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84 戌二つ(午後7時半)見守り 田上城奥の院・和華【ダウングレード】

R18版から語り部を交替して視点を変え、時点を遅らせて全面的に書き換えました。

 わたしだけで九尾の狐を見張れって……あまり意味のあることとは思えない。

 わたしの声にある種の法力が宿っていて、人の心や考えに作用する。それはわかった。上手に使えば、多くの人に言うことを聞いてもらうことだってできる。

 だけど、九尾の狐にそれが効くとはとても思えない。

 夫と鴫沢さん、栗原さんと城に呼び出されたのに、奥御殿に渡れたのは、わたし1人。男は渡らせられないと頑なに拒否された。

 だから、奥御殿に与えられた一室で、一人でさっさと寝てしまおうと思った。

 僧衣を脱いで、襦袢姿で布団を被って、夜明けまでじっとしているつもりだった。


「そう言えば、あの2人……先に来てるはずよね」


 周防守様の屋敷の門前で見たあの2人……おかつとおこうが泊まる部屋は隣だと聞いていた。だけど、まったく静かだ。


……変だ……いくらなんでも、気配さえ感じないなんて……


 そう思って上半身を起こし、彼女らがいるはずの部屋の霊気を探る。

 でも、何も感知しない。

 おかしいと思いながら、また横になろうとした。

 すると、廊下から黒い邪気が伝わってくる。気配を遮断するまじないを使ってるのか……だから直接、隣から伝わらない。どういうわけか、廊下側の壁が開けられたんだ。

 散々迷ったけど……私は隣の部屋との間を仕切る襖に這い寄る。

 というのは、廊下には人の気配がしていた。感情の乱れが起きて……その人の気配が弱くなる……隣の部屋に引き込まれたのだろう。隣の部屋とを仕切っている襖は……


……んー、やっぱり開かない……


 しょうがない。意を決して私は廊下に出ることにした。

 そーっと這いながら、人一人通れるくらいに襖を開く。そして、片目が出るように顔を廊下に覗かせ、先を覗き込む。

 何もない。

 気配のする方へ這って行く。そこの襖が開いていた。そこでも、片目だけ出るようにして、部屋を覗き見すると……。。

 不味い場面だ。

 乱れた襦袢姿の若い娘が2人、さらに若い童女を布団の上に四つん這いにさせて弄んでいる。


……どうしよう……


 女の子は多分、津山の姫君よね。このまま、狐たちの責めが続いたら、干からびて死に至るかも知れない。

 どうしたらいい……自分の声の力で、2人の行為をやめさせられるか。試してみようか?

 他の方法では気づかれて、わたしも手籠めにされるだけだ。

 何か念仏を唱えて、それに感情を鎮める気を乗せて……自分の気の高ぶりを抑えて……

 覚悟を決めたその瞬間だった……壁を突き抜けて、白い光の帯が2条……そのまま、廊下を横切り部屋の中へ……びっくりして、後先考えずに襖の開いたところに立ち上がる。

 3人の体が光り輝き……童女がうつ伏せに崩れ落ちる。そして、左右に膝立ちしていた2人が、相次いで、童女に寄り添うように倒れ込む。

 光は3人の上の宙空で、狐の形を取った……


【いい所に、ちょうどいい力を持つ子がいるね……空狐くうこ……あなたは、その子に憑いて、この娘達を見張りなさい】

《ああ……嫌な予感がしていたけど》

【わらわが常にこの狐たちを見守るわけにもいかんからの。完全に滅することはできないのだし。誰かに見張ってもらうしかない】

《ご命令ならしょうがないですよ》


 一つの狐の形の光がわたしに襲いかかる……襲いかかるというのも変だけど……まっすぐ飛んできて、わたしの身体を貫くかと思った。避ける暇もなかった。それはわたしの中に留まり、わたしに溶け込もうとした。

 それは苦痛ではなかった。ただ、力が抜けて、わたしはその場にへたり込んでしまう。むしろ気持ちいい。人と交わる時に似た、背骨から頭に抜けるような甘い感覚……。

 目の前に、残された光の狐が漂ってくる。


【わらわは稲荷明神じゃ。よろしゅうな】

「え、は……はい。すみません、巫女さんでも、神主でもなく、尼僧で」

【気にするな。式神の空狐に憑いてもらったが……我が眷属が行き過ぎないよう抑えてくれよな】

「わたしなんかで力不足じゃありません?」

【わらわが太鼓判を押すから安心せい。誰か、お主を迦陵頻伽かりょうびんがだと言っておらんかったか? そういう力がお前にはある】

「はい……何人かの術師にそう言われました」

【うむ。本来、わらわは五穀豊穣の神で、狐の神ではなかったのだがな。すっかりこの姿が板について、すべての狐が眷属になってしまった。そやつらは、わらわの暗い部分をすべて背負ってしまった不憫な者どもだ。わらわが消し去ることもできない。まあ、世の中の迷惑にならん程度に、ほどほど抑えて欲しいのじゃよ】

「でも、どうしようもなく暴れていると思いますけど」

【世の中に出てしまったから、しょうがない。だがな。お主の声は、そやつらに大いに響くはずだ】


 うーん……神様にお願いされたとはいえ、実力差で成功しそうな気はしない。だけど、口は反対のことを言ってしまった。


「できるだけのことはやってみたいと思います」

【よろしく頼むぞ。わしは今、堀部の陣営にいる神主が持つ神剣で呼び出された。然るべき者が神剣を振るえば、また召し出されるだろう。お主の手に余るようなら、その神主を頼れ。松島村の甲野という】

「わかりました」

【それではな。付き合ってみると、かわいいところもあるから……よろしく頼む】


 そういうと明神様の光はだんだんと薄くなり、最後に狐の顔がにこりと笑って消えて行った。

 そうか……明神様の「明」の光が作る「暗」の影だから、明神様の力では滅せないし、むしろ守らないと行けないのかな、この娘たち……。

 ああ……奥に入るところで引き合わされた、まつ姫ね、真ん中に寝てる子は。

 若い子がおこうで、年上のほうがおかつね。

 確かに、周防守様の屋敷で見たときより、ずっと力が弱まってる。そうは言っても、屋敷で見せつけられた大火球は出せないというくらい。本気を出したら、わたしなんて一瞬で灰にさせられちゃいそうだ。

 

《大丈夫。わたしも保証する。あんたなら大丈夫だよ》

「なら、よいのだけど……」


 寝息を立てている姿は、狐の2人の寝顔はとてもかわいい。14と18だっけ。女郎屋に売られてくる娘たちの年頃だ。たくさん面倒みてあげたっけ。まつ姫は、もっと幼いね。まあ、あんなふうにされたら、あっという間に気持ちいいことに病みつきにされちゃいそう。

 先々いろいろ思いやられちゃうなんて思いながら、尼僧らしく念仏を唱えてみる。


《いいね……穏やかに穏やかに……気持ちを込めてみて》


 空狐の好意はありがたい。

 娘たちの顔が微笑したように見える……わたしもここで休んじゃおうかな……。

 3人の襦袢を整えてあげる。

 やばいかな……どんどんかわいく思えちゃう。

 さて……まつ姫を夜が明ける早々に起こして、部屋に帰すことができるかしら……。

 まつ姫を守るように抱いて、横になったら、そこに左右から狐の2人が抱きついてくる。

 もう怖くはない。ともあれ、わたしも一休みしちゃおう……。


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