51話 ジョールの惨劇
「屋内に退避しろ!このままでは全め」
ガッシャーン!
冷静に指示を下そうとした防衛隊隊長が、サンダードラゴンの攻撃で黒焦げになる。生きてはいないだろう。
「わああああああああ!」
「ひ、死にたくねえ死にたくねえよおお!」
上空から降り注ぐ雷もどき。
そしてどこからともなく放たれる大量の矢。
地獄の始まりである。
悪天候も影響してか、非常に辺りは暗く少し遠くになると何も見えなほどに視界が悪い。また、大半の帝国軍兵士は上空のドラゴンと雷もどきに気を取られてしまっている。そもそも指揮官である防衛隊隊長が死亡しているため、指揮系統が混乱しているのでどうしようもない。
結果として近くで弓矢による攻撃をする連合軍に、帝国軍は効果的な反撃どころか位置を掴めてすらいなかった。
「れ、連合軍はどこだああああ!」
「隊長が死んだ!もうダメだああっ!」
「連合軍め、死ねええええええっ!」
「お前が連合軍だなっ!?喰らえ、ウォーターアロー!」
連合軍が襲い掛かってきたという事実、いつ死ぬかもわからない恐怖、悪い視界、大混乱………これが揃ってしまった結果、地獄が始まる。
同士討ちである。
こうなるともう、収拾がつかなくなる。
「今だ、かかれええええええっ!!!」
更に、この機に乗じて連合軍の通常部隊も一気に攻撃を開始する。もはや、勝敗は明確であった。
だが、それでも帝国軍の一部は必死に戦い続ける。
「う、撃てええええっ!」
ドーン!!
ドドーン!!
「次弾装填!銃兵隊は各員自由射撃開始せよ!」
パパパーン!
帝国兵の号令と同時に響く破裂音。帝国軍の魔砲や魔法銃による反撃が、闇の中へと吸い込まれていく。
「撃て撃て!」
「な、なあ。これ本当に当たってるのか?」
「知らねえよ!とにかく撃て、撃つんだ。こんだけ撃ってりゃ少しは当たるはずだ!」
必死に射撃を続ける兵士たちにも、新たな脅威が襲う。
「ぎゃあああああああああっ!!」
「お、おい。どうし………ぐあああああああっ!」
何人かの兵士たちが、上から切り裂かれる。何だと思って兵士たちが上空を見ると、暗くて良く分からないものの何かヒト型が飛んでいるのが見える。
「は、ハーピーだ!あいつら空から隙を見て急降下して攻撃してくるぞ!気をつけろっ!」
「何!くっ、亜人ごときが!あいつらから撃ち落とせ!」
「上も気にしなきゃいけねえのかよ!こんなのどうすりゃ良いんだ!?」
諦めず抵抗していた彼らも、このどうしようもない状況に士気はどんどん下がっていき。
「お、俺はもう逃げるぞ!もうこの戦いに勝ち目はない!」
「もう無理だ!俺たちはおしまいだっ!」
「どうせ死ぬんだ………最後くらい女を襲っても何も変わりは………」
「てめえ!兵士が守るべき国民に手を出すってのか!?」
あっという間に帝国軍は崩壊した。サンダードラゴンによる攻撃で城壁は崩れ落ち、同士討ちや連合軍の攻撃で帝国兵の死体の山が積みあがる。そして何よりも問題なのは………
「ひゃはははは!死ねええ!」
「いい顔してんじゃねえか、ああん!?」
自棄になった一部の帝国兵によって、民間人が襲われていた。老若男女すべてがその標的にされている。また、誰かが放火したのだろう、町は業火に包まれていた。
「なんであいつら、自国の民間人を………」
「と、止めろ!止めるんだ!」
ジョール城攻略戦は連合の大勝で終わった。だが、戦闘が終了した後、連合側の兵士たちは大敗を喫したかのような雰囲気に包まれていた。
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ジョール城攻略戦 結果報告書
現時点で判明した両軍の損害を報告する
我が軍の損害
第一魔法隊 36名
第二魔法隊 41名
第一ハーピー隊 12名
…
…
…
合計 461名
帝国軍及び民間人への損害
兵士 2837名
騎士 168名
竜騎士 21名
民間人 8716名
判別不能である遺体 4589名
合計16331名
追記 帝国軍及び民間人の中に自殺、自傷、同士討ち等特異な行動をする者が多く見られた。
それらの共通した特徴として瞳孔が紫色となっている点がある。帝国内で何らかの病が広がっている可能性が非常に高く、我が部隊はより衛生状況の悪化への警戒を強めている。
連合陸軍第七方面隊より本国へ




