悪役令嬢登場!
「あらあら、婚約者である私を放っておいて成り上がりの男爵令嬢と仲良くされているとは」
台詞もまさしく悪役令嬢!私はついに悪役令嬢に出会った!でも、転生令嬢が悪役令嬢を演じている可能性もある。それに王子よりも悪役令嬢と仲良くしたいから私はこう言った。
「そうですよね。婚約者がいらっしゃる男性を側につかせるなんてよろしくありませんよね。ですので、所作の綺麗なあなたのようなご令嬢に側についていただき、所作を教えていただきたいです!」
悪役令嬢は嘲笑を固まらせたが、一瞬で気を取り直した。
「いいでしょう。私が厳しく指導して差し上げます」
不敵に笑う悪役令嬢に私は笑顔でこう返事をした。
「はい!」
「良かった。頼むよ、ルピナス。あと、嫉妬するルピナスも可愛らしかったね」
王子は悪役令嬢にこう言って去っていく。背景に薔薇が咲いてたな、あれは。悪役令嬢は顔を真っ赤にして王子の後ろ姿にこう言った。
「違います!」
私は何を見せられてるんだ?いや、こういうイチャイチャの供給はありがたいんですよ?ありがたいんですけど、私はモリオンと何の進展もないのに!おっと、思わず真顔になっていた。よし、笑顔になって悪役令嬢に話しかけよう。
「では、教えていただけますか」
「えぇ、私の指導についていけるか分からないけれどね」
悪役令嬢が綺麗に口角を上げて笑った。いや、そんなこと言ってるけど、可愛さが滲み出てるのよ。
***
別室に移り、作法を教えてもらう。ルピナス、確かに厳しいよ。厳しいけど、上手くできたらめっちゃ褒めてくれるんだが!?厳しくされたら萎縮するし、褒められたら調子に乗る私としてはこの教え方、本当にありがたい!
「ちゃんとできるんじゃない!なら最初からやりなさい」
「ブルースター令嬢の教え方が上手なんです。ありがとうございます」
私は礼をして感謝を伝えた。所作を一通り教えてもらうことができた。しかし、私の本来の目的は悪役令嬢が転生令嬢か確かめ、仲良くなることだ。
「悪役令嬢、聞いたことがございますか?」
単刀直入が過ぎたか?しかし、部屋から出ようとしたルピナスはギクッと肩を震わせた。これは当たりだ。
「悪役令嬢?何を言っているのかしら?」
振り返ったルピナスの冷たい視線は何も知らないのかと思わせるが……
「人払いを。護衛も必要ありません。こんなあからさまな状況で私を殺すほど、彼女も馬鹿ではないでしょう」
ルピナスの言葉にあぁ、これは転生令嬢だと確信する。人払いが行われ、私は口火を切る。
「もう話をしても?」
「えぇ、貴方も転生したんでしょう?」
私は意思表示のため、簡潔にこう言った。
「その通りです。私は攻略対象を攻略する気は全くありませんから……
「"お願い!フリージアを攻略して!"」
ルピナスは私の言葉の間に割って入った。そして、悪役令嬢の仮面が外れ、私に駆け寄って縋り付く。
"えぇっ!これは予想外の展開!"
いや、特に予想してた展開なんてないんですけどね!この状況、一体どうすればいいんだ?私はとりあえずルピナスを引き離し、冷静に話を聞こうとする。が、ルピナスはしがみついて離れない。これ以上力をかけようと思ったらルピナスを突き飛ばす形になってしまう。私は仕方なくこの状態のまま話を聞くことにした。
「王子様、フリージアを攻略してってどういうこと?」
「フリージアには幸せになってもらいたいの!ヒロインと一緒にいつまでも幸せに……だから、フリージアを攻略して!」
ルピナスは私を涙目で見上げ、上目遣いをする。私は拒否することができないと咄嗟に思った。それほどまでに美人のルピナスの弱った姿はグッとくるものがあるのだ。が、私はNoが言える日本人である。そうなりたいと思っている。ということで、私は反論した。
「幸せは本人が掴み取っていくものでしょ?ヒロインと結ばれなくちゃいけないという理由にはならないよ」
ルピナスは私の言葉にハッとしていた。そして、少し冷静になったのか私から一歩離れた。
「で、でも……」
ルピナスは下を向いている。私はルピナスにどういう言葉をかけるべきなのかなんとなく分かった。
「私も人のこと言えるほどではないけど、この世界はゲームの中の世界じゃない。現実なんだ。結ばれなくちゃいけないとかそういうものがあるとは思わないし、それが一番良いとも思わない。それに……
"君はフリージアのことが好きでしょ"
なら君がフリージアを攻略する、好きにさせるべきだよ」
ルピナスはそんなこと考えもしなかったとばかりに驚いた顔をして私を見つめる。しかし、ルピナスはまだ納得がいかないようだ。
「で、でも……私は悪役令嬢で」
「ここは前世の延長線上じゃない。新たな第二の人生だ。好きなようにしていいと思うよ」
私は微笑みかけながらそう言った。ルピナスは言葉を彷徨わせながらこう言った。
「私は……フリージアを好きでいていいの?悪役令嬢でいる必要はないの?」
「もちろん!ルピナスがフリージアを好きにさせてもいいよ」
「う……う……」
ルピナスは泣き出した。これはきっと安堵、喜びの涙だ。私は思う存分泣けるように一歩近寄ってルピナスを抱きしめた。
***
しばらくしてルピナスが泣き止んだので、私達はテーブルについた。
「もう大丈夫?」
「も、もちろんよ!」
ルピナスは恥ずかしいのか赤面しながらそう言った。可愛い。
「それなら良かった。でも、フリージアとルピナスのやりとりを見てたら普通に脈があると思うけど?好きって言ったらすぐにくっつきそう」
「でも、フリージアは腹黒王子キャラだからあれぐらいのことは本気じゃなくても言うし……」
さっきの弱々しさはどこへやらルピナスは怒ったような顔をする。
「あぁ……」
私もそんなキャラだった気がすると思い、同情の声を出した。そして、私は話を続けた。
「ところで、乙女ゲームのストーリーって一体何があるの?無課金でやろうとしたから全然知らなくて」
「乙女ゲームを無課金で?なぜできると思ったのかしら?でも、さっき乙女ゲームは関係ないって言ったじゃない」
ルピナスは私を訝しげに見つめる。
「うん。関係ないよ。だからストーリー聞いてフラグ全部ぶっ潰しとこうと思って。ストーリーに邪魔されたらたまらないから。それに戦えるモンスターがいるなら戦っときたいし!」
私があっけからんとそう言うとルピナスはポカンと口を開けて驚いていた。気を取り直し、ルピナスは話し始めた。
「えっと、重要なフラグになるのはやっぱり、どのルートでも第二王子のカルミアが第一王子のフリージアの廃太子、廃嫡を企んでいることよ」
「廃太子は確か王位継承権が無くなるみたいな?」
私は首を傾げてうろ覚えの知識を披露する。
「その認識でいいわ。そして、カルミアはフリージアを廃嫡させて自分が王になろうと考えているの」
「要はフリージアの暗殺!?」
私は血みどろの兄弟争いをイメージする。しかし、ルピナスは首を振った。
「それだったらほとんど不可能に近いわ。フリージアはハイスペックの塊だからやすやすとは殺せないし、護衛もいる。だから無血革命を起こすのよ」
「無血革命!?それこそ難しいんじゃ……」
私は思ってもいない方向性に驚いて言葉を繰り返す。
「ストーリーで阻止されるけれど、それでもギリギリ。難しいはずの無血革命をやってのけたのよ。結論から言えば、王となるならば守護神の加護を受けていないといけないということを利用したの」
「守護神の加護??」
私の頭の上に、はてなマークが浮かぶ。
「古いしきたりよ。誰も気にしないような決まり。守護神の加護を受けているかどうかなんて確かめようがないんだから」
「でも、確かめる方法を見つけ出した」
「そうゆうこと。初代の王が守護神の加護を受けて封印した王城に眠るドラゴン」
「王城に眠るドラゴン!?」
この発言は驚きではなく興奮である。戦いたいという類の興奮。しかし、ルピナスはただの驚きだと思ったのか話を続けた。
「そのドラゴンを復活させてフリージアではなく、カルミアが倒すことで自分の方が王に相応しいと証明するわけ。どさくさに紛れてフリージアを殺せれば尚良しと」
「それは無血革命とは言わないのでは?とにかく、先にドラゴンをぶっ倒しとけばフラグが折れると」
この提案には私がドラゴンを倒したいという欲目もあった。
「えぇ。ドラゴンを倒すのに必要な物は三つ。精霊の聖水。黄金の枝。蒼炎の盃。それと王家の血筋の者ね」
「でも、なんでゲームでそれゲットできてるの?カルミア派もドラゴン倒そうとしてるなら獲得しようとするはずでは?」
「カルミアは目立たないように最終盤になって集めるつもりだったんだけど……たまたま攻略対象達がアネモネに連れられて各地を冒険していたら先にキーアイテムを集めてしまっていたってことね」
「なんてご都合主義な……」
ゲームのストーリーに思うところはあったが、とりあえず私は話をまとめることにした。
「それじゃあ、今後の目標としてはその三つを集めるのと王家の者であるフリージアの説得。最終的にドラゴンを倒すってことでいいかな?」
「えぇ!なんだか未来に向けて計画を立てるなんて転生物っぽくなってきたわね?」
「うんうん、ドラゴンと戦う日が楽しみだよ!」
私はルピナスからえっ……と引かれた顔をされた。こればっかりはしょうがない、私はこういう人間なんだから。
「あっ、そうそう。モリオン……大蛇の攻略対象、もしくは敵キャラって出てくる?私、その大蛇のことが好きなんだけど……」
「は?」
ルピナスが固まってしまった。私はおーいと彼女の視界の前で手を振る。
「大蛇を好き……それはまぁ、置いておいて大蛇なんて出てきた覚えがないわ。攻略対象は三人だけで人外キャラなんて出てこないわよ?そして、敵キャラでもない」
「そっか、ゲームとは無関係のキャラなんだね、モリオンは」
「大蛇が好き……?」
ルピナスに困惑を与えて、ヒロインと悪役令嬢の対談は終わった。