一話 恩人に顔を殴打されたような気分だ
ハッ!?
意識が戻ってきた。ここはどこだろう。あれは何だったんだろう。金縛りだろうか、体が動かない。少しの時間がたち、俺はかろうじて体を動かすことができたのだが、同時に脳に鈍い痛みがはしる。視界がぼやけている。
「・・・・・・・・・・か?」
誰かは知らなういが、女性の声が聞こえる。どこか懐かしいようなそんな声が。
「・・・・・・・・ですか?」
「・・さん。大丈夫ですか?」
ここは病院なのだろうか、こいつは、医師なのだろう。意識はあるのだが声帯がうまく震えず、発声ができない。音もキィー―ンという高周波の耳鳴りによってかき消され、非常に聞き取りずらい。
「おい、ちょっと任せてみろ」
男の声だ、どうやらここには二人以上の人間がいるらしい。
ペシッッッ!!!
「いってぇぇぇぇえええええ!!!!」
顔を殴打された痛みで俺の脳はやっと覚醒した。
「おう、意識は戻ったか」
なんだこいつ!? 患者の顔を殴って覚醒を促す医者が過去にいただろうか。俺は困惑が隠せない顔をして部屋を見まわした。病院ではないようだ。一般家屋にしては古臭い部屋にかなりほころびている和装の二人。女は絶世の美女とまではいかなくとも、顔立ちの整った美しい顔をしており、男の方はハンサムではないものの、凛々しくかつ勇ましい顔をしているガタイの良い人間だ。俺の脳内で様々な憶測が飛び交う。数秒の思考の結果俺は導き出した。
結論:「夢か!」
「夢? 違いますよ。私たちはここに確かにいると思いますよ」
「どうせまだ寝ぼけてんだろ?」
まあ、そうだよな、夢にしては痛みがリアルすぎる気はしていた。どうやら夢ではないようだが、それならここはどこなんだろうか。こういう場合は聞いてみたほうが速い
「ココハ ダレ? ワタシハ ドコ?」
「「???」」
いや、当たり前なのだが二人は目を丸くし、口を小さく開けぽかーんとしている。
「すまんすまん。ここはどこだ?」
「ここは何つうか、俺んちだ」
「ああ、そうだったのか。すまないな。ありがとう」
すまないなと言っている場合ではない。"俺んち"が近年稀に見るほどの開放感あふれる建築で外にはアスファルトで舗装されていなければ看板もなく、ただ人々が日々繰り返し行き来し続けたことにってそこに植物が生えなくなり現れたと思われる通路があるだけである。
俺はある可能性に気が付いた。その予想を確信に変えるべく一つの質問を投げかけた。
「なあ、今って西暦何年だ?」
「セイレキナンネン?よくわからないですね」
そうか、日本語は通じるが西暦がわからない。義務教育が行われていないのか? 俺は義務教育を9年 高校大学共に卒業してきたから一応博識な男だ。 時代を特定できる質問をしてみよう。そう、俺が気づいた可能性、それはタイムスリップの可能性である。
「なあ、武士っているか?」
「貴族をまもってるやつらだろ? 最近よく聞くようになったなぁ。探し人か? それなら俺が手伝って――」
「いや大丈夫だ、探し人じゃない。じゃあ次に有名な文学者を教えてくれ」
そうか、貴族もいるとすると、平安時代末期から鎌倉時代の前半ごろか。いや、しかし異世界転移の可能性も捨てられない。むしろそちらのほうがロマンがあってよいではないか。
「文学なんて貴族のするもんだろ」
「私たちの平民からは身近ではない存在ですね。でも知っている文学者なら一人。清少納言という方です」
おお! 清少納言がいるということは異世界ではなさそうだ。しかも西暦が1000年ごろということも分かった。しかし、文明人である俺がこんな場所で暮らしていけるのだろうか。困った。。。
。
。
。
というと思ったか! 俺は21世紀の人間。この時代の人間からすれば俺は遠い未来から来た未来人ということになる。この時代に21世紀から持ち込んだ知識を売れば裕福に生きられるし、その上俺が望めば21世紀の生活を再現することだって可能だ! しかも一世紀差のドラ〇もんが来ただけであんなことになっていたのに10世紀差の俺が現れたらどうなってしまうのだろうか。たのしみだ。くっふっふ、わっはっは、わぁ~っはっはっはっはっは!
「お前何にやにやしてんだよ」
「え、いや、何でもない! そ、そういえば命を救ってくれたのに自己紹介をしていなかったな。俺の名前は上坂だ。助けてくれて本当にありがとう」
「俺はシュンだ。お礼はいいよ。よろしくな」
「私はヒナと呼ばれています」
「シュンとヒナか。改めてありがとう。なあ、折り入って相談があるんだが、迷惑なのは承知だ! 役に立つと誓うから俺をここに泊めてくれ!」
「私はいいですよ、第一ここは私の家ではなくシュンの物ですが」
「ああ、問題ないぞ。大歓迎だ。」
心優しいやつらで本当によかった。断られたら俺はこの地を放浪することになっていただろう。しかし、何だろう。この二人には何か親しみを感じる。なんだか初対面なのに心が通じ合っているような。。。
まあ気のせいだろう。
こうして俺の未来人チート生活は幕を開けたのだった。
この時まだこの二人がどんな奴らか俺は知らなかった。。。
追記.
平安時代の庶民の名前がわからんかったからそれっぽい名前つけちゃった。
次話もお楽しみに。