5.毒枝篇-火竜殺し-
【タイトル】毒枝篇-火竜殺し-
【作者】鯨ヶ岬勇士
【掲載サイト】ステキブンゲイ
【URL】https://sutekibungei.com/novels/573dad05-4c19-437a-af28-87e70a5344f7
このステキブンゲイという小説投稿サイトに関して、僕はこの小説を読む段になって初めて知った。世の中には、まだまだ知らない小説投稿サイトがあるのだなあ。ここ小説家になろうや、カクヨムやノベプラといったよく見るサイトとの特色差は知らないが、選択肢があることは良いことだ。
というわけで、ステキブンゲイ掲載のこの作品。TLでちょっと話題になっていたから読んだ。3万字ほどの短編小説で、手堅い幻想小説というか、寓話というか。読ませる物語だった。
いかんせん僕は伝承とか信仰とか民話とかに詳しくなくて、元ネタの金枝篇ってのがなんなのかもよくわかってない。だからちゃんとした楽しみ方ができているかは自信がない。実際、界隈の詳しい人なんかは、この小説独特の味わい深さみたいなのを受け取っている様子だし。
それができないのは口惜しいというか僕が精進しなきゃいけない事項だとして、良い文章だなあと素直に思える文体の作品で楽しめた。情景描写も心情描写も読む価値がある。
学問一筋に生きてきたのに結果が出せず、周囲を見返す目的で奇妙な風習の残る寒村へ学者が向かうところから始まる物語は、視点である男の前向きで卑屈な精神を淡々と描写する。寒々とした村の不気味な様子も書いていく。
そのいずれも詳細に書きつつ流れるような文体で、とても読ませてくる文だ。
どう見ても限界集落な村を訪れる、どうあっても幸せそうになれない男。物語の落としどころとして上向いた物にはならなさそうな予感がヒシヒシとしてきて、この閉塞感が気に入った。
そして登場する火竜。突然ファンタジーなアイテムが出てくるのに、それに違和感を感じさせないのがすごい
現実的な話であり、けどファンタジーの側面もある。雰囲気の間を通り抜けて違和感なく火竜との戦いを見せる。華々しいとは言えない武骨すぎる戦いも魅せてくれた。痛みと臭いと熱が伝わってくる。こういう泥臭い戦闘描写は好きで創作意欲を刺激される。
結末は幸運なものにはならないと予想したけど、なるほどそうきたかというもの。突き放した最後の文章が、後味を引く最後までいい文章の物語だった。