6話 帝国使節団、襲来①
インベルド王国 ベルダー海
インベルド王国の西側にあるベルダー海。港町ベルダーが面しているこの海域をボロボロな木造船が航行していた。船の名前は【モーク】。インベルド王国海軍所属の軍船である。
そのモークは、近海警備の任務をこなしていた。日本との戦争で多くの軍船を失った海軍は、旧式の船でも使わざるを得なかったのである。
「あーあ、暇だなあ。マジでやることねえや」
そう見張り台の上で女が一人ぼやいていた。彼女もインベルド王国海軍の一員ではあるが、他に就ける仕事が無かったから就いただけでありやる気は元からない。おまけに二ホンとの戦争に軍は負けているのだから、余計やる気は無くなっていた。
「はーあ、二ホンに死ぬまで使いつぶされるのかなオレ」
敗戦国の末路など誰でも容易に想像がつく。二ホンに滅ぼされこそしなかったが、この国の未来が終わっていることなど誰でも分かる。彼女も二ホン軍に前線の肉壁か慰み者として使われるかもしれないし、あるいは軍自体が解散させられて仕事を失うかもしれない。
(これからどうなんのかなあ………)
自分の、母国の未来に不安を募らせていたその時。
「て、敵だ!」
他の兵士の掛け声でハッと我に返る。右に向くと、遠くに数隻の船が見える。
「バ、バリスタに矢を装填しろ!」
「あの船大砲が載ってないか!?」
「あれは二ホンの船じゃないのか!?攻撃したら俺たち殺されるんじゃあ………」
「二ホンの船はもっとデカくて灰色だ!」
「あ、あの国旗はひょっとしてアグレシーズ帝国なんじゃないか!?」
兵士たちが慌てて戦闘準備をしている途中で、大きな声が響く。
『我々はアグレシーズ帝国の使節団である!二ホン国と国交を樹立し友好関係を結びに来た!』
それを聞いて兵士たちは大焦りである。何せ相手は列強の一国、アグレシーズ帝国の使節団なのだ。対応を少し間違えれば自分たちのクビが飛んでしまう(物理的にも仕事的にも)
「拡声魔法か!?」
「は、話が本当ならとりあえず戦争する気はないってことだよな」
「とりあえず、返事を返すんだ!おい!見張り!お前拡声魔法使えたよな?」
見張り台の上で他人事かのように知らんぷりしていた女だが、船長に話を振られてしまう。
「まあ、一応使えるが………」
渋々そう返答する。すると予想していた反応が返ってくる。
「よし、じゃあすこし待つように拡声魔法で言ってくれ。頼んだぞ」
(嫌だなあ………まあ仕方ないか………)
彼女の全身に力が入り、それと同時に魔力が喉へと集中する。
『我々はインベルド王国海軍である!帝国使節団の方々は、しばしその場で待っていただきたい!』
そう言い終えて、全身の力を抜く。彼女にとっては何度使ってもこの感覚は慣れない。魔法を使うたびにまるで何かに全身を支配されたかのような不気味な感覚がするのは彼女だけなのだろうか。
ともかく、先ほどの拡声魔法のおかげか、帝国の船団は大人しい。早く本国へ連絡するべきだろう。
「二ホンから渡されたこいつを使うか………」
船長がそう言って取り出したのは、黒い小さめの箱である。なにか棒のようなものも飛び出しているそれに、船長は話しかけた。
「こちらモーク。緊急報告だ。アグレシーズ帝国の使節団が来航し、二ホンと国交を持ちたいとのことらしい。繰り返す………」
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