紅魔館の主レミリア
とりあえず霊夢に呼ばれた僕は、その客人を見てまず最初に思ったのは……。
甘堕「……小さい」
??「な、なんですって人間の分際で……!」
咲夜「お嬢様?」
??「……こほんっ。少し取り乱してしまったわね。それで、貴方が例の外来人ってことでいいのかしら?」
甘堕「まあ、はい……そうですけど」
その容姿に見合わぬカリスマ性に、僕は内心、似合わないなと思った。
??「あら、ごめんなさい。自己紹介がまだですね。私の名はレミリア・スカーレット、高貴なる吸血鬼よ。なので、身の程をわきまえた方が良いと思うわよ」
甘堕「なるほど……それで僕に何の用ですか?」
レミ「何って、こちらでは珍しい外来人をわざわざ遠くてボロい神社まで赴いて見にきたのよ」
霊夢「遠くてボロい神社で悪かったわねレミリア」
甘堕「うおっ!?いつの間に??」
突如背後から霊夢の声が響き渡り、思わず僕はそこで酷く驚いた。
レミ「あら、何か間違ったことでも?」
何故か煽るように霊夢に挑発するレミリアという吸血鬼。
霊夢「もう一回、あの時のようにやられたいのかしら?」
レミ「別に私はそれでもいいわよ、だって勝つのは私だから!」
甘堕「……あの時って?」
二人の会話について行けない僕は、小首を傾げながらそう呟く。
咲夜「そういえば、貴方は知りませんよね」
甘堕「まあ……てか、誰ですか?」
いきなり隣でそんな事を言ってきたので、思わず距離を離して警戒をする。
咲夜「そんなに警戒しなくとも大丈夫です、何もしません。申し遅れました……私は、紅魔館の主であるレミリアお嬢様に仕えるメイド従者の十六夜咲夜と申します」
気品のある上品な立ち振る舞いとその挨拶に、綺麗過ぎて思わず言葉を失った。
咲夜「それで、あの時というのはですね」
咲夜さんは、構わず話を続ける。
咲夜「お嬢様がこの幻想郷に来た時に、空を真っ赤な霧で覆う異変を起こしたのですよ。それで、そのお嬢様の計画を邪魔しに来た巫女がお嬢様と戦い、そしてお嬢様を倒しました……それが二人が言っているあの時の事です」
甘堕「なるほど……ちょっと気になるところがあるんですが?」
咲夜「なんですか?」
僕は、ふと疑問に思った事を彼女に尋ねる。
甘堕「どうしてレミリアさんは、そんな異変を起こしたんだろう?」
咲夜「お嬢様が言うには……吸血鬼が生きやすい世界を作るために太陽を遮るあの霧を起こしたと言っていました」
甘堕「へ〜……そうだったんですか。でも今は、普通に太陽に当たってるけど、大丈夫なんですか?」
咲夜「大丈夫です。お嬢様はそんなやわな方じゃありませんので。それに……このパチュリー様特製の日焼け止めクリームを塗っているので、夜間と同じように動けるんですよ」
そんなんでなんとかなるんだと、僕は内心でそう思いながら、唖然とした。
レミ「まあ、今日は別に戦いに来たわけではないわ。今回は、貴方に用があって来たのだから」
甘堕「僕にですか?」
レミ「そうよ」
いったいなんの用なのだろうと思っていると、レミリアは何故か僕の方に近づき僕の事をじっと観察するかのように眺め始めた。
レミ「ふ〜ん……見た目からして、普通の人間にしか見えないけど……何か秘めている感じはするわね」
甘堕「あのーレミリアさん?」
レミ「何?」
甘堕「あんまり見られるのは、なんというか恥ずかしいので」
レミ「あら、もしかしてもっと見てほしい?」
甘堕「丁重にお断りします」
レミ「まあいいわ、もう用は済んだしね。ほら咲夜、帰るわよ」
咲夜「はい、お嬢様」
そうして、レミリアと咲夜は空を飛んで帰っていった。僕はその姿を呆然と眺めながら……咲夜さんって人間なのに飛べるんだ……と、そんなどうでもいい事を思うのだった。
□□□
咲夜「それで、お嬢様?何かわかりましたか?」
レミ「まあ、それなりにはね。これから起こる運命は、少しばかりヤバイ事になりそうだわ」
私は運命を見据えながら……そんならしくない事を呟く。
咲夜「え?」
レミ「咲夜、帰ったら早速パチュリーや美鈴を集めて、対策を考えるわよ」
咲夜「……承知しました」
そうして私たちは、紅魔館へと急いで戻るのだった。
□□□霊夢視点 夜
あうん「なんだか、今日のレミリアさん変でしたね」
霊夢「?そうだったかしら……」
私は、夜の縁側であうんと一緒に風に当たりながら茶を飲む。
あうん「なんだか、内心楽しんでいるような感じではありましたけど……少しだけ恐怖しているかのような感じがしました。レミリアさんに限って、そんな事はないと思いますけど……なんだか少し気になってしまいまして」
霊夢「ふ〜ん……いったいアイツ何を考えてるのかしら、私に内緒で。もし異変を再度起こすような事だったら、容赦なく退治するけど」
そんな事で駄弁っていると……。
甘堕「ふぅ〜……さっぱりした。ここの温泉っていいな」
霊夢「あら、戻って来たのね」
ここの近くには、地底から湧き出た源泉の温泉がある。距離は少し遠いが、妖怪も襲ってこないのでだいぶ安全な温泉だ。今日はたまたま入ることができていた。
霊夢「……あ、そうだ」
ふと、私はある事を思いつき、台所の樽の中から、まだ中身の残った酒瓶とおちょこを二人分取り出して床の間に出す。
霊夢「アンタってお酒飲める?」
甘堕「お酒?いいのか飲んでも、僕16だから未成年だぞ?」
霊夢「それなら大丈夫よ、十五歳越えてるならもう立派に成人よ」
甘堕「……そうか」
甘堕は、少し釈然としないのか、躊躇いながらも注いだ酒をぐいっと飲み干す。
甘堕「っ……美味しい。初めて飲んだ気がする」
よほど美味しかったのか、今度は自分で注いでゆっくりと飲む。私もそれにつられて、ぐいっと飲み干しまた2杯目も注いで飲む。
甘堕「なんか……こんな綺麗な満月を見ながら酒を嗜んでいると、風情ってものを感じるな」
霊夢「……そうね。食べ物じゃないけど、酒のつまみには、うってつけよね」
それから私たちは、酒を楽しみながら談笑を交わして、気づけば眠りこけていたのだった。