ロイヤルデート
私、ルピナスは唐突にフリージアと出かけることになった。馬車に乗り、王都で降りる。こ、これってまるでデートでは?私の乙女な脳内がそう答えを出す。いやいや、そんなわけない。確かに、男女で出かけてはいるけどフリージアに好意はないもの。ただ婚約者の義務として仲良くしないといけない。そのために出かけているだけなんだから。
「さぁ、一軒目に着いたよ。手を取って」
フリージアは馬車から降りる時、サッと手を出す。こういうことをするから勘違いする女が出てくるのよ、前世の私みたいな。フリージアにとってこれは呼吸するのと同じようなものなんだから意味はない。私は手を取って馬車から降りる。するとそこは貴族御用達の高級な仕立て屋だった。落ち着いた外装でありながら細かい装飾が美しい。中に入ると生地の様々な色合いがさざめいていた。
「フリージアだ」
「ようこそお越し下さいました。言われた通り、今ある全ての服を用意しております」
店主はお辞儀をしてこう言った。私はその言葉にえっ?と驚く。
「これとかルピナスに似合うと思うよ」
私が硬直している間にフリージアは濃紺のドレスを持ってきた。その声を聞いて私は正気を取り戻した。
「今ある全ての服をここに集めさせるなんて無茶なお願いしたの?」
「あぁ。君のためだからね。そのくらい無茶のうちに入らないよ」
フリージアはにっこりと笑顔を浮かべる。私はどんどん冷静さを欠いていく。
「それはあなたじゃなくて店主の方がしなくちゃいけないのよ?あなたの努力ではないじゃない!」
「そうだね。君のためなら権力だって振りかざすという意味だよ」
「そんなこと言って……あなたは王太子なのよ?」
「王太子の婚約者である君が散財するのはいいのかい?もちろんそれは別に構わないんだが、君も人のことは言えないだろう?」
私はぐうの音も出ず、黙り込む。悪役令嬢ぶるために散財していたのは事実だ。それに気をよくしたフリージアはどんどんとドレスを持ってくる。これではただの着せ替え人形だ。私は今後の身の振り方を改めようと考えながらドレスを見繕った。
***
何十着も買おうとしたフリージアをなんとか押し留め、何着かドレスを買った。次はランチを食べるらしい。そして、これまた高級そうなお店にやってきた。私はフリージアにエスコートされ、席に着く。前世で言えば高級フレンチのレストランに似ている。しかも、ここはフルコースのようで料理がテーブルに運ばれてくる。
確かに、服も料理も職人の方に屋敷まで来てもらうことが多いので、お出かけではあるのだが……なんだか街ブラという感じではない。
"そう、自由感がない!"
決められた場所に行くだけなんてこれじゃ屋敷にいる時と同じじゃない。なんか違う感が否めないなと思いつつも、食事を口に運んだ。うーん、繊細な美味しさはやっぱりよく分からない。美味しいかと言われれば美味しいのだが……上手く表現できない。
残りはデザート。私はティラミスを前にして心が踊っていた。料理と違って甘いものは別だ。安くても高くてもどんなものでも浮き足立つ。
「ルピナス、あの後は大丈夫だったかい?」
デザートを食べている途中でフリージアから声をかけられる。
「あの後とは……?」
「男爵令嬢に礼儀を教えていただろう?どうだった?」
男爵令嬢……アネモネのことだ。フリージアはアネモネのことが気になるんだ。アネモネは大蛇が好きとか言っていたけど、やっぱりフリージアとアネモネが結ばれるんじゃ……
「彼女は……」
悪役令嬢として彼女を貶してしまおうと思った。しかし、アネモネの言葉を信じないのはどうなんだろうか?彼女は大蛇が好きだと言った。そして何より、私の恋を応援してくれた。その言葉は嘘、アネモネもフリージアが好きだと考えるのはアネモネに失礼じゃないか?だから……
「彼女はまぁ、打てば響くように素直ですから貴族としての振る舞いも身についていくのではないでしょうか。他の貴族に足元を掬われそうですが。彼女には強さがあり、王家の役に立つのでしたら父上の考えと違い、平民でも貴族にして良かったと思いますよ」
これが私の精一杯の褒めだ。ごめん、アネモネ。
「そう……君が人を褒めるなんて珍しいね」
フリージアは視線を下に向けて考え込んでしまった。やはりどう足掻いてもフリージアはアネモネに興味を持ってしまうのか。ルピナスがフリージアを好きにさせたらいいなんてアネモネは言っていたけど、無理な気がしてきた。
「また出かけようね」
デザートを食べ終えてフリージアはこう言った。私はフリージアとアネモネの架け橋になるんだろうか。これじゃ悪役令嬢じゃなくて当て馬令嬢じゃないか。そんなことを考えながらデートが終わった。