15話 迎撃準備①
「ふふふ。やはり、大臣というのは良いものだ。川野さんには悪いが、これからはこの私が防衛大臣を務めさせてもらおう」
総裁選で岸川を支持した細井派政治家のうちの一人である木市信介。
岸川政権で防衛大臣を務めることになった彼は、非常に上機嫌だった。
機嫌の良い理由は防衛大臣になれたからだけではない。
「にしても、最近は良いことづくめだなあ。競馬が当たったし、持病もだいぶ良くなってきた。仕事も最近は楽だし、遂に私の時代が来たかもしれん………なんてな、はっはっは!」
最近の彼はとんでもなくツイていた。やることなすことが全て上手くいくのだから、正に向かうところ敵なしである。このまま上手くいけば、次の政権ではさらに上の地位も………そんな風に彼が考えるのも当然だろう。
だが、そんな彼のここ最近の幸運。それの揺り戻しが一気に来たとしたらどうなるだろう。
ピリリリリ!ピリリリリ!
スマホの着信音が鳴り、彼は何事かとポケットから取り出す。
「………防衛省から?」
何だろうと思いながら、通話を始めると彼の顔色はみるみる悪くなっていく。
「す、すぐ行く!」
(私の時代なんて来ていなかったのだな………とほほ………)
急いで準備をしながら、木市はそんなことを考えていた。
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防衛省庁舎A棟 統合幕僚監部
「おいおい、話は本当なのか?」
部屋に入ってくるなり、開口一番で空将、統合幕僚副長である佐藤がそう疑問を投げかける。
「ああ、間違いない。アグレシーズ帝国の大艦隊がこちらの方面へと移動してきていることが人工衛星で確認できた。このまま進路を変えなければ我が国の領海に侵入してくるだろう」
すでに会議用の椅子に座っている統合幕僚長で陸将の浜崎は、冷静にそう述べる。
「進路を変える可能性だってあるだろ?それに連中はうちの国の位置を知っているのか?」
「現在帝国の艦隊が進んでいる方向にはずっと海が広がっていて、その先に我が国が位置している。我が国以外に目的地となりうる国が存在しない。我が国の位置に関しては、リマ国内部から帝国に情報が流されている可能性がある。帝国が知っていてもおかしくはないようだ」
「むむむ………」
浜崎と佐藤はその後も会話を続けるが、佐藤も帝国が攻めに来る可能性が高いと感じたのか何も言わなくなる。
「お二人とも、話は終わったようですね」
海将兼運用部長の白石がそう言い、続けてこう発言する。
「各大臣には既に防衛省から連絡をしたそうです。ですからこの件に関する臨時閣議がすぐにでも開かれるでしょう。それまでに自衛隊としてはどう対応するかの方針は意見としてまとめておいた方が良いかもしれませんね」
こうして、会議は始まった。