コーヒー職人の夏休み|心のぬくもり幻想舎
“八月一日から三十日までお休みをいただきます”
コーヒー職人、もといバリスタは、喫茶店の入り口に直筆の紙を貼る。
いつも以上に時間をかけて磨いたドリッパーもカウンターも、今日からしばらく眠りについてもらう。
ありがたいことに、今まで途切れることなく日々誰かが来てくれていたので、まともな休みを取ったことがなかった。
だから私は、この一カ月旅に出てみようと思ったのだ。
どこに行こうか。
北海道、沖縄…いや、海外でもいい。
いっそコーヒーのことは忘れて、紅茶の国と呼ばれているイギリスにでも行こうか。
野球選手が趣味でサッカーをするように、お菓子職人がラーメンを作るように、ブレンドティーの淹れ方を学ぶのもいいものかもしれない。
どこまでも続く青い空を見上げると、立派な入道雲がこちらにゆっくりと迫ってきている。
ああ、夏が始まったようだ。
蝉の声に耳を傾けながら、バリスタは扉の鍵をポケットにしまった。
fin.
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ご覧いただきありがとうございました。
こちらでは毎週月曜日に、1分ほどで読める短編小説を2本アップします。
日々をめまぐるしく過ごす貴方に向けて書きました。
愛することを、愛されることを、思い出してみませんか?
ここは疲れた心をちょっとだけ癒せる幻想舎。
別の短編小説もお楽しみに。
前週分はInstagram(@ousaka_ojigisou)に先にアップしています。早く読みたい方は、あわせてチェックしてみてくださいませ。
大野