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そして私たちは森に入り、道を進んで、湖に辿り着いた。
周辺で遊んで、昼にサンドイッチと果実を食べ、また遊んだ。そして気が付けば、夕暮れ時となっていた。
森を抜けると辺りはすっかり暗くなっていた。しかし、遠くに見える村は何かおかしかった。
「アリス、村の様子が変だよ」
イリスが言った。村からは煙が立っていて、不自然に明るい。
私はイリスの手を引っ張って、急いで村に向かった。村が近づいてくるにつれ、徐々に村の状態が分かってくる。
「村が、燃えてる……!?」
私は呟いた。見慣れた村の家屋の屋根が、轟々と燃え盛っている。煙があちこちから上がっており、焦げ臭い匂いが鼻を付く。
「嫌……お母さん!」
イリスが叫びながら、村の中に入って行った。
「駄目! イリス!」
私は慌ててイリスを追いかける。村の中に入っちゃ駄目だ。安全な所に避難しないといけないのに!
「馬鹿野郎! 早く逃げろ!」
クウロおじさんの声が響いた。私もイリスを追いかけて村に入る。見るとイリスを捕まえたクウロおじさんが、こっちに走って来ていた。
「アリス! 早くイリスを連れて村を出るんだ!」
クウロおじさんはそう言ってイリスを抱き上げると、私の元に下ろした。
「でも、お母さんが……」
私は言った。まだ村で母の無事を確認していないのだ。
「俺が見つけてきてやるから、前たちはさっさと逃げるんだ。ほら!」
クウロおじさんはそう言うと、私を軽く押した。
「何だその腹は。獣人という汚らわしい存在でありながら、自身の健康管理すらできていないとは。そんな無能は、世界の為に死ね!」
私は振り返って、クウロおじさんに礼を言おうとした時だった。男性の、妙に聞きなれたセリフが聞こえたかと思えば、大きな火の球が私たちに目掛けて飛んできた。火球はクウロおじさんに直撃し、瞬く間に炎が彼を包み込んだ。
「うあぁあああああああ!」
クウロおじさんの悲痛な叫び。彼はそのまま、地面に倒れ、熱さにもがき苦しむように転がりまわる。
「熱い熱い熱い熱い熱い! 誰か、助け……」
クウロおじさんとは思えないほど弱弱しい声だった。地面を転がりまわっていた彼は、その言葉を最後に、動きを止めてしまった。
「嘘……クウロおじさん、死んじゃったの」
イリスがそんなことを言った。イリスはわなわなと声を震わせ、私の身体にしがみついている。
そして私も、呆然としてしまっていた。人が死ぬところを見たのは、初めてのことだった。しかも、全身が火に覆われて、あんなにも苦しそうに死んでしまうなんて。
そして私は、村がどんな状況なのかをようやく把握した。ただの大規模な火事じゃない。村が、襲われているのだ。クウロおじさんを燃やしたのは火の魔法だ。そしてその魔法を放ったのが……。
「おい、そこのガキは金になる。捉えろ!」
目の前にいる金髪の男だ。高そうな黒いローブを身に纏っている。そして数人の兵を従えている。男はその兵たちに命令をして、私たちの方へ向かわせた。