で、最初に声を出したのは青年だった。


「マ…マゴドぢゃんんん!」

「え?ちょ待っ!むぐぅ……」


 その声を聞いた瞬間オカマは感極まったように涙を浮かべ青年に抱き着く。

 その勢いは、獲物に食らいつくモンスターを連想させるほどで、抱きつかれた青年は苦痛な表情を浮かべた。


「マコトぢゃん!ホンドに目が覚めだのねぇ!」


 病室で目を覚ました青年と号泣しながら抱き着くオカマ、異様な光景ではあるがまだ感動的な場面に見えなくもないだろう。


「もう離さないわぁぁ!」

「ぐ、ぐふぅ……た、タンマ……力強すぎッ!ミシミシ体が言ってるから!」


 その青年の体から骨が歪むような異音さえ鳴られなければ……


 青年は痛みに声を漏らすがオカマはそれに気づいていない。

 それどころか込める力はだんだんと強くなっていく。


「な、ナース、コール……」


 痛みに耐える青年の目にそばにあるナースコールが映る。

 腕をプルプルと震わせながらナースコールを押す。

 しかし、すぐに苦痛から解放されるわけでもなく……


 ピシッ!


「ぐぁぁぁぁ」


 その地獄は看護師さんが駆けつけてくるまで続いた。




 ~~~




「あははは!肋骨にヒビが入ってますね!まぁこれくらいならポーション一個で治るでしょう」 


 あの後、看護師さんと担当の先生が駆けつけ僕とオカマを引きはがし、僕はそのまま検査室へと連れていかれ、全身をくまなく検査された。


「後は足の麻痺ですね……これは今後のリハビリで経過を見てみましょう。それ以外体にほとんど異常が無さ過ぎて怖いくらいですね」


 そして今、検査の説明を受けている所なのだが、先生の言った通り、足に麻痺が残っているようで動かすことは愚か、感覚があるかどうかも怪しいくらいだ。


 さて突然だが、一通り説明を受け、気になったことがニ点ある。


「あの先生、この人誰ですか?何で僕は入院してたんですか?」

「えへへ……ごめんねマコトちゃん……」


 そう質問する僕の隣には申し訳なさそうにオカマが立っていた。


 まず一点、なぜこのオカマがここに居るのだろう。てっきりすでに衛兵に連行されたものだと思っていたのだが。


 そして二点目、なぜ目が覚めたら病院の中だったのだろう、ここに至るまでの状況を全く覚えていないのだ。

 一体何がどうなれば目覚めたら肋骨を折られるような状況になるのか不思議でならない。


「……やはり」


 僕の質問を聞いた途端、先程までお腹を抱えて笑っていた医者の顔から一瞬で表情が抜け落ち、真顔になる。


「え、怖っ」

「大丈夫よ先生。私から説明するわ。私は……そうね元仕事仲間ってとこかしら」


 すると隣のオカマが何か気になる事を言い出した。


「仕事仲間?」


 オカマは信じられない事を口にする。


 おかしい、僕はこんな奴と仕事をした記憶も無ければ働いた記憶も……無い。

 そこまで考えて一つ不思議なことに気づく。


「あれ、僕って仕事してたっけ?っていうか何歳?」

「今からそれを説明させてもらいます。取りあえずこれを見てください」


 僕の混乱した様子を見て、医者は数枚の画像を取り出した。

 どうやら、魔道具で撮影した僕の頭部の画像のようだ。


「この画像を見てみるとこの部分にトゲのようなモノがあるのがわかりますか?」


 先生が指を差した所には確かにトゲのような何かが二つ写っていた。


「これは脳の記憶を司る部分です」

「……!!?」


 脳にトゲ……しかも記憶を司る部分と来た。

 嫌な予感しかしない。


「あなたはダンジョンで倒れているところを発見されこの病院まで来ました。当時の検査ではこのトゲには呪いが掛かっていることが分かり、そのせいで記憶喪失のような症状が出ています」


 ちなみに、ここで言うダンジョンとは、中にたくさんの財宝とたくさんのモンスターが蔓延るとても危険な構造物である。


「ど、どういうことですか?」


 どうやら嫌な予感は当たってしまったようだ。

 ダンジョンで怪我、呪い……思い当たる節のない事柄が次々と出てくる。


「……夢?」

「少し質問なのですが、一般常識……例えば、5年前の空白戦争や貴族制度、義務教育の内容だとかは覚えていますか?」


 急な事に混乱して現実逃避を始めていると、医者からそんなことを聞かれる。


「……空白戦争?は聞いたことないです」


 僕の返答を先生はカルテに書いていく。

 記憶喪失……かあまり実感がないな。


「続いて家族、仕事、友人、恋人は覚えていますか?」

「それは流石に覚えて……あれ?おかしいな……」


 その質問で確信した。どうやら、僕は本当に記憶喪失になってしまったらしい。

 うすらと家族の事は思い出せるが、そのほかの事はあまり思い出せない。


 ていうか僕に恋人っているのか?


「先生、記憶喪失って直らないんですか?」

「……現状、このトゲを取れば改善の余地はあります。ですが思ったより深くて今の技術では……下手をすれば一生動けなくなります」


 医者はしばらくの間、カルテとレントゲンを睨むと僕にそんなことを言った。


「本当ですか?『なら答えは簡単だ』」


 ふと、口から勝手に言葉がこぼれた。


 その言葉には、なぜか確信が、過大な自信がこもっているのを自分でも感じた。


「え?」

「ちょ、マコトちゃん!?」


 次の瞬間、僕は医者の机にあったペーパーナイフで頭を抉った。


「あ、痛い」

「「なッ!!?」」


 突然の奇行に二人は一瞬硬直する。

 まぁ、正直な話、僕自身も混乱している。常識で考えて、自分の頭を抉るなんて発想が出て来るはずが無い。

 でもなぜか、僕の体はそれが正解だと言わんばかりに勝手に動いていた。


「何してんのちょっと!」


 一瞬して、状況を飲み込んだオカマが慌てて僕を羽交い絞めにする。


「先生!」


 唖然とする医者にオカマは大声で合図する。


「ひ、『回復ヒール』!」


 医者の手が頭に触れ、淡い緑の光が傷口を覆う。

 ほんの少し経てば、傷口はきれいに塞がっていた。


「……あれ、僕……」


パシン


「え?」


 いきなりオカマに頬を叩かれる。その筋肉からは想像もできないくらい優しく、痛いビンタだった。


 訳が分からなかった。


 自分でもなんでこんなことをしたのか、そしてなぜ止められたのか。思考がぐちゃぐちゃになっていた。

 とりあえずビンタしてきたオカマに何か言ってやろうと思って


「…………ごめん……」


 その悲しそうな顔を見て、僕が悪いのだと悟った。


「次やったら抱き潰すわよ」

「はい……」


 僕は二度と同じことはしないと誓った。




~~~




「……マコトさん今、心臓は動いてますよね?両腕ついてますよね?」


 少しして、僕達が落ち着いたころに、ふと先生が質問してくる。


「…?」


 僕は質問の意図が分からず、きょとんとする。


「最初マコトさんが病院に運ばれてきたときは脊髄と心臓にもトゲが刺さっていて、両腕なんか消し飛んでお腹も抉れてたし、上半身の皮膚は8割焼け落ちてたし、心臓も動いてないし、さらに言えば脊髄に刺さってたトゲのせいで回復魔法も聞かないしで本当にあの世までのカウントダウン数秒前だったんですよ?」

「んえ!??」


 何だそれ、何で生きてんの僕。気持ち悪!上半身の皮膚焼け落ちたって何?

 両腕消し飛んだって何?それじゃあ、今ついてる僕のこの腕は何?


 一瞬で頭の中が『?』で埋まる。


「何で生きてるか不思議でしょう?それも全部マコトさんのご家族やご友人が協力してくれたからですよ?」


 一体何をすればそんな死体も同然の人間を生かせれるのだろうか。

 僕は思い出す事が出来ないなりに、家族や友人たちの僕を生かそうとする努力やその想いを想像し、感謝する。

 っていうか友人いた、良かった。


「あなたのご家族はいくつか臓器を提供してくれました。ご友人も貴重な回復薬の材料を必死に集めたり、まぁ、そのうちの何人かはグランベール王国の禁止区域にまで行って貴重な薬草やモンスターの素材を密猟して捕まったようですが。また一人は良く分からない宗教にのめり込んで行方不明になってしまうし……」

「???」


 一部訂正しよう、助けてもらった僕が言うのも何だけど最後の奴らバカなんじゃないだろうか。


「まぁ、とにかく!あなたは沢山の人のお陰で今生きています」


 先生は僕の肩を掴んで真剣に話をする。


「そして、そんな奇跡をあなたはぶち壊そうとしました。人間の頭はあんな風にがさつに開いていい物じゃありません。いいですか、次にあなたの頭を開くのは僕です。二度としないでください」


 そして次には、ものすごく怒られた。


 ふむ、患者を叱れる医者は良い医者だと、どこかで聞いたことがある。

 最初の印象はアレだったが、思ったよりちゃんとした医者だったようだ。


「あ、ちなみにあなたに恋人はいないです」


 叱られてる最中にそんなことを呑気に考えていると先生から余計な一言が飛び出る。


「……先生、性格悪いってよく人から言われない?」


 前言撤回だなんでコイツ医者やれてるんだ。睨む僕を前に、医者は終始笑顔だった。




 ~~~




 診察が終わり、僕とオカマは病室に戻された。

 これは余談だが、診察室の扉が閉まる瞬間、あの医者が『う……まだこんなに仕事が……労働辛い……』と嘆いていたのは記憶の底に沈めておこう。


「これからあなたの家族が来るわ」


 戻された病室でオカマがそんな事を話す。


「家族か……」


 ふと表情筋が死滅した父といつまでも後ろに付いてきていた可愛い弟を思い出す。


「お父さんとお兄さんとお姉さん、弟さん、それから奥さんと子供二人がいるわ」

「えっ!……僕既婚者なの?」


 今日一番の衝撃の事実発覚だ。

 まさか僕が結婚してただなんて、しかも子持ちときた。

 たしかに恋人はいないはずだ。


 そして兄と姉……てっきり弟だけだと思っていたのだが、まさかまだいたとは。


「子供は双子の姉弟で今年で十五歳よ」


 十五歳か、思ったより大き……


「……僕って今年で何歳?」


 今日一番の衝撃の事実更新だ。


 いくらなんでも大きくないか?つまり十五年前に産まれたってことだろ?

 もしかして今の僕って気づかなかっただけで、本当はおじさん……


「あれ?検査中に先生から何も聞かなかったの?あなたは今年で23歳、三年間眠り続けてたのよ」


 どうやら思ったより年は取っていなかったようだ。


「いや待て、それだと僕が8歳の時にすでに―」

「アニキ!」


 考え事をしていると、音を立てて病室の扉が開かれた。


「うわぁ!」


 急な大声に僕は驚く。


「兄貴!ほ、ホントに起きたのか!」


 扉の方を向くと、何処か見覚えのある短い白髪と整った顔立ちの青年がいた。


 おそらく彼が僕の弟だ。

 記憶では全然子供だったけど、まさかここまで大きくなっているとは思わなかった。


「ちょっと落ち着きなさい!マコトちゃんが驚いてるでしょ」

「ふべっ!」


 走ってきたのだろうか?息を切らし大声で駆け寄って来るがオカマに頭をすごい威力で叩かれ落ち着かされている。


「えっと、僕の弟だよね?大丈夫?その……頭、血まみれになってるけど」

「記憶喪失なんだってな、さっき先生から聞いたよ。とにかくよかった……あと俺の名前はレンだ。もう忘れるんじゃねえぞ」


 血まみれになったその頭を僕は心配するが本人は気にも留めずに自己紹介を始める。


「それにしても早かったわね。連絡して十分も経ってないんじゃない?」

「ちょうど近くで仕事があってな部下に丸投げして走ってきた……そうだ下の売店でココア買ったんだがいるか?」


 レンはオカマにココアを差し出す。どうやら、レンとオカマは知り合いの様だ。

 正直、このオカマが僕の知り合いなのかまだ疑っていたのだが、レンの反応を見るにどうやら本当だったようだ。


「まったく何してんのよ……貰うわ」

「兄貴のもあるぞ」


 そう言うと、レンはもう一つのココアを僕に渡す。


「ありがとう。気遣いのできる弟でお兄ちゃんは嬉しいよ」

「なにいってんだ」


 差し出してきたココアを受け取り、感謝を伝えるとレンはどこか照れ臭そうに顔を背けた。


「あ、ココア美味しい」

「わかるか?ついこの間有名な商会が出した新作なんだ。このサダール商会はいつもは高級チョコレートやらクッキーやらを作ってるんだが今回は……」


 どうやら僕がココアを美味しいと言ったのが嬉しかったのか……レンは、満面の笑みでココアの説明を始める。


「うんうん、そうなんだね」


 どうやらレンは甘いものが好きなようだ。


「私にはちょっと甘すぎるかしら……九楽堂の紅茶ラテの方が好きだわ」


 マリアの口から別のお店の名前が出て来る。

 そのお店の名前は覚えている気がする。

 確か古風な感じのお菓子屋さんで小さい頃によくお菓子を貰っていたはずだ。


「あー、確かにあそこも……」


 その時、廊下から足音が聞こえてくる。


 二人の話を横目にココアを堪能していると、扉が乱暴に開かれた。

 

「マコト!意識が戻ったんだって!?」

「うわぁ!」

「のわぁ!」


 僕とレンが驚く。


「あら、奥さん登場よマコトちゃん」


 扉の向こうにはキレイなお姉さんが居た。

 その女性を見て僕は声を詰まらせる。


「良かった、思ったより元気そう……どうしたんだい?」


 オカマが奥さんと呼んだその女性はだいぶ容姿が整っていた。


 僕はあまり人の容姿を気にしたことは無かったと思うのだが……正直言って、めっちゃタイプである。

 過去の僕グッジョブ!!


「…好きです(な、名前を聞いてもいいですか)」


「ふぇ?」

「「ぶふぉっ!」」


 レンとオカマが飲んでいたココアを吹き出す。


「あ、えっと、その……」


 まずい心の声が先に出てしまった。

 僕とお姉さんの顔はみるみる赤くなっていく。


 うん、気まずい!


 僕は助けを求めオカマとレンの方を振り返る。

 しかし二人はニヤニヤしながらサムズアップだけを送り返してきた。


 チッ、役立たず共が。


「パパ?」

「……」


 どうしたものかと次に話す言葉を急いで考えていると、彼女の背後から声がする。


 扉のそばには僕やレンと同じように白髪の女の子と男の子がいた。


「モミジ?オウカ?」


 覚えていない筈なのだが、自然と名前が出てくる。

 まさか、こんな僕でも父親の意地があったのだろうか。

 まぁ、これで違ったら気まずい所の話じゃないのだが。


「アニキ覚えてんのか?」

「マコトちゃん…」


 レンは驚いた様子でオカマは感動したような様子で僕の方を見てくる。

 オカマに至っては鼻水が少し出ていた。汚ない。


 しかし、二人の反応をみる限りどうやら名前は合っていた様だ。


「おいで」


 お姉さんに呼ばれて子供たちが恐る恐る近づいてくる。


「あの……えっと」

「……」


 子供達は何か言いたそうだが、言葉が見つからないのか口を開いては閉じてを繰り返している。


 俯いて固まってしまう子供たちを見て、恐る恐る頭を撫でてみる。


「ひぐっ、パパ……私もう、死んじゃうじゃないかって……うわぁぁぁん」

「っていうか、一か月くらい死んでた期間あったし……うぅ……」


 感極まったのか女の子、オウカが抱き着いてきた。

 するともう一人の男の子、モミジも静かに泣き始める。


「ん?ちょっと待って、死んでたってどういう……おっと!えっと……ほら、落ち着いて」


 少し気になる発言もあったが、この雰囲気で聞けるはずもなく。


「パパぁ!」

「……っ、うぅ」


 それから二人が泣き止むまで僕は動けずにいるのだった。




 ~~~




「落ち着いたみたいだね」


 子供たちは泣いてしまったのが恥ずかしかったようで顔を真っ赤にして下を向いていた。


 実は先程までオカマの方が子供達より号泣していたのだが、今では何事もなかったかのようにケロっとしている。

 さすが、大人は切替がはやいな。


「あはは……」

「はずかしい……姉ちゃんが泣き出すから僕我慢してたのに……」

「ちょ、ちょっと!モミジだって病院に向かってる途中ソワソワしてたくせに!」

「それは……!」


 仲良く喧嘩する子供たちを見ているとお姉さんが僕の隣にやってくる。


「体調は本当に大丈夫なのかい。退院はいつ頃か聞いてる?」


 どうやら僕の体調を心配してくれているようだ。


「体に重大な異常はないから今日退院でもいいって先生が言ってたわ」


 その質問にはオカマが答えた。


「え?何もなかったの?」


 その答えにお姉さんは驚く。

 そりゃ僕だってびっくりだ、数年間眠りっぱなしだったのにこんなに元気なものなのだろうか?


「強いて言うなら足が麻痺してるのと記憶喪失だけみたいよ」

「マコト、君はどうしたい?」


 お姉さんは車椅子の僕と同じくらいの高さに屈んで聞いてくる。


 か、可愛いな。どうやったらこんな素敵な人と結婚できたのか本当に不思議だ。


「家に帰ってみたい……です」


 僕はどうしたいのだろうか……少し考えて自分の家を見てみたい、そんな好奇心が湧いた。


「わかった、オウスケさんにマコトが帰るって連絡しとかなきゃ」

「そういえば来なかったのか?」

「たしかにそうね。あの人なら飛んできそうな気もするけど…」

「本当は来たがってたんだけど隣領で仕事出来ちゃって。そろそろ家に帰ってる頃じゃないかな」


 オウスケ、確か僕の親父の名前だ。

 覚えているのは親父の表情筋が死滅しているくらいで、どんな人物だったのかは思い出せない。

 確か、探索者として働いていた気がするのだが、まだ現役なのだろうか?


「部下に投げつけたレンちゃんとは大違いね」

「うるせ」


 そんな事を考えていたらオカマがレンを揶揄っていた。


パシィィィン!


 次の瞬間ものすごい音が響いた。

 驚いて振り向くとオカマが顔の前でレンの拳を受け止めていた。


「ちょっと鈍ったんじゃない?」

「最近あんまり休めてなくてな」


バシィィン!


 先程より少し鈍い破裂音がした。

 気づけば今度はレンがオカマの拳を受け止めていた。


「え?何これ?」


 本人たちは何事もないかのように交互に殴り合ってはそれを止めている。

 まるで呼吸をするかのように、もはや僕の目では肘から先を見ることが難しい。


 一体、僕は何を見させられているのだろうか。


「とりあえず家に帰ろうか。車いす動かすよ?」

「ありがとう……あれ何?」

「気にしないで、いつもの事だよ」


 お姉さんは混乱する僕を移動させ廊下に移動させる。

 その間、二人は変わらず殴り合っている。

 心なしか、先ほどよりも拳の出す音が大きくなっている気がする。


「オウカもモミジも喧嘩してないで、そろそろ帰るよ」

「それを言うならモミジだって」

「それは姉ちゃんが勝手に――」


 病室の端っこを見るとレンとオカマに気を取られて気づかなかったが、子供たちもまた喧嘩していた。


 お姉さんが二人を呼ぶと、すぐにこちらに駆け寄ってくる。


「それじゃあレン、僕達は先に帰ってるよ。マリアさんまたお願いしてもいい?」


 お姉さんが未だ殴り合いを続けるレンとオカマに声をかける。


「「イエス!マイ、ボス!」」


 二人はすぐに殴り合いを止めた。


「て、手慣れてる……」


 流石というべきか何というべきか、お姉さんの一声でこの場が正常に戻った事実に僕は戦慄する。


 そして今更ながらにオカマの名前を聞いていないことに気がつく。


 まさか、こんな筋肉モリモリの化け物にマリアなんて可愛らしい名前が付いているとは、一体誰が想像できるだろう。


「もう!これ疲れるのよ?」


 マリアは肩を回しながらこっちに歩いてくる。


「?」 


 何だろう……すごく嫌な予感がする。

 例えるならそう、酒の匂いを漂わせた顔色の悪いおじさんが近くにいた自分の両肩を掴んだ時くらい嫌な予感がする。


 え?そんな出来事があったのかだって?そりゃ覚えてないよ。


「ありがとう。またお茶でも誘うよ」

「じゃあ、行くわよ【破間】!」


 マリア僕達の前に来ると、拳に力を込めるように体を構えソレを解き放つ。


 その速度のせいだろうか、目の前の空間が歪んで見えた。


「うわ!」


 僕は驚いて目をつむる。


「……」

「さあ着いたよ」


 少ししてお姉さんの声がかかる。


「…え?」


 恐る恐る目を開ける。


「えぇぇ!!?」


 目を開いた僕の眼前には少し広いお屋敷が建っていた。

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