サドラとサーベイ
こんにちは、お久しぶりです。
2話目がやっとできました。個人的に続き物の小説はどこで区切ればいいのか、とても難しいです。
変なところで終わっていると思いますが気にしないでください。
「おめでとう!サドラ!」
歓喜を灯した声色、それは喜びの証。
無理もない。何せ、自分の息子の瞳に十字架の模様が刻まれたのだ。それはすなわち勇者の証。この世界に生きる者であれば誰もが知っていること。
この十字架は14になる自分の誕生日に突如として刻まれた。
あの日、両親とケーキを食べていたとき、ふいに両目が熱くなった。
熱くて熱くて思わず目を塞いでしまう。すると熱は急激に高まり、眼球が溶けてしまうような感覚と痛みが僕を襲った。椅子から転げ落ち、うずくまる僕を見て両親はびっくりしただろう。
その後は父が医者を呼んで来てくれたがその頃にはもう熱は何事もなかったかのように収まっていた。
念のため診察をと言う医者に、僕は手で覆っていた眼球を晒した。
医者は、目を覗き込むと、見てはいけないモノを見てしまったかのように固まってしまった。
動かない医者に不安がった母親が深刻な面持ちで尋ねる。
「先生っ!この子は大丈夫なんですか?!死んでしまったりなんかしませんよね?」
母の心配を水に流すように医者は答える。
「ええ、命に別状はありません。ただ…」
信じられないモノを見たような顔が次第に崩れると、まるで僕を憐れむような表情へと変化し、医者は淡々と両親に告げた。
「目に十字架の兆しがあります。この子は勇者に選ばれました」
そこで視界が色褪せ、ぼやけていく。嗚呼、そうか。これは過去の記憶だ。
何度も体験した夢が覚める感覚。その感覚にちょっとした違和感を覚えた。
「あれ、なんで寝てしまったんだっけ…」
霞む思考によぎったのは明確な死のイメージ。そしてようやく気づく。
自分は竜に食べられたのだと。なす術なく喰われたのだと。
自分は死んでしまったのか?ならばここはあの世なのか?
心は焦っているつもりだった。しかし、頭は酷く冷静に答えを出す。
あの状況から助かるとは正直思えない。ここはあの世で自分は死んでしまったのだと考えるのが妥当だ。
だが視界には何も無い。既に崩れた記憶の世界には虚無があるばかりだ。地獄に行くことすら出来なかった者の行き着く場所は無だと、司祭であった父が言っていた。恐らくここがそうなのだろう。
少年はそれ以上考えることはなく、諦めるように瞼を閉じ…
そこで目が覚めた。
どうやら自分は知らない場所の知らないベッドで寝ていたらしい。硬い枕が頭を刺激(物理的に)し、眠ったままの脳が目覚め、うるさいほど明るい朝日が、覚めたばかりの眼を容赦なく責め立てる。眩しいと思いながら数回瞬きをして、のそりと体を起こす。
「おはようございます」
「ウワッ!?」
いきなり目の前で聞こえた声に驚き、後ろへ飛び跳ねる。
ゴンッという鈍い音と共に鈍い痛みが脳に響く。どうやらベッドの後ろは壁らしい。
ぶつけた箇所を庇うように刺さりながら声の主へと、視線を合わせる。
ベッド脇に佇むように立っている声の主。その姿に思わず見惚れてしまった。
腰まである透き通るような銀の髪、まるで女神を思わせる様な整った顔立ち。例え、全身が燃えようが深海に沈もうが体を引き裂かれようが全く動じないと思わせる穏やかさ…いや一種の狂気にも似た穏やかさのある雰囲気に目を奪われた。
「目が覚めたようですね、それは良かった。体調は問題ありませんか?自分が誰かわかりますか?ああ、それとお腹は空いていますか?」
「え?ええと…た、体は元気です。自分が誰かもわかります。それとお腹は…」
矢継ぎ早の質問に戸惑いながらも答える。
しかし、お腹の件については答えるよりも早く、腹が鳴る。
謎の羞恥心に駆られ、サッとお腹を抑えるも目の前の女性(推定)はクスッと笑う。
「体は正直ですね、あまり料理をしないものですから出来には期待しないでくださいね?」
「…すいません」
「謝る必要はありませんよ。私が好きでやっているわけですから」
そう言うと足音を立てることなく何処かへ行ってしまった。
その後ろ姿が見えなくなると、自然に周りの景色へ視線が移る。
「(さて、ここはどこなんだろう。見た感じ教会…なのかな?)」
疑問符がついているのは単純にこの場所があまりにも荒れ果てているからだ。
床は埃や傷まみれ、素の色が白であっただろうからか余計に汚れが目立つ。壁はあらゆる箇所が傷んでおり、ところどころ穴が空いている。天井に至っては、意図的に壊したとしか思えない程だ。
だが、中でも教会のシンボルでもある筈の女神像が酷い。
明らかに人の手によって壊されている。それも執拗に傷を付けるやり方で。
「何か気になる物でもありますか?」
「ウワッ!?」
音も無く、気配も無く、再び現れた彼女に目が覚めた時と全く同じ反応をする。
「い、いえ。ちょっと珍しいタイプの教会?ですから少し興味が湧いて…」
「?そうですか?普通の作りの、普通の教会と思いますけど」
「あはは…そうですか。そうですよね。そんな気がしてきました」
どう考えても普通の教会は壁に穴が空いていたり、天井が無いなんてことは無いと思うが、この際気にしないことにする。
彼女も気にしていない様子で手に持った底の深い皿を僕に差し出す。
「美味しいかはともかく、どうぞ」
差し出されたのは皿に注がれたお粥だった。白く立ち昇る湯気から出来立てであることが窺える。同時に、渡されたスプーンで少しだけ掬って口に含む。
「ぁっ」
熱かった。けれども暖かい。そして美味しいと感じた。
味自体は普通の塩味だろう。だが言いようのない甘さもありただのお粥というにはあまりにもったいない一品。
二口目を口にする…しようとした。
「あぁ、すいません。冷ました方がよかったですね」
彼女はそう言うとベット脇に腰を掛けた。何をするのだろうと思うと僕からスプーンを取り、少し掬ってから息をフ〜フ〜と吹きかけ始めた。
ただ冷ましてくれているだけ、その筈なのだが…その仕草が妙に色っぽいせいでまともに直視できない。母も同じことをしてくれていたがその時は意識することはなかった。なのに何故今、こんなにも気になってしまうのだろう。
「はい。口を開けてください」
前を見ると口元にスプーンが運ばれている。もどかしさと恥ずかしさを感じながらも勢いに任せて口に入れる。
何故か先程とは違って甘く感じたお粥はさらに美味しく感じた。
お粥を食べ終わると彼女は食器を片付けに何処かへ行った。
そしてここにきてようやく気づく。
何故、自分は助かったのか?
よくよく考えてみると自分は助かるような状況ではなかったのだ。
竜に喰われ、消化される定め。そうだった筈なのに。
「(まさか彼女が助けてくれたのか?)」
突拍子にそんな考えが頭をよぎる。だが、喰われる直前に見たあの恐ろしい牙にその考えごと引き裂かれる。死ななかったとはいえもう二度とあんな体験はしたくない。そのためにも。
「もっと、強くならなくちゃ」
自分は勇者である。その事実と責任が自分を奮い立たせる。
その眼に、爛々と輝く十字架を灯しながら、決意を固める。
「さて、いきなりですがお尋ねしたいことがあります」
またもや急に現れた女。だが少年はもう驚かない。驚かせようとする意志が女にあったかはわからない。だが驚かない少年を見て、逆に驚いている事からも少しはその意志があったのだろう。しかし、そんな素振りも一瞬で消えて、また笑みを絶やさずに語りかける。
「なんですか?」
「貴方、勇者ですよね?」
「…だったら、なんですか?」
場の空気が、一瞬で張り詰めた緊張感を生む。
少年は臨戦体制を取ろうとしたが、身体がうまく動かない。お腹から下半身にかけての感覚が消えてしまったような不自然さに戸惑っていると、彼女は何かを知っているような笑みを浮かべている。
「身体、動かないでしょう?」
「何をしたんです?まさかさっきのお粥に、薬をもったんですか?」
「ええ、はい」
彼女はそう言うとニヤリと口角を吊り上げる。女神の様だと崇め讃えたその笑顔はもはや、悪魔の様な笑顔だと例えるしかなかった。
身体をなんとか動かそうと試みるも力すら入らなくなってしまったのではもう、どうしようもない。これは自分の落ち度だ。竜の胃から生還したという喜びが無意識に警戒心を緩めていた。やはりあの人の言っていた通り勇者という役目は碌な縁を結ばない。
強くなると自らの心に誓った矢先にこれだ。神様がいるのだとしたらなんて残酷なんだろう。せめて、あの剣さえあれば未だなんとかなったかもしれないのに、どこにいったんだ?
概ね考えられる事として、未だ竜の胃の中、もしくは彼女が所持しているかの二つに一つ。どちらにせよ最悪な事には変わらない。
何もできない無力さに打ちひしがれ、ただ相手を睨むこと、それが僕にできる唯一のことだった。
「フフフッ、しばらくはまともに動けませんよ?」
「何が狙いです?」
「そんなもの、決まっているでしょう?あの剣ですよ」
剣。この場においてそれを指すものはただひとつ。
勇者の剣と呼ばれる物、デウス・エクス・マキナ、それに違いない。
「なぜあれが欲しいのですか?あれは勇者にしか使えない代物。一般人にはただの鉄の固まりでしか―」
「というのは冗談です」
「―え」
「冗談、です」
ニコニコと微笑みながら、念を押されて2回も同じことを言われた。あの緊迫した状況を、冗談で済ませるのは勘弁してほしい。
まず、冗談で済ませるにしてはおかしい部分がある。なぜ薬をもったのか。そして冗談をつく理由もない。
問わねばならないことを一つずつ聞いてみる。
「なんでこんな冗談ついたんですか?」
シスターは一瞬、不思議そうな表情をすると、少し困った様に答える。
「あら、すみません。これは私なりのコミュニケーションでして...」
「コミュニケーション?」
「ええ。初対面の人には冗談を混じえて会話するんです。そうすると硬い雰囲気がなんだか柔らかくなる様な気がして」
「ああ、なるほど」
要はこの人なりに気を利かせてくれたんだろう。そこは感謝するべきだ。確かに硬い雰囲気だった距離感は先ほどよりもグッと縮まって気はする。だが信じているわけではない。
続いて薬のことについて尋ねてみた。
「それじゃあ薬をもったのはなんでなんですか?」
「ああ、それは多分、薬の副作用です。私が調合した物なんですがそんな副作用があるとは知りませんでしたね」
「なるほど。それで何の薬なんです?」
「わかりやすく言えば、万能薬...まぁエリクサーの劣化品ですね」
「エリクサー!?」
あまりにも突然に伝えられた事実に驚いてしまう。
エリクサー。それはまさに万能薬と言える奇跡の薬。
一口飲むだけで傷はおろか、あらゆる病、身体の欠損などを完璧に治すとんでもない物だ。
だがそれ故にとんでもない希少価値がついており、エリクサー1つで幾つもの屋敷が建つ金額だ。
当然、一般市民はもちろん貴族でさえ所持することは珍しい。
エリクサーは人口で作ることが困難であり、1年で数個作ることができれば良いレベルの物。そんなことができるのは大魔術師モルガーナ、もしくはその弟子達ぐらいだろう。
「もう一度言いますが劣化品ですよ。本物のような効果は当たり前ですがありませんし、それどころか副作用まである始末。単なるエネルギー剤のような物だと思ってください」
「でも、劣化品とはいえエリクサーとなれば―」
「兎も角、劣化品ですからね」
「...はい」
「あと、その体の硬直ですがもうすぐに無くなると思いますよ」
そう言われて足を動かそうと筋肉を稼働してみる。
確かに動くようになっていた。ベットから降りようと身体を動かそうとすると彼女は僕の体を押さえつけて、無理矢理寝かそうと枕に僕の頭を押し付けるとこう言った。
「一応、今日1日は安静にしておいてください。薬を投薬したのも身体を休ませる為なんですから」
「...何から何まですいません」
「いいんです。さっきも言いましたが私が好きでやっていることなので。私はこの教会から出ませんから、何かあれば呼んでください」
ここで気づいてしまった。彼女のことを何と呼べばいいのだろう。気軽にシスター、と呼ぶのは違う気がする。ならば名前を聞こうと思い、呼びかける。
「あの僕、サドラって言います。貴方はなんというのですか」
彼女は、優しく笑いかけるような表情を浮かべると口を開いた。
「サーベイ。私のことはサーベイ、と呼んでください」
そう言うと消えるようにどこかへ行ってしまった。
あの人、もといサーベイさん。多分いい人なんだろうけど、何であんなに笑っているのに、悲しそうに見えたのかな。
一人残された空間に鳥の音が響く。名も知らない鳥が聞いたことのある音色を奏でている。
空を仰ぎ見ると、多様な形をした雲が流れて行くのが見える。そうして、雲を眺めている内に、少年は眠りに落ちた。
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面白かったなら私も嬉しいです。
私は一気に筆を進めることはないので投稿ペースは遅いと思いますが何卒よろしくお願いします。
これからも拙い文章力で頑張っていくので生温かい視線で見守っていてください!




