5.燃えました
青い光が身体をまとうと、すぐに景色が一変する。
周りには高い木が何本か、他には膝丈くらいの草が所々に生えている。
どうやら、草原ステージらしい。
目の前には、体育祭などで見る大きな旗のてっぺんに小さな王冠が乗ったものがそこにささっている。
この旗を守りながら、相手の旗を奪いCatchTheCROWNということで勝利となる。
「スキル、リテェンション!」
俺が唱えると目の前の旗は、青い光の柱が立ち小さな指輪へと姿を変える。
この指輪の耐久値は100。
そして指輪をはめる。
そうすることで旗は俺に宿る、指輪の耐久値が0になるか俺のHPが全損した場合、その場で指輪は旗へと戻りその場にささる。
「とりあえず、一安心と」
すると、向こうでも青い光の柱がたった。
どうやら彼女もフラッグを保持したらしい。
CTCは100×100×100(m)の空間で繰り広げられる。
視界の左上にはマップが表示され、相手のフラッグの位置が表示される。
草原マップは隠れる場所もないのでスタート地点からの位置がわかりやすい。
左上のマップを見ると旗が一直線にこっちに向かってきているのが分かる。
どうやら、彼女は、正々堂々と勝負するタイプらしい。
俺もそれに応えマップの中心を目指し走る。
すると遠くにガチガチの金属鎧を身にまといハンマーを持った彼女(男性アバター)が走ってくるのが見える。
ハンマーは確か速度デバフが入っていたはずだからあの速さを出すにはだいぶ基礎値速度に振ってるな。
そんなことを考えていた矢先、彼女の速度が急激に上がった。
「馬鹿な!!これ以上早くなるのか!!」
そして視界をハンマーを振りかぶった巨体に支配される。
そう彼女は飛んできたのだ、これがリアルの状態で俺の胸元に飛び込んできたらどんなに嬉しいことか。可愛い美女が俺の胸の中に…。
しかし、残念ながら飛び込んでくるのはガチガチの金属鎧+ハンマーという。
こんなシチュエーションが日常生活にあるだろうか、いやまずないだろう。
咄嗟に片手で持っていた鎌を横向きにし柄の部分を両手で持ち受身をとる。
もしこれがリアルハンマーとリアル鎌なら鎌の柄は折れているだろうが、幸にも不幸にもゲームである。
耐久値が切れるまでは、壊れない。
受け身の際表示された鎌の耐久値ゲージの減りは普通のハンマーと変わらない。
どうやら他種に破壊は振ってないらしい。
ハンマーが重く中々押し返せない。これは攻撃力が負けていることを表す。
どうやら攻撃力は向こうの方が上らしい。
すると彼女はそのまま空中で前転をし、俺の背後に着地すると、再びハンマーを構え、飛びかかってきた。
再び受け身を取る。
彼女の猛攻は止まらない。
空中で前転する際に首にCROWNが見えた。
てことは他種スキルは獣化か、てか
「スキル使う間もないな!」
受け身を取りながら皮肉を込めて彼女にそう言う。
しかし彼女の攻撃は止まらない。
当たり前だ、勝負なのだから。
とにかく受け身を取るしかなかった。
少しでも油断したら、やられる。
現実の戦いならば体力切れを狙うのが
有効な作戦だがCTCに体力切れは無い。
次受けたら煙幕を使うか。
そして彼女の次の攻撃をしっかり受け身を取り、彼女が飛ぶ瞬間に、真下に煙幕を投げた。
投げた瞬間俺の周り一帯は煙に包まれる。
この煙幕はマップからも10秒程だが消してくれる。
そして投げた本人は煙の中でもよく見えると言う素晴らしい道具なのだ。
さすがの彼女も煙幕中は攻撃が打てないらしい。
この時間を大切にしなくては、そう考えながら彼女が飛んだ方向と逆に少し走り、
「スキル!フューズ」
黄色の光柱が立つ、俺はスキルを唱えた。
スキル・・「フューズ」
・味方を犠牲にすることで、味方のステータスをそのまま+できる(永続)。
・味方がいない場合はステータスが2倍となるが60秒間のみ。(速度は100まで)
すると向こうでも光柱が立った。
どうやら彼女もまたスキルを使ったらしい。
光柱の色は、緑...緑ってなんだっけ?獣化では無いことは、たしかだ。
獣化は赤だしな
煙が段々と引いていく、マップに俺の旗が表示された直後彼女は再び現れた。
おなじパターンで攻撃してくる。
しかし、今度は、ハンマーを押し返せた。
流石に攻撃力を上回ったらしい。
彼女は、どうやら驚いたらしく
「何!?」
と声を漏らした。
リアルで聞いた甲高い声とは違い低い男性ボイス。
ミクシーズは、発した言葉が相手には、
ゲーム内アバターの性別の声に自然と置き換わるように設定されている。
設定を外せば、地声も出せるらしいが出したことは無い。
空中に彼女を押し返し、咄嗟に鎌を持ち替え下から上へと切り返す。
彼女のアバターに赤いダメージエフェクトが走る。
そして彼女の体力ゲージが、3...5...7割!7割削れた。そして彼女は後ろに飛び下がり煙幕を投げた。再び周りが煙に包まれる。
「は?HPも防御もほぼ基礎値振ってないんか!?」
どうやら速度と攻撃重視のハンマースタイルらしい
「血の気高すぎるだろ!」
速度が早いことしか分からないが防御とHPをほぼ振ってないとなると一撃受けると大ダメージなことはたしかだ。
冷静に分析をしていると融合の効果が切れてしまった。
それと同時にハンマーを押し返せずついに攻撃を食らった。
クリティカル音と共に俺のHPが約1割削れる。
あれ?1割、と思っていると再びクリティカル音と共にハンマーが今度は懐に当たる。
また約1割削れる。
動きが早すぎる……
早すぎて避けられないが、なんだ攻撃振りで会心で1割程度か思っていると、体が動かない…!?
これは…麻痺か!
固有スキル8
率&麻痺upは、会心率が100%麻痺率が50%となる。そして麻痺は5秒間止まる!
継続時間は2分又1度麻痺らせると
クリティカルは1分麻痺は初めの1回以降はなし。
使う人があまりいないので忘れていた。
2度目の麻痺のはないが使った時間から逆算するとクリティカルはあと30秒は、続くそして5秒間なら彼女は4発は殴れる…4発ならまだ3割はのこる……
「ブラタリティ! 兎!」
彼女がそう唱えるとズドドドトオンという赤い雷が彼女に落ちた。
あれは...獣人化…
重々しい金属鎧が割れ真っ白な毛と、長い耳が生える。
「ハンマーなのに素早い動きに
その身のこなしから付いた異名は
俊足のホワイトゴリラ!そう呼ばれていたのはお前 かああ!」
そう言った瞬間、遠くにいた彼女が目の前に現れた。顔との距離は5cmもないくらい、そして
「ゴリラって言うなああああ」
そう言いながら繰り出されたボクシングのアッパーのごとく繰り出されたハンマーによる攻撃は俺の残りHPを全て削った。
再び青い光に包まれ、俺は、さっきの部屋へと転送された。
「負けた...あークビかぁ~」
率&麻痺upなんて、使ってるやつほとんどいないからすっかり忘れていた。
リリースから約2年やっているのに、プロプレイヤーなのに...。
しっかり練習していれば、マイナーな武器やスキルの情報をしっかり調べていれば、終わってしまってからは、たらればしか出てこない。
俺の薔薇色の共学生活はここで、終わってしまったのだ。戻ったギルドの練習場に社長の姿はなく、チャットから試合終わり次第、ログアウトするようにとのことだった。
俺はメニューウインドを開き、自分のホームに移動し、ログアウトした。
「...っとー」
「ねぇーねぇー」
「おーい、まだ戻ってきてないのかしら」
「でも電源は切れたから...」
「こうなったら......」
フルダイブからリアルに戻る時の感覚は朝目覚めるのと似ている。
すぐには頭が働かない。
…が上から肩を押さえられ前後にゆらされれば流石に起きる。
「ハイハイハイ!戻りましたから!」
「ちょっぉぉおおおお止めてええええ」
首がもげるかと思った。
星座状態でダイブしたのでまた足が痺れているのが分かる。
そして目の前には、しだれる黒髪にいい感じの谷間が...ない...
「どこ見てんのよ…」
「えっち!」
そう言いながら、俺の肩から手を外し、俺の前に仁王立ちする。やはり可愛い。
「お父さん、私この人とパートナーでいいわ」
「えっ、さやかちゃんいいの?
でも、さっき観戦から見てたけど、
そいつ負けたよ?さやかちゃんにこてんぱんよ?
さやかちゃんより弱いのよ?いいの?」
あんな下手な社長は、見た目からは想像できないだろう。
そして、えっ...?パートナーになれるの?
「さやかちゃんほんとにいいの?まだ他の人も探してこれるよ」
「いいって言ってるでしょ、お父さんしつこい。」
冷めきった目で蔑むように彼女は言い、そう言われた社長はまるで子犬のようにうなだれていた。
「ということだ大山!」
「大山君でしょ?ね?お父さん?」
水を得た魚のように生き返ったかと思えば、
再び娘に冷酷な言葉を言われた社長は
子犬よりも小さく見えた。
「ということで君のクビは、無くなったから!
改めて自己紹介するね、私の名前は角田さやか。
高校は、私立谷咲威学園 1年よ
これから、あなたのパートナーだから!
よろしくね」
そう言って、少し微笑んだ彼女は、
まるで天使のように可愛かった。
ん?
私立谷咲威学園の角田さやか...。
「ああ!
中間テストの日しか来なかったのに1位の!
角田さやか!」
「てことは...もしかして
大山 璃音ってどこかでみた事あったと思ったら、
あなた中間2位の..!?」
「とりあえず、これお父さんの名刺、
裏に私のCTCのフレンドコード書いといたから、
家にかえったら入れといてね。」
「あとMINE交換しましょ
そしたら今日はもう帰っていいから」
MINEを無事交換し、社長室を後にした。
エレベーターに再び乗り、更衣室で私服に着替え、受付のお姉さんに白装束を返し、会社をでて帰りの電車に乗る。
と言うか結局白装束はなんだったのだろうか?
夕日が眩しい、
もう夕方か、
色々疲れた半日だったな。
でもまあ、クビは無事回避、そして可愛いパートナーまで、薔薇色の共学生活は、守られた。
こうして、俺の高校生兼プロゲーマー生活は、無事再び始まった.........
と思っていた。
「ウー、カン、カン、カン、カン」
「ウー、ウー、ウー」
「今日はやけにパトカーや消防車が多いな」
アパートに帰ると、そこに住み始めてから2ヶ月程の建物はなく、あったのは、黒焦げの焼けた物体。
そうアパートが全焼していたのだ。