七話 魔術師、狂気の面々
これまでのあらすじ
俺は社畜サラリーマンとして25連勤をしてその眠気を飛ばすためにエナドリを飲んだらタイムスリップをした。
そこは平安時代でヒナとシュンという人物に出会った。
彼らはシャーペンを見て驚いていたため、未来人チートを使って大儲けしようとした。
しかしその周辺では神隠しが多発しており一向に働き手が集まらなかった。
原因究明のため一行は事件現場の山へ向かったが、突如現れた魔法陣により異世界に転生してしまった!
「上坂のセンパ~イ」
「ん? どうした?」
「ちょっとここ何ですけどぉ」
「主人公が移動するとゲームが固まってリセットするバグが見つかっちゃいました!」
「はぁ、了解。直しておくよ」
「先輩、こちらに触れると勝手に死ぬNPCがいます。バグです」
「あの、すみません。デバッガーの方からここに入ると閉じ込められて詰むとの報告が。。。」
「は?そんなこと。。。」
「あの、納期6日後なんで急いで直してくださいね」
「え、ちょっとまっ――」
「すみませんバグ一軒入りましたー 序盤でストーリーが進行不可能になるバグです」
「あぁ、嫌だ。。。」
「デバッガーから新しいバグの報告が――」
「もう嫌だって言ってるだろ~~~~!!!!!!!!!!!!」
「。。。」
「。。。」
目が覚めたら俺は赤ん坊ベッドの上だった。
とても現実らしい嫌な夢だった。
とりあえず俺が今できることは赤ん坊でも退治できるコバエや蚊を経験値に還元し、スキルポイントをためて新しいスキルを覚えることだ。また、この世界にはスキルレベルという概念が散在するらしく、鑑定スキルのレベルを最大限に上げることも必要だ。それを歩けるようになるまでの目標にしよう。
《固焼き花瓶 粘土を造形し窯で焼いた器》
《ラベンダー 紫色をしたシソ科の植物》
《羽毛布団 鳥類の羽を原料とした布団》
《オイルランプ 菜種油を燃料として芯を燃やし光源とする道具》
その後も俺は床のタイルや天井、壁紙や外壁、ガラス、格子、水、陶器、ドア、鍵、給仕服、王冠、など、目に入ったものすべてを鑑定した。
気付いたら鑑定の内容もどんどん詳細になり、聴覚と視覚両方で確認ができるようになった。
第一、異世界語なんて読めないのだが。。。
そんな生活を3年間続け、俺は三歳の誕生日を迎えた。
それまでに俺は鑑定の言葉と見える文字を照らし合わせ、何となく異世界語を勉強した。
今は普通にしゃべっても怪しまれないしそろそろ魔法の勉強をしてみたい。
だから誕生日というこの機会に父親に言ってみた。
「ねえ、お父様。僕はもう三歳なので魔法を使ってみたいです。」
どうやら周りの反応がおかしい。
やはり三歳は早すぎたか?
「ルディーよ、お前には魔法はまだ早いと思うのだが」
やはりこうなったか、しかし俺はもうおじさんではない!ピッチピチの三歳児なのである!
俺はこれでもかというほどかわいい上目遣いとうるうるの視線を送った。
父親のSPが100,000,000から50,000,000まで減った。
どうやらこうかばつぐんだったようだ。何に対してかは知らんが。
「し、仕方ない可愛いお前が言うのなら仕方ない。魔王領で一番腕が良いといわれる魔術師を家庭教師につけてやろう」
「落ち着きなさいフェース、そのようなことをしては魔王軍の魔術師は誰の指導で動くのですか?」
「親バカも大概にしてください」
「そ、そうか?では二番目に良い魔術師を――」
「その方も魔王軍ですがどうされるおつもりで?」
「魔法学校に求人を告知せよ。。。今すぐじゃ。。。」
そんなことで三歳という若年で家庭教師をつけてもらえることになった。英才教育というべきか過剰教育というべきか、正直俺もマジで勉強したかったわけではなくお遊び程度に使いたかっただけである。
後日、魔王城で選考会が開かれた。俺のために集まってくれたのだ。なんか申し訳ない気持ちでいっぱいになる。大広間は朝から我こそが一番という魔術師でごった返していた。
「番号一番の者!」
入ってきたのは小太りの中年女性だった。過去に魔王軍として戦争を経験しており、その時に追ったけがで軍を引退したそうだ。
「私はメイリン。水魔法使いでございます。」
そういうと彼女は「イヌンダーツィオ!」と叫んだ。その途端、どこからともなく現れた大量の水が天井があるはずの場所から降ってきた。会場に洪水が起こり、その濁流にのまれた魔術師メイリンは窓から外に流されていった。完全な出オチである。
父が「エフュージオ!」というと目の前の水が手のひらに吸い込まれていった。
「次!番号二番の者!」
次はスレンダーな若い女性だった。ただ、見た目の若さとは裏腹に実年齢は200歳を超えているとか。
「私はエイナと申します。属性は火と水です。」
事前情報によるとこの世界には水、火、土、風、電気という通常属性、または空間、光、闇、時間というレア属性をもって生まれてくる。何で属性を二つ持っているんだ?鑑定してみよう
《個体名"エイナ■■■■■" Lv■ ATK■ DEF■ MP■ ST■ HP■ SP■ 称号:"■■■■■" 属性:火 精霊加護:上位水精霊》
あらら、まだ鑑定のスキルレベルが低いからレジストされちゃったみたいだ。でも生まれつきの属性に精霊加護で新しい属性を足すとは、新しい知識だな。
「では、行きます。」彼女は両手を前に出し
「べーパーステラピートス!」
途端、大爆発が起こった。会場の窓は先ほどの洪水で流されたから割れなかったもの、周りの衛兵やエイナさん本人がめちゃめちゃ熱そうにしている。おそらく水蒸気爆発だろう。案の定エイナさんは城からつまみ出された。
「城が壊れない魔法を使うように!次!三番の者!」
次にやってきたのは今までで一番マトモなルックスをした三十代の女性だった。今更だが魔術師って女性が多いの何で?いや、そんなことはどうでもいい。とにかくこの人がまともなことを祈ろう。
「ベティーです。属性は光です。」
おお!レア属性来た!!これは大いに期待できる。早速光魔法がどんなものなのか見てみるとしよう。
「ライトショック」その威勢のない詠唱からは信じがたいほど強い閃光が目を指した。明るすぎて周りが見えない!さすがレア属性、これはもう決定でいいのでは?そう思ったのもつかの間。天井を見上げるとなんということでしょう。あの薄暗く日光がなかなか届かなかった謁見室と天井に大穴が空いているではありませんか。
オイオイオイ!光魔法にそんな運動エネルギーあるのかよ何でもありだな!
ベティーさんには無事屋根の修理と罰金を命じられましたとさ。
「全然めでたくないわ~~!!」
「やかましい!早く天井を直しなさい!」