83.浮気、そして殺人ザリガニ
【タイトル】浮気、そして殺人ザリガニ
【作者】加藤よしき
【掲載サイト】カクヨム
【URL】https://kakuyomu.jp/works/16817330656481831570/episodes/16817330656481932858
前回と同じ短編集の、最初に投稿された作品。やっぱりこの作者はうまいな。
調べてみると、業界では名の知られたライターらしい。映画のこととか書いているとのこと。僕は映画ライターについては詳しくなかったけれど、文章で飯を食っている人間なんだな。
なるほどそれは、引き込まれる作品を書けるわけだ。
前は殺人カナブンが出てきたけれど、今回出てくるのは殺人ザリガニ。いいね、殺人とつくと、たいていの言葉は面白くなるよね。しかもカナブンよりも殺意を感じられて興奮する。
こんな変な題材なのに、文章がしっかりうまいから悔しい。僕もこういう文章を書きたい。
ある女の人生の物語。
優しい良い男と結婚したはいいけれど満たされない日々を送っている女の人生を書いていって、それがある瞬間に転機を迎える。そして昔付き合っていた男と再会して燃え上がる。これまでの人生の味気なさも、目の前の男への情熱も、心情の表し方がものすごく上手い。
途中まで、これが殺人ザリガニの話だと忘れるくらいに、人生に不意に差し込んできた光と熱意の話しにのめり込んでしまった。
そして殺人ザリガニが満を持して出てくる。これが話の添え物ではなく、しっかりと絡んでくるのが良い。殺人ザリガニもまた、話のメインだった。
人生に不意に振りかかってくるアクシデント。それが殺人ザリガニが表すものだ。そして、それに立ち向かうことこそが生きるってことなんじゃないかな。
これまでの細かな描写を殺人ザリガニとの戦いに重ねる演出がすごい。こんな話、よく書けるものだなあ。
終わり方もすっきりしている。殺人ザリガニのシーンの熱量と比べるとあっけない幕引きをしつつ、それでも後味は良いという。面白かった。
この作者の作品を読んでいると、その技量の巧みさに嫉妬しかしない。けれど、読んでみたい気持ちは強い。
これからも、折に触れて読んでいくことになるのだろうなあ。




