26話 駆け巡る衝撃③
「四大魔王………だと………!?」
先ほどまでの冷静さは何処へやら、ファリバンが明らかに動揺しながらそう問う。まあこれが彼の限界なのだろうが、それはさておきそれに驚いたのはファリバンだけではない。
「し、信じられん………だとすれば、これは我が国の存亡をも左右しかねん。これは不味いぞ!」
「四大魔王………ど、どうやって戦えば良いと言うのだ………かつてラファーですら成すすべなく敗れた化け物たちを相手にするなどまず不可能だぞ!?」
「ここ最近は付近の魔獣が狂暴化したり、下位魔族の出没が増えていたが、四大魔王まで出てくるとはな。この地域、いや、この星に何か異変が起きているのやもしれんぞ」
騒がしかった場は、余りの事態にもはや収拾不可能になってしまう。そして、本来ならばそうならないように場をまとめるファリバンやマークも冷静さを失い思いつめた表情で考え込んでしまっている。
「む、むむむむ………」
「これは、どうしたものか………」
そんな中で、シャーカーがなんとかしようと考えた案を話し出す。
「まずですが、もし四大魔王と戦うともなれば我が国に他国と戦う余裕などありません。それに今戦っている相手は、軍事力はそこまででも技術力は極めて高い二ホンです。多少譲歩してやってでも講和を早々に結んで備えに専念できるようにすべきでしょう」
「ですが、そう簡単に二ホンは話に乗ってこないのではありませんか?二ホンからすれば我が国の主力艦隊が壊滅した今、チャンスと取れるはずです。この状況でわざわざ講和するとは考えられません」
マークがそう指摘するが、それに対してシャーカーは的確に反論をする。
「苦しいのは二ホンも同じです。四大魔王のうちの一人が近づいているとなればあちらにとっても大きな脅威。それに、出没したセラバダ海は我々より二ホンの方がはるかに近い。余計危機感も強いでしょう。それらを考えればあちらも講和は望んでいるはずです」
「………確かにそうだな。さっさと講和をして魔王への備えを万全にせねばならん」
ファリバンもシャーカーのその案に賛同の意を示す。他の者たちも反対するものはほぼ居ない。
しかし、依然として一人だけ反対するものが居た。
そう、マークである。
「反対させていただきます。二ホンがそれに乗ってくるとは限りませんし、そもそも魔王の標的も我が国ではなく二ホンや他の国かもしれません!」
「それはそうかもしれませんが、もしもの可能性もあります。二ホンは魔王の方にケリがついてからでいいでしょう?やっておいて損はありませんし、やらない理由にはならないのではありませんか?」
マークとシャーカーの議論はヒートアップしていくが、マークの言い分はいささか合理性に欠けていた。
「マークよ、もう良い。意地になって余り視野を狭めてはならんだろう。………二ホンと一時的に講和を行う。そのための交渉団を派遣せよ」
ファリバンがそう決定を下す。
「皇帝陛下、お流石でございます!」
「陛下は慧眼をお持ちでうらやましい限りですなぁ」
周囲がファリバンの決定をそうほめそやす中で、マークの表情は少し歪んでいた。
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アグレシア大宮殿 皇帝補佐室
皇帝補佐であるマークに与えられたこの一室で、マークとその部下の男が話していた。
「あの、ほ、本当に良いのですか?」
部下の男が、そう困惑しながらマークに尋ねる。本当にやるのか?という確認の意味も強いであろう。
「ええ、そうして下さい。それが帝国のためなのですから………良いですね?」
しかし、マークははっきりとそう答える。
「………りょ、了解いたしました。それでは失礼させていただきます」
それで話が終わったのだろう。片方の男が部屋を退室していく。
「ふふふ………」
後に残されたマークは、先ほどとは異なり不気味な笑みを浮かべていた。
そして、窓の外から夜空を見る。
「美しい………」
部屋の窓から見える月はぞっとするほど美しく、魅入られてしまいそうな魅力があった。
具合がかなり悪いので明日お休みかも。




