36話 招待状①
首相官邸
まだ午前5時という早朝にも関わらず、岸川と彼の側近である増田は首相官邸で仕事を始めていた。
「………ですから、ライリアさんが通信魔法で飛行体相手に一時的に帰還するように説得することに成功したと考えるべきでしょう。クラート王国側からは飛行体は『魔族』という魔力を多量に持ち人間を超越した戦闘能力を持つ生物ではないかという見解が示されており、防衛省でも調査中だそうです」
「ふむ、そうですか。行方不明になったF15Jについては何か分かりましたか?」
「現在海上自衛隊、海上保安庁、航空自衛隊などが捜索を行っているのですが、部品すらも見つかっていないようでして………また、レーダーから突如反応が消えた理由も依然として不明のままです。飛行体はライリアさんとの通信魔法で関与を否定していますが、やはり現時点で最も怪しいのは飛行体かと思われます。………帰らせたのは不味かったのでは?」
顔を少ししかめながら増田がそう言うが、岸川はけろりとした表情で返答する。
「むしろ、あの化け物に居座られた方が面倒です。F15Jをはるかに上回る運動性能と、時速2000Kmを優に超える速度、そしてミサイルを複数くらっても耐える耐久力………確かに怪しいですが、常に警戒として部隊を張り付けさせる部隊の負担も馬鹿にならないでしょうし、帰ってもらえるなら一旦帰ってもらった方が良いはずです」
「それはそうかもしれませんが………」
「それに、これで帝国への対処に専念できる時間が出来ました。この間に帝国へ対処をして、その後にあの化け物をどうにかすればいいでしょう」
「もし話通りに相手が来なければどうするんです?」
「それならそれで結構。仮にF15Jがあの化け物にやられたものだとしても、やり返すとなればこちらにも相応の被害………いや、ひょっとしたら返り討ちにあっていたかもしれません。あちらも知らないと言っている以上、証明も出来ないでしょうし放っておけばよい」
「また今回のように我が国の戦闘機がやられたらどうするんです!?」
「落ち着いてください、やられたと決まったわけではありません。………ですがもし、次が起きてまたあの化け物が怪しかったのなら、一戦交える覚悟は必要でしょう。それだけの話ですよ」
「………」
納得していないと言わんばかりの増田に対して、岸川はこれ以上話しても仕方ないと思ったのか別の話をしようとする。
「それより、クラート王国から紹介のあったナルカル連合についてはどうなっているんです?」
岸川がそう質問したのは、クラート王国の友好国らしい未確認の国家についてである。前々から情報はあったものの、クラート王国から詳細な情報が伝えられたのはつい最近の話であった。
「はい、それなのですが、ナルカル連合側が帝国と我が国の仲裁を提案してきています。現在、三国での会談を企画しているそうで岸川総理にも招待状を出すとのことです」
「………………成る程、第三国を挟んでの会談ですか。悪くはないかもしれませんね。それで、ナルカル連合はどういった国なのですか?」
「はい、ナルカル連合はクラート王国やリマ国からの情報では………」




