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運命の出会い?


 翌日。私はもうすっかり元気になって北方の山を探検することにした。ちゃんと一人で行っても大丈夫だと父の言質も取った。私は剣と少量のポーション、縄を持って山を登った。

 アイスドラゴン討伐の時と同じ方法で登っていくと討伐の際には見なかった洞窟があった。洞窟には入らず、入り口から中を覗く。暗闇は深く、中は結構続いていそうだった。私は洞窟に潜る準備はしていなかったため、とりあえずここは無視しようと視線を洞窟から外した。

 その時、私はいつの間にか洞窟の中にいた。私は一つの可能性が思い浮かび、急いで後ろを振り返る。そこは壁だった。


 "嵌められた"


 魔物が私を迷宮に無理やり連れ込んだんだ。私は暗闇の中で考える。前に進んで出口を探すべきか?いや、この迷宮は魔物が支配している。出口があるとは考えにくい。私の魔物の知識の中からこの状況を作り出す魔物が一体いる。

 人を惑わす迷宮の大蛇。地を動かして迷宮を作り出し、人の心を読む眼と幻覚を見せる毒によって人を惑わす。伝説にのみ出てくる大蛇。伝説度で言えばアイスドラゴンなんかちっぽけなものだ。

 本当に伝説の大蛇がいるのだろうか?人間の弱さを突く私の理想の魔物が?人間に勝つためのものを完璧に兼ね備えている大蛇が?私の顔に笑顔が浮かび上がる。


 "戦いたい!"


 心が燃えていけばいく程、頭が冷えていくのが分かる。大蛇は心眼を使って弱みを掴むために私を見る必要がある。もしかしたらどこかから見られている?私は剣を引き抜き、いつでも目を突けるようにする。壁を手で伝いながら穴が無いかを探る。


 "穴があった!"


 私は剣を突き刺そうとした。だが、穴はなくなってしまい、剣は壁に当たった。私はよろける。迷宮はなくなり、天井の高い洞窟になる。


『迷宮に迷い込んで出口を探さず、穴を探すという正しい選択に免じて姿を現そう』


 耳で聞こえず、心に直接入ってくる。その言霊は男性の低い声をしていた。私が周りを見渡すと洞窟の奥には大蛇がいた。心眼である赤い瞳、鱗は黒く闇に溶け込んでいる。毒を持つ牙は少し掠るだけで死んでしまう。チロチロと出てくる舌は妖しさを醸し出している。


 "美しい"


 それが大蛇に抱いた最初の思い。


『面白い娘だな。儂を見て美しいなどと思うとは。さて、どこまで楽しませてくれるか』


 次の瞬間、洞窟から野原へと風景が切り替わっていた。街道横の野原。その先に四速歩行の影がいくつも見える。魔物、ウルフの群れだ。これは過去の記憶。幼い私の記憶だから視線が低い。幼い私はウルフの特徴である嗅覚の鋭さと視力の悪さを活かした。


「ファイア」


 マッチのような小さい火が私の指先に灯る。どうやら今の私は動くことができない。過去の私の追体験しかできないようだ。その火で独特の匂いがする薬草を燃やした。そして、道に薬草を並べて炎の壁を作った。

 狼煙として他の人に知らせることもできるし、ウルフの方は嗅覚が鈍り、炎に怯むことになる。我ながらいい行動をしたと思いながら街へと逃げる。後ろを振り返るとウルフが炎の壁に阻まれていた。これなら大丈夫。


 "フラグである。そして、フラグ回収は早かった"


 ウルフの内の一匹が炎の壁を突き抜けてこっちに向かってきたのだ。私は慌てたが、冷静に考える。嗅覚も鈍っているし、野原に隠れて物音を立てなければウルフは私に気が付かない。丸見えではあるが、ウルフの視覚は鈍い。

 いよいよウルフがここまでやってくる。心臓の鼓動が聞こえるのではないかと心配になる程、バクバク言っている。案外素っ気なくウルフは私の目の前をあっという間に走り去っていった。私はもう大丈夫だと腰が抜けて尻餅をつく。すると……ウルフはその音に気づいたのか、私の方へと走って来た。


 "また、フラグを立てて回収した!"


 ウルフに気付かれ、武器もない私に勝ち目はない。フラグ一級建築士の肩書きを名乗ってもいいかもしれない。私は現実逃避を始めた。ウルフが飛びかかって来た。噛みつかれる!!そう思ったその時……赤髪の男性がウルフと私の間に割り込み、ウルフを剣で突き刺した!


「大丈夫か!」


 赤髪の男性、もとい私の父であるアーサーが倒してくれた。


『ふむ。幼い頃に魔物に襲われた経験などトラウマに違いないと思っていたのだが……』


 風景は再び切り替わり、洞窟へと戻ってきた。


『お前、あの経験に恐怖ではなく、興奮を感じるとはな』


 私は片方の口角を上げてニヤリと笑い、こう言ってやった。


「魔物と戦うのが、生命の駆け引きが楽しいと思えるから冒険者やってるんだよ」


 あの出来事は私が冒険者になったきっかけだ。トラウマだなんてとんでもない。


『"前世"では生命の駆け引きとは無縁だったからか?』


 洞窟の中が一段と冷えたような心地がした。前世のこと、なんで……?


『心を読むというのは記憶を見るということでもある。前世の記憶なんてものがあるとはな、ハハハ!』


 大蛇はこちらへと近づいてくる。剣を取れ、剣を!しかし、魅入られたかのように身体が動かない。大蛇がスルスルと私の周りを回り始めた。ここにいてはいけない、動け、動け!


『前世では魔物などいなかったものな。人と人同士の争いに嫌気が差していた。ただ食物連鎖のためだけに戦い、獣のように生きられたらいいのにとずっと思っていたんだろう』


 そうだ、その通りだ。私はまるで心の内を理解してくれたかのような感覚に陥った。待て待て、相手は心が読めるだけだ。相手もそう思っているのではなく、私の思いをそのまま言っているだけだ。


『いや?儂も人間より魔物や畜生の方がずっと高尚だと思っているが?』


 高尚って……そこまでではない。まぁ、人間より魔物や動物の生き方が好きなのはそうだが。ただ生きるために戦う、そこに欲はない。あるのは生存本能だけ。その美しさにずっと魅入られている。


『それにしても……』


 大蛇は正面にやってきて私を見つめる。


『お前、儂に恋幕を抱いているだろう』


「そ、そんなわけないでしょ!」


 突然何を言い出すんだ、こいつ!!私は思わず叫んでいた。私の顔が赤くなっていくのが分かる。まるで好きみたいじゃないか!これは大蛇の戯言だ!人の心を乱しているだけだ!


『いやー、魔物を好むなどこれほど面白い者は長い間生きてきてもいなかった。喰うよりも生かしておいた方が暇つぶしになりそうだ。見逃してやるからまた明日一人でやって来い』


 そんな約束に乗る奴、いるわけがない。


『それが乗る奴がいるのだ。絶対にお前はここにやって来る』



***



 私は洞窟の前に戻っていた。さっきの出来事が幻のようだ。狐に化かされたのか?私は夢見心地のまま、村に戻った。宿屋に戻ると父は私の様子を見て心配した。私は少し疲れたと言って部屋に戻った。ベッドに横になって思考に沈む。

 私が大蛇を好き?そんなまさか。でも、心が読める大蛇が言うのだから好きなのだろうか?いや、大蛇が私を惑わすために嘘を言ったんだ。それなら大蛇はあんなに確信を持てるのだろうか?……ああ、もう!私は大蛇の牙から逃れることができたのだから、何も考えなくていい!

 でも、結局戦いにならなかった。明日、大蛇のところへ行って戦うか?しかし、勝てる策もないし、勝てる気もしない。再戦に行くのは自殺行為だ。


 "とりあえず大蛇の事は考えなくていい!"


 私は大蛇のことを考えないように、考えないようにと思えば思うほど思い浮かべてしまう。心を見透かすルビーのような赤い瞳。冒険者として旅をしているから宝石を見かけることも多いが、あれほど綺麗なものは見た事がない。


 "だから考えなくていいんだってば!"


 私はこれからのことを考える。とりあえずアイスドラゴンをそのまま持って帰ってきたが、持ち運びしやすいように結局首を切る必要がある。ギルドにも絶命確認してもらわないとだし。でも、硬すぎて切れないだろうな。大蛇の黒い鱗も硬そうだった。大蛇の鱗、黒水晶みたいに光を吸い込んで綺麗だったな。


 "結局大蛇に戻ってきてる!"


 違う!違う!もっと別の事を考えろ。アイスドラゴン討伐で王家から爵位を貰うことになる。『モネ恋』が始まったらどうしようか……まず悪役令嬢が転生令嬢かどうか確認してみるか。転生令嬢なら私が攻略対象を攻略する気がないことを伝えて、ストーリーを教えてもらおう。でも、どうやって?こんな時に人の心が読めたら……でも、私が人の心を読んだら精神がブレイクしそう。心眼を持つ大蛇、凄いな。


 "また大蛇に戻ってきちゃったよ!"


 別の事!別の事!貴族になったら作法を気にしないといけないのか。走るのも駄目だし。私に気品溢れる行動なんてできるだろうか。大蛇は作法とか関係無しに気品が漂っていたなぁ。


 "まただよ!"


 ここまで話が大蛇に移ってしまうということはこれは大蛇のことが好きなのだろうか?恋をしているかどうかを問答で確認しよう!


 Q 相手の事を考えると心臓がドキドキするか否か?


 A 大蛇の姿を思い描くと……


 "ドキドキする!"


 あれれ……あれれれれ……この問答でイエスだったら恋をしているという私の認識は間違っていないはず!


 "ということは私は大蛇が好き?"


 ……とりあえず寝て、また明日考えよう!私はそのまま眠りについた。


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