モリオンと学園へ
「モリオンがついていく?学校に?」
私は洞窟の中でモリオンを見つめながら確かめるように聞いた。
『そうだ』
「えぇっ!!??」
モリオンの返答に私は叫び声を上げた。
「いやどうやって!?」
流石にこの巨体では学園に行くことはできない。
『"指輪になる"』
「指輪になる」
私はオウム返しになった。私の困惑した心を読んだのだろう、モリオンは言霊を発した。
『見た方が早い、よく見ておけ』
私は困惑したまま、モリオンを凝視する。そしたらモリオンはどんどん小さくなっていく。私は小さくなるのに合わせてモリオンに近づいていく。するとなんということでしょう!
"私の足下には蛇が自分の尾を噛んだかのような形の指輪があるではありませんか!"
「なるほど!そのままの姿で小さくなって作り物の蛇の指輪だってことにするんだ」
『そういうことだな』
「ん?」
私は一拍置いてある事に気がついた。そしてまた叫んだ。
「蛇の指輪を付けてる令嬢って怖くない!?」
『しょうがない。儂が心眼で周りを見えるようにしようと思ったら指輪になるしかない。ネックレスだと前しか見えんからな。指輪なら後ろにも手を向けられるだろう?』
「心眼で周りを見る?」
私はモリオンの目を確認するためにかがんで指輪を取り、立ち上がってそれを眺めた。
「あぁ、蛇の目のところにルビーの宝石でも付いているかのように見せてモリオンは目を開いてるってことね」
『そうだ。それに指輪なんて小さいんだからそれが蛇だとは分からんだろう。ブレスレットも考えたが、それよりは目立たないと思わないか?』
「確かに言われてみたらそうかも……」
私はモリオンの言葉を聞いて蛇の指輪でもなんとなく大丈夫な気がしてきた。なんなら指輪を左手の薬指に付けようかと考える余裕すら出てきた。
『左手の薬指はダメだからな?そうだな……右手の中指にしておけ。その辺がサイズ的にちょうどいい』
モリオンは先に釘を刺してきた。私は渋々右手の中指に指輪をつけた。少しモリオンが大きさを調整すると指にフィットする。
「おぉ〜!!」
私は指輪を眺めて感激する。モリオンがすぐここにいる。学園についてきてくれる。衝撃が先にきて忘れていたが、その事はとても心強い。
『さて、儂は言霊を送る相手を選べ、そしてお前の心が読める。つまり、疑似的なテレパシーが使えるわけだ。だから、指輪に向かって話しかけるなんて真似はするなよ』
(はい!分かりました!)
『確かに話しかけてはいないが、虚空に向かって笑顔を向けているのも中々におかしいぞ……』
(なんてこった……テレパシーの練習をしなくては)
しかし、そろそろ学園に戻らないと夜が明けてしまうので、私達は洞窟を後にした。
***
私はなんとか夜が明ける前に自分の寮の部屋に戻ってきた。急いで今日の授業の用意をしないと……
『魔法の教科書を忘れているぞ』
(ありがとう!ついさっき思い出したはずなんだけど、他の物を用意してたら忘れてた!助かる、非常に助かる。便利だ……)
『儂は便利な道具ではない。自分で気がつけ。今度からは教えてやらん』
モリオンは言霊で突き放した。私はこれで忘れ物しないようになるかもという期待に胸を膨らませていたので、パァンッと期待が弾けた。その後も……
『心が読めん。儂にお前が見えるようにしろ……こんな事も分からないのか?』
授業中に言霊を放って指示されたから、その通りにモリオンの目を私に向けてあげたのに!今度は私を無学だって罵倒したんだよ!?それに……
『昼食の時も一人か。寂しいものだな』
昼休みには私がボッチであることを指摘してきたりと散々である。あれ?なんで私、この毒舌モンスターと一緒にいるんだっけ?こいつの方が陰口を叩く貴族よりもひどいこと言っている気がするんだが?
『しかし、それでも儂が好きなんだろう?惚れた弱みというやつか?』
ニヤニヤ顔が思い浮かぶような言霊に遮られる。心の中にすら安息がない。はぁ……それでもこの指輪をゴミ箱に叩きつけたりしないのはモリオンの言う通り、惚れた弱みだからなのだろう。いや逆に考えるのだ。これはチャンスなのだと。モリオンを落とす絶好の機会!逃してなるものか!次の魔法実習ではかっこいいところを見せて……それは私が男性である場合の思考な気がするけど、まぁいい!いける、いける!
そして午後の実習が始まり、魔法をドンパチ使うことができる外に出ている。魔法の実技と言っても令嬢達に求められるのは魔法の制御。その上でどれだけ緻密に操ることができるかが魔法実技の肝である。私の魔法は適当この上ないが、それが一番緻密に操れる。あとは名誉を挽回するため、できるだけ威圧しないような綺麗な魔法を心掛けている。
「アイス」
ルピナスの番がやってきて水派生の氷属性魔法を見せる。やっぱり兄妹なんだなぁ。手の平にあるのは氷の結晶。そして、ついに私の番がやってくる。さて、こんな戦闘狂だが、これでも魅せる戦いをしてきたんだ。魔法の美しさには自信がある。
「ファイア」
まずは火を舞わせよう。私の周りを円状に火で囲う。そして、私が手を上げるのに合わせて火を大きくする。私もクルクルと回りながらどんどん激しさを増していく。火の魔法を解いて、次は火の粉が舞っている中で水の魔法を使う。
「ヴァサ」
火の粉に当たらぬように水を舞わせる。流動性のある水はどんな形にもなる。火の粉の隙間を縫うように踊らせる。火と水の共演だ。最後に火の粉が消える前に風属性魔法を使う。
「ヴィント」
火の粉と水を消さぬように風で舞い上げ、ゆっくりと火の粉と水が降りてくる。その時も火の粉を水で消さないように細心の注意を払う。
『ほう、思いの外綺麗な魔法だったな』
私の魔法が終わった後、モリオンが感心したように言霊を放った。
(戦闘狂の私にもこんな綺麗な魔法が使えるのよ!ドヤァ)
『魔法の座学ができなかったら総合的に魔法ができんということになるがな』
私の自信を一瞬で折られた。悲しい。だが、それはつまり魔法の座学さえできるようになれば魔法が私の得意科目になるということだ。諦めるのはまだ早い。授業が終わった後、私は一人で夕食をささっと済ませた。この後、勉強するためだ。そしてお風呂にも入ってしまおうと思ったが、ここで問題が発生した。
(モリオン、どうしよう?ここに指輪置いておく?流石に裸を見られるわけにはいかないし……いやむしろ見せにいくべきなのか?)
『見せにいくべきなのか?じゃないだろう!ここに置いていけ』
私は指輪を見つめて心から話しかける。
(それはつまり……私の体を見るのが恥ずかしいと思うくらいには私を意識してくれているということ!?)
『違う』
やっぱり普通のトーン。照れ隠しのようには見えない。何故だ、こんなに恋愛に積極的になっているはずなのに全く進展がない。いやこうやって学校についてきてくれたのは進展だろう。まだ私には百の攻略パターンがある。諦めずにいこう。
(だけど、指輪って外したら無くしそうなんだよなぁ)
『そこは儂が言霊で教えるから問題ないだろう』
(その手があったか!)
私はモリオンに言われた通りに指輪を外してお風呂に入り、帰ってきたらモリオンに教えてもらって再度指輪をつけた。その後、勉強をして私は眠った。その時モリオンは勉強を教えてくれた。年の功か、それともその心眼ゆえかモリオンは博識だった。
***
翌日。私は朝食を取り、自室に戻って食べようと思っていた。時間にして八分。
"その間に私は連れ去られた!"
朝食のパンを取ったところで腕を掴まれ、連れ去られる。もちろん振り解けるが、暴力的な行為は私の噂的にNGである。それに連れ去った人物がルピナスの兄、ブローディだったので大人しく付いていく。しかし、それは別の問題が浮上することとなった。
(女性が男性に連れ去られてるんだよ!モリオン助けないと!!)
"そう、恋愛的な問題である!"
『はぁ?助ける必要性がない』
(いやいや、私なら自力で抜け出せるかもしれないけど、乙女として助けて欲しいじゃん!!)
『それだと儂へのお前の好感度が上がるんだろう?もうお前は儂が好きなのだからする必要がないではないか』
(そうだけど!そうなんだけど!なるほどね。モリオンの好感度を上げるイベントが起こってもらわないことには始まらないってことか。じゃあ、なんでこのイベントが今起きてるんだよ!)
『知らんわ』
私の痛烈な叫びも一刀両断される。
"モリオンとの会話で吹き飛んでいたが、一体なんでブローディは私を連れ去っているんだろう?"