赤き来客者
霊夢「…ねえ。」
甘堕「んっ?」
僕が境内の掃除をしている時だった。霊夢がいきなり僕に声をかけてきた。滅多に僕に話しかけない霊夢は、ぐうたら居間で寝転がりながらこんなことを聞いてきた。
霊夢「アンタって、なんでそんなに髪が長いの?腰くらいまであるじゃない。男なんだから、邪魔とか思わないの?」
甘堕「……そうだな〜…。思ったことはないな。でも、それが当たり前なのか?」
と、返答を返しつつ問い返すと。
霊夢「さあ…。なんとなく男ならそう考えそうだなって思っただけよ。それ以上でもそれ以下でもないわ。」
と、言って会話が終わった。
だが、僕にはまだ聞きたいことがあったため、手を動かしながら、そのまま続けて質問をする。
甘堕「そういや、霊夢って何歳なんだ?」
霊夢「…んっ、私の歳?一六よ。」
と、あっさりと答える。
そのあっさりとした返答に唖然しながらも手を動かして続ける。
甘堕「めっちゃあっさりしてんな?」
霊夢「まあ、教えたところで減るもんじゃないしね…。そういうアンタは何歳なの?」
甘堕「…えっ?」
聞かれると思っていなかったので、反射的にそんな声が飛び出た。
霊夢「まさか、わたしだけ言わせておいて、アンタは言わないなんてことはないわよね?」
甘堕「おっ…おう。そうだな……、僕の歳は………えっとぉ〜…、ひぃ、ふぅ、みぃ、よぉ、いつ。」
甘堕「多分、霊夢と同じ一六だ。」
と、なんとなくの記憶で答えた。
とまあ、霊夢と楽しく駄弁っていると、なにやら境内の狛犬石像の近くから声が聞こえたような気がした。
気になった僕は、こっそりと近づいて死角になっていたところを見やる。
するとそこに居たのは…。
??「わっわわわ……!??」
何やら変な尻尾を生やした緑髪の少女がそこに居た。少女は驚いたからか、慌てて神社の本殿の方へと犬のように駆けて隠れてしまった。
甘堕「…あ……。」
声を掛ける前に離れて行ったため、妙な疎外感を感じてしまう。それでも僕は、さっきのあの子に再度近づいて声を掛ける。
甘堕「あの〜…、すいません〜?」
??「わっ!?」
甘堕「あー待って!?別に僕は怪しくないよ!」
??「えっ…、そうなんですか?」
少女にそう静止をかけると、その子は走るのをやめて、僕の方へと視線を向けた。
??「あの、すみません。突然逃げるような事をしてしまい……。」
少女は、申し訳なさそうに頭を下げて謝罪を口にする。
甘堕「…別に気にしなくていいよ。僕も不注意に声かけちゃったから、びっくりしちゃったよね。ごめんな?」
お互いに交互に謝る。
そうしてちょっとしたいざこざが終わり、僕らはお互いに自己紹介をすることになった。
??「わたしの名前は高麗野あうんです!この神社の神獣狛犬です!あぅ〜ん!」
そう自己紹介をすると、遠吠えのような声を上げた。
甘堕「よろしくあうん、僕の名前は甘堕乱。甘堕でも乱でもどっちでも呼んでいいよ。」
そうして僕はあうんの前に手を差し出す。
あうん「はい!これからよろしくお願いします!」
そうして握手を交わした。
そうしてしばらく、あうんと色々と喋りながら一緒に神社の裏の境内で掃除をした。
やがて、霊夢がやってきた。なかなか動こうとしない霊夢が、こうやって外に出るのは珍しいことなので、何か用があってこちらに来たと、僕は推測して霊夢の方へと視線を向ける。
霊夢「あら、ここに居たのね甘堕。てっ……あら、あうんじゃない?」
僕を探しに来たかのような言いようで霊夢はそう言った。
あうん「あっ!霊夢さーん!乱さんって良い人ですねー!」
霊夢「仲良くなれたのね、あうん。よかったよかった。」
甘堕「えっ、知ってんの?」
霊夢「いや、当たり前でしょ。この神社の狛犬なんだから。」
甘堕「だっ、だよな…。」
そうマジレスで返された。
甘堕「あれ?霊夢、僕に何か用があるんじゃ無かったのか?」
わざわざ霊夢がこうして探しに来たのだ。きっと何か用があるに違いないと僕は思いながら、言葉を待つ。そうして、霊夢は話し始める。
霊夢「そうそう、アンタに用がある人が足を運んできたのよ。ほら、早く行ってあげなさい。」
甘堕「えっ?僕に用がある人……魔理沙かな?」
霊夢「まあ、行けばわかるわ。」
甘堕「そうか…わかった。」
霊夢にそう言われて、僕は足早に表へと姿を現したのだった。
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??「お嬢様、どうやらアレが幻想入りして来た人のようです。」
大きな日傘を私に指して佇む、メイド長の十六夜咲夜は目の前の男を見ながらそう言った。
??「どうやらそのようね、咲夜。」
咲夜「はい。見た感じでは、至って普通の人間のようですが。珍しい物ですね。」
??「ん?何がよ?」
咲夜がそう口ずさむものなので、気になった私は咲夜の方に視線を向けて、問い質す。
咲夜「いえ、お嬢様が私以外の人間に興味を持つのが珍しいと思いましてね。」
??「……そうね、本当だったら興味なんて湧かないのだけど…。私には見えるのよ、彼が現れた先のこれからの幻想郷の未来がね。……運命がそう言っているようにね。」
??「それを楽しむためにも、その人間のことが気になった。ただそれだけよ。」
私はカリスマ溢れる威厳と態度を見せながら、そう言葉を綴った。彼が現れた先のその未来は、私にはわかる。ものすごく面白いことがこの幻想郷で起ころうとしていることが。
さあ、あの人間はいったいこの世界にどんな刺激を与えてくれるのかしら……。それが楽しみでたまらないのであった。