乙女ゲームのヒロインは
私個人の罪は王家への服従というところに落ち着いた。しかし、貴族に召し上げた平民が罪を犯したのだ。王弟殿下でなくとも国王陛下の責任を追求したい貴族もいるはずではあるが……事実その罪を追求しようとして王弟殿下は処刑に追い込まれている。その情報筋が私たちであることは貴族の間で暗黙の了解だ、彼女は心が読める魔物を操っていると。そう思えばどんな貴族であれ、私の罪や国王陛下の責任を追求しようとは思わない。関わりたくないのだ。どうやら貴族というのはみな全て、心を読まれるとまずいらしい。そのおかげで私の父上は貴族から追い落とされることもなく、領地を維持できている。
私は罪人として初めての仕事をもらった。私の父上の領地で魔物退治をする仕事だ。移動中の川舟で首輪のようにつけられたチョーカーを触った。
(これはいつでも爆発できる代物なんだって)
『儂も何やらよく分からないカプセルを飲ませられたが、あれも爆発物か』
逆らった時のために殺せるようにしておくのは道理だ。逆らわなくても殺される可能性も考えたが、私達の存在が脅しになっているから国王陛下やフリージアは罪の追求を逃れている。これらの管理は国王陛下の元で行われているだろうし、そうそうのことがない限り爆発させないだろう。ならば大人しくつけておかないと。
そんな風に他のことを考えていないと耐えられなかった。父のことを考えたら……いや、やめよう。領地に入る前も後も父のことが頭に浮かんだが、振り払う。しかし、とうとう父の屋敷までやってきてしまった。本当は足を止めてしまいたかったが、それも怖くて父の部屋の前まで来た。ノックをしようとして手が止まった。
「アネモネか?入っていいぞ」
ノックを聞かずとも私の気配に勘づき、中にいる父からそう声をかけられた。言われてしまったからには入るしかない。私は扉を開けて二歩、部屋の中に入ると膝から崩れ落ちた。私は下を向くと涙が溢れてきた。そして、泣きじゃくりながら言った。
「ごめんなさい……私は何言われてもいいけど、お父さんは罪人の父として貶められていいはずがない」
前世の記憶があるとはいえ、今世での父も大切な人だ。ここまで育ててきてくれて冒険者としての師でもあり、相棒でもあった。素晴らしい人でとてもこんな不名誉を受けていい人物ではない。それなのに、それなのに私が汚名を被せてしまったのだ。
「アネモネが望むならばその魔物を倒してこよう」
父から投げかけられた言葉はきっと善意。でも、恐ろしくて私はより縮こまる。
「ごめんなさい……お父さんのことを考えたらその方がいいのは分かる。でも、でも……それはできない。それをするなら私は、私は……敵対せざるを得ない」
最悪の想像をして私は涙が止まらなくなる。
「……分かった。魔物のことはもう何も言わない。ただ俺のことは気にするな。何、そう暗い話でもない。また冒険者として実績を積めばいいだけの話だ。そうすりゃ、罪人扱いも薄れて必要な存在として認められるだろう」
父は近づいて私の背中をさすってくれる。冒険者として魔物を悪く思う気持ちだってある父が魔物に関して何も言わないのは最大限の譲歩だ。今は認めていなくてもいずれ認める余地を残してくれたのだ。
父の考えは光を指し示してくれた、罪人として暗闇の中をモリオンと一緒に生きていくんだと思っていたところに。世界を敵に回してもモリオンと一緒にいる、なんてまだ思わなくてもいいのかもしれない。他ならぬ父のためなら、まだもう少し世界と適応する努力をしよう。
***
それから涙は止まったものの、一緒にいたらまた泣き出してしまいそうで逃げるように魔物退治に出かけた。
しかし、魔物退治はサクッと終わってしまった。足取り重く、屋敷へ向かう道中で村の教会を見つけた。結婚とかそういうものに憧れるほど無垢ではないが、教会で愛を誓い合うというのは少し憧れる。
『やってみるか?』
(えぇっ!?)
モリオンの提案で夜、部屋を抜け出して私達は地中に潜った。あまり褒められた行為ではなかったが、屋敷に居づらかったというのもある。モリオンが地面を操って教会の再現をする。左右には長椅子が並び、正面にはステンドグラスの代わりに幾何学模様の彫刻が掘られている。
「場所も場所だし、神に誓うのは違うよね」
『儂に誓えばいいだろう。儂ならば神の代わりくらいできる』
モリオンの大言に私は思わずふふっと笑う。
「そんな無茶苦茶な……うん、でも……それでいいよ」
モリオンは指輪状態から小さな蛇になり、私の手の平の上に乗る。そして、私はバージンロードを歩いた。彫刻の前までやってくると私は右を向き、モリオンと向かい合う。
「モリオンは病める時も健やかなる時も私を愛すると誓いますか?」
『あぁ、誓おう』
『アネモネは病める時も健やかなる時も儂を愛すると誓うか?』
「はい、誓います」
「では誓いのキスを」
私はモリオンに顔を近づけ、キスをする。そして、少しの沈黙の後に私とモリオンは顔を見合わせて笑った。
「ふふ、うん、嬉しいや。ただ前世では世界を敵に回してもあなたを愛するっていうのに憧れてたんだけど。やっぱり私には今世でも無理そう。人間社会で上手くやっていくために一緒に四苦八苦することになっちゃうかな」
『一回世界を敵に回しかけたんだ。それで十分だろう。それに……魔物を愛するのなんて世界を敵に回して愛するのと同義だ』
私は目を瞬かせてニッコリ笑った。
「そうだね……前世での憧れの恋愛を今世でできてるってわけだ!嬉しいね」
『次は指輪の贈呈だな』
「指輪?」
私が不思議に思っているうちにモリオンはスルスルと小さくなる。そして……
"私の左手の薬指に嵌った"
初めてモリオンが指輪になった時、私が冗談めかして左手の薬指にって思っても右手の中指だったのに。あぁ、そうか、本当にモリオンは私のことを好きになってくれたんだ。片思いが実を結んだのか。『儂に恋慕を抱いているだろう?』なんて言われて始まった恋。その時もこんな洞窟だったけど、あの時とはまるで関係性が変わった。私は左手の薬指に嵌ったモリオンを見て笑みが溢れた。
"乙女ゲームのヒロインは大蛇を攻略しました!"




