二話 未来人チートは用法用量をまもってお使いください。
「なあ二人とも。驚かずに、かつ狂ってると思わずに聞いてくれよ? 俺実は未来から来たんだよね!」
「そんなわけねぇだろうが。証明してみろよ。」
そうきたか、しかし想定内。俺は胸ポケットから50枚の名刺の束を取り出し、一寸の狂いもないことを示して見せた。そして筆記用具の製造会社の努力の賜物とも言える洗練されたデザインと構造のシャープペンシルと少しこするだけでよく消え、しかも折れにくい消しゴム、誤字をしても摩擦による熱でインクの色が消えるペンなどを見せた。シュンは驚いたような感心したような目をしつつ、口はずっと半開きで呆然としていた。しかしすぐにその驚きは感動に変わり、
「すっげえ! 俺は信じたぜ。お前本当に未来人だったんだな。」
「信じてもらえてありがたいぜ、じゃあ早速だが、この村で一番賢い人にあってみたいんだが、可能だろうか」
「お安い御用、連れてってやるよ。こっちだ」
俺がシュンについていこうとしたら何やら半笑いの薄気味悪い目でヒナがこちらを見て言った。
「あの、提案なのですが、そちらのしゃーぺんというものを商品化して販売する権利を私たちにください。そしてそれで収益が出たらその半分をかみざかさんにお渡しします」
いや、うえさかだし。まあいいか。悪い話じゃないよな、第一に俺はプログラマーでエンジニアではないし。ならこいつに任せてもいいのではないだろうか。まあこの時代にそこまでの物再現できないだろう。
「わかった、しかし条件を付けさせてくれ。一年以内に百本売れなかったら販売権利を返す。いいか?」
「交渉成立です。百本と言わず千本売ってやりますよ」
直後に小さな声でヒナが"うっしゃぁカネもらった!"と言っていたことは気づかなかったことにした。
改めて俺はシュンと一緒に街で一番賢く、算術のできる男の家に向かった。名前はユウというらしく、幼い時から算術ができ、その実力を買われて算術を勉強するために隣の国(今でいう県)まで向かったことがあるそうだ。そんな奴が現代日本にいたらおそらく世界的数学者になっていただろう。とても惜しい。
「着いたぞ、ここがユウの家だ。おーいユウー。いるかー?」
「はーい」
と、威勢はよくとも少し幼さの残る男の声が返ってきた。よく見ると眼鏡かけているではないか。たしか眼鏡は江戸時代に作られたはず。なんでこの時代にあるんだ?
「君、眼鏡つけてるんだ。どこで作ってもらったの?」
「これですか? これは神様にいただいた見えないものを見せてくれる道具です」
ふむ、興味深いな。オーパーツということだろうか。神様がくれたと言っているということは技術者が意図的に作ったわけではなく、遺跡で発見された等だろう。まあ今はそんなことどうでもいい。俺はとりあえず自己紹介をすませ、さっさと本題に移った。
「ユウ君、円周率って知ってる?」
「書籍で読んだことがあります。たしか円のはんけーの長さを二回掛けた後ににえんしゅーりつを掛けると円の大きさを表すめんせきが出せると聞きましたね。たしか22/7です」
アルキメデスの円周率か。近似値は出ているが所詮3.14084 < π < 3.14286と、小数第三位で誤差が出る不完全な式だ。確かこの時代に存在している一番正確な円周率は3927/1250(約3.1416)だしこれを知っているだけでもすごいはず。しかし俺は円周率を十桁まで証明する方法を知っているし、証明はできなくとも百桁までは暗唱できる。
「俺が円周率を十桁まで証明できると言ったら驚くかい?」
「え、ええ。書籍ではこれが一番詳細だと書いてありました」
俺はマクローリン展開をユウ君に教え、その後マクローリン展開を用いた円周率の計算を十桁まで計算し、証明した。ユウ君は顔が完全に硬直し、驚きを隠せないでいた。
「あなたは、何者なんですか。こんなに難しい計算を知っているなんて。天才としか言いようがない。あなたがどんな方法でこの答えにたどり着いたかは知りませんが私はあなたに負けました。どうか、命だけは――」
「いや、要らないから。あの、この村の人たちに、できればもっと広く俺の噂を流してくれればいいから。お願いできる?」
彼は一瞬驚いたようにし、というかなんで俺が命を欲しいと思ったのだろうか。そんなに俺の顔は怖いだろうか。彼の目には死神のように映ったのだろうか。とりあえず信じてもらえてよかった。噂の件も命の代わりに精一杯やると言ってくれた。しかし数学で負けたら命を取られるなど、聞いたことが無い。本当にどんな時代だよとツッコみたくなる。
異世界転生と見せかけてタイムスリップでした! 鎌倉時代の人が何で現代漢字を読めたうえで音読みと訓読みを間違えるということができるんだ!?っていうツッコみはなしで。
次話もお楽しみに。