再来する異変
??「ほぉ〜……ここが幻想郷か。実にいい土地ではないか」
俺は、幻想郷の高いところから全体を眺めながら……。
??「ここならば、吸血鬼が人間を支配するためのその最初の要になるだろう。ここを紹介してくれたあの導師には感謝せねばならぬな。クククッ……では、手始めに同族の元にでも向かってみるか」
そうして俺は、この美しい暗闇の中を華麗に飛び立つのだった。
□□□博麗神社(甘堕視点)
あれから数日後。今日も今日とて僕が境内の掃除をしていると……。
魔理沙「よう、甘堕!」
甘堕「魔理沙か?」
魔理沙「どうだ、少しはこの幻想郷には慣れてきたか?」
甘堕「そうだな……霊夢とはだいぶ仲が深まった気がするかな?」
魔理沙「まじか!?すごいな〜」
霊夢「甘堕、サボってないでしっかりとやりなさい」
甘堕「お前も少しは手伝えよ、それでも一応この神社の巫女だろ」
霊夢「住まわせてやってるのは誰だと思ってるわけ?」
甘堕「それを言われるとぐうの音も出ん。魔理沙、やっぱり気のせい。仲は深まってなかったわ」
とそうこうしていると。
あうん「甘堕さん!石段の掃除終わりましたよ!」
甘堕「あうんちゃん、お前は頑張り屋だな」
と言いながら、あうんの頭を優しく撫でる。
あうん「えへへ、ありがとうございます!気持ちいい〜……」
とそんな感じで僕らが過ごしていると。
遠くから、キラキラとした石が付いた羽を生やした金髪の少女がこちらに近づいてきていた。
魔理沙「ん?あれって……フラン?!」
甘堕「フラン?あの子フランって言うのか?」
魔理沙「おぅ、知ってるかはわからないけど、あいつはレミリアの妹なんだ」
甘堕「えっ?!妹いたの!?」
魔理沙「なんだレミリアの事知ってんじゃねぇか、だったら話は早いな!」
すると、少女は地面にゆっくりと着地すると、真っ先に魔理沙の方へと走り出して飛び込んだ。
??「霊夢!魔理沙ー!」
魔理沙「どうしたんだフラン、そんな焦ってよ?」
僕には見えていた。その少女の目に涙が出ていた事を。そうして、フランという少女は先ほどの言葉を紡ぎながら、こう告げた。
フラン「お姉様が!お姉様達が大変なの!」
フランがそう口にした瞬間の事だった。いきなり向こうの空から赤い霧が立ち込め、空全体を覆い尽くしたのだった。
□□□
霊夢「あのレミリア、まさか懲りずにまた異変を起こすだなんて」
魔理沙「ん〜……。異変を諦めたアイツが、そんな事するか?」
霊夢「じゃあ、他に誰がこんな事できるのよ」
魔理沙「それもそうなんだけど」
霊夢「まぁ、魔理沙の言いたいこともわかるわ。レミリアはそんな奴じゃないから、何かあったと仮定すれば、きっと別の誰かがレミリアを使って何かやろうとしているって事よね」
二人がそう会話を続けるなか、僕は慌てふためいていた。これが異変、霊夢が話してくれた、これが異変。紅霧異変。赤い霧を見ていると、なんだか体が重くなったかのような錯覚を覚える。思わず倒れそうになるが、なんとか体勢を保って足を奮い立たせる。
霊夢「とりあえずは、行くしかないわよね」
魔理沙「おいちょっと待て!」
霊夢「何よ?」
魔理沙「まずはフランに話を聞いてみたらどうだ、タイミング的にも、これは今のフランの話と必ず関係があるはずだ」
魔理沙がそう言うと、霊夢はめんどくさいといった顔をしながら、渋々魔理沙の提案に乗っかった。
魔理沙「とりあえずフラン。何があったか教えてくれないか?」
フラン「……うん」
そうして僕らはそのフランに話を聞いた。
フラン「私が紅魔館の外で美鈴と遊んでたらさ。いきなり上から、同族の吸血鬼が攻撃してきて……私は新しい遊び相手だと思って戦いを挑んだんだけど。そしたら……お姉様が身代わりになって私を守ってくれて。もちろん、反撃しようとした!だけど、何故かあの時だけ……私の能力が使えなかったの。そしたら、咲夜が私を遠くまで運んで逃してくれて、それで……博麗神社に行って助けを求めてきてって言われて……魔理沙!私、悔しい!」
魔理沙「フラン……。つか、フランの能力が使えないって、なんでなんだ?」
霊夢「能力を使えなくする能力でも持ってるのかしら?」
魔理沙「だとしたらすごい厄介だぜ霊夢」
霊夢「……そうね」
フラン「でも、咲夜や美鈴は普通に使えてたよ」
霊夢「なら、吸血鬼だけなのかしら?」
魔理沙「でもいいヒントだぜ!吸血鬼しか能力が封じれないなら、私たち人間や妖怪ならなんとかできるってことだろ?なら話は早いぜ!早速行くぞ霊夢ー!」
霊夢「ちょ、待ちなさいよ!」
甘堕「あっ霊夢待って!」
僕は霊夢に静止をかけて呼び止める。
霊夢「何、甘堕?」
甘堕「俺も……行かせてはくれないか?」
何故か、そんな言葉が口から出る。
霊夢「アンタに何ができるわけ?能力もないし力もない貴方がいたら、ただの足手まといよ。だから、この戦いにアンタを連れて行けないわ」
そんな厳しい言葉を当てられ、僕は現実を思い知らされた。だよな、何もない僕が、何言ってんだって話だよな。僕はここで、初めて己の無力さを恨んだ。僕は誰かの助けになりたかった。だから、霊夢にあんな事を言った。だけど、考えてみれば僕はお荷物で何もできない人間だ。そんな僕に、誰かの助けになりたいなんて言う願望なんて持たない方が……。
ーーー本当にそう思っているのか?ーー
謎の声が僕の頭の中に響き渡ってくる。
甘堕「誰だ!?」
ーーー私は君を導くものだーーー
甘堕「導く……?何者なんですか?姿を表してください!」
ーー悪いがまだそれはできない。ただあえて言うとするならば……秘神、と言った方が誤魔化せるかもしれんなーー
ーーさて、お前にお告げをやろうーー
甘堕「お告げ?」
ーーまずはお前の後ろにある扉をくぐれーー
甘堕「扉?」
謎の声に言われて、試しに後ろを振り返ってみると、そこには神社に似合わぬ扉が立っていた。
ーーそこを通れば、紅魔館の近くに出れるはずだ。そのまま館の方まで迎えばいいーー
甘堕「わかりました」
そうして僕は、意を決してその扉の向こうへと入る。すると、そこは見知らぬ森で、目の前の遠方には赤い館が立っていた。僕が館に向けて足を進めようとした瞬間。
??「お待ちください外来人さん」
いきなり、知らない誰かに声をかけられた。ゆっくりと後ろを振り向いてみると、そこには……。中華のような格好をした武闘派っぽい赤髪の女性と、木の日陰で疲れた顔をしながら本を片手に持った紫髪の少女が立っていたのだった。