35話 二つの書類
(うーむ。このインベルドとの方から見てみるか)
そう考え、【日本インベルド平和友好条約】と表紙に印刷された方を見てみる。
…
…
…
「こりゃだいぶ一方的だな………」
内容は、ざっくりまとめるとこうだ。
・インベルド王国は日本国、リマ国、クラート王国の主権を承認し、侵害してはならない。
・インベルド王国はリマ国と日本国へ賠償金を支払う。
・賠償金の一部として、インベルド王国内における全ての鉱物資源の権利を日本国へ移管する。
・今後インベルド王国の政府、軍は全て日本国の管理下におかれる。
・この条約の内容は一般公開せず、秘密とする。
(まあ、戦争してた相手だしこれくらいはやるかもしれんが。待てよ?これとリマのやつはほぼ全部同じってことは………)
慌てて、もう片方の【日本リマ平和友好条約】と書かれた方を見てみる。
そちらの内容もだいたいは、
・リマ国は日本国、クラート王国、インベルド王国の主権を承認し、侵害してはならない。
・リマ国は日本国への謝礼として、リマ国内における全ての鉱物資源の権利を日本国へ委譲する。
・この条約の内容は一般公開せず、秘密にする。
(こ、これは鉱物資源を全部日本のものにする気なのか!?いくらなんでも………)
ザッ、ザッと複数人の足音が軽装甲機動車を隔てて反対側から聞こえてくる。慌てて書類を閉じて、元の場所に置き直す。
「おや、お二人ともお帰りなさい。そろそろ出発ですよ」
動揺を隠しながらそう二人へ言う。
「分かりました。羽田さん、いきますよ」
「はい」
なんだか二人の間にはまだ溝がある気がするが、一応話はついたようだ。
「あ、あとなんかその紙束忘れてましたよ」
「あれ、見ました?」
葉名がそう聞いてくる。
「流石にしませんよ。触ってすらいないです」
(上手く答えられたよな?バレないでくれ、頼む!)
「あ、そうですか。まあ別に読んでもらっても良いんですけどね」
そんな葉名の一言に思わず声が出る。
「え?」
「貴方は交渉に警備として同席してもらいますから。どうせその時に聞くんですからそれを隠しても意味ないですし」
「そ、そうなんですか………」
(良かった、良かった、良かった~)
山田はそれを聞いて安堵する。
「まあでも、交渉の場で内容を知るのは仕方ないですけど。
絶 対 に 後 で も ら さ な い で く だ さ い ね ?」
「は、はいぃっ!」
どうやら、まだ山田が安堵するには早すぎるようだ。




