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79 申三つ(午後4時)設計 四方村陣屋・堀部源之進智幸

「高札は立てたぞ。立てた時に、口上でも申し述べたとのことで、杭立ての仕事の方は、かなり関心が集まったみたいだ」


 明日の人集めの準備を終えて陣屋の本陣の座敷に戻ると、従兄弟の太夫がぞんざいな調子で言う。さすがに兄弟だけあって、普段の会話は砕けたものだ。


「それでいいぞ」

「明日の辰二つ刻(午前8時)に、村の北集落の北木戸に集合とふれてある」


 御館様は、逆茂木で敵の動きを邪魔するという戦のやり方を気に入ったようだ。そのための準備を、明日一日でできる限りやってしまおうというのだ。


「うむ。で、作業の方は2人に任せたい。今度の逆茂木は、森の出入り口に作ったような柵までにしなくていいんだ。要は、そこに人が体当たりするとか、蹴るとかしなければ倒れないという程度に、杭を立てていって、人の動きを惑わせればいい。特に中山道とその左右半里ずつ……合わせて1里くらいの幅でな」

「杭が5000本くらい要るか」

「郡境は原野です。地盤はそこそこ固いようですが、杭立ての用の木槌を持っている者は持ってくるようにとふれてあるので、まあ、ある程度は大丈夫と思います」

「まっすぐ立てなくていい。北側に向けて斜めに打ち込んでいい。人の往来の邪魔にならんように、中山道を塞ぐのは明後日の合戦の直前に、兵にやらせるがな。作事奉行が雇っていた大工・人足は織部の手下に押さえさせに行ってもらったので、もう少し杭も切り出す。それで明後日、もう少し西翼の杭を立て増させる。明日明後日の運搬は旗本に命じてある」

「織部助がやかましかったでしょう?」

「いつものことだ。きちんと、仕事もする。心配ない」


 ただ、今ひとつ理解が行かないので聞いてみることにした。


「どういう策になるので?」

「柵と引っ掛けた駄洒落か?」

「いや、そうではなくて」

「源之進も頭を柔らかくしろ。戦なんぞ遊んで考えないと、頭が破裂するぞ」

「はあ……そういうものですか」

「まあいい。逆茂木を街道を左右に跨ぐように立てて、その背後に槍・弓を並べ、その後ろに魚鱗の陣で槍兵を置く。旗本と梶川の騎馬隊を遊軍に取っておく」

「敵は西へ西へと回り込みませんか?」

「多分な。決して戦下手ではない連中が明後日は来る。兵数の差は当初より詰まっている。街道沿いは柵で閉じている。ならば、こちらの弱きを打ち、易く勝ちたくなる道理だな」

「その代わりに、東翼が薄くなる」

「そうだ。そうなったら、中山道の逆茂木をわしら自身で蹴倒して、梶川の騎馬と、お主らの弩と弓で一気にそこを抜く」

「なるほど」

「違う動きに出てきたら、それは臨機応変に考える」

「例えば……ああ、狐か」


 太夫が質問仕掛けて、答えの1つを自分で答える。大火球と朱雀は、森の縁の伏兵道まで出てきた我々の隊からも見えていた。あんなものがぽんぽん出てくる戦場にいたら、ちょっと堪らない。


「その件で、ちょっと報告があった。旅籠が1軒、客も奉公人も全滅らしい。男は13人が全部身体を引きちぎられ、女は10人が老婆のように萎びていたそうだ。こんな尋常でない殺し方は、人間技ではないという話でな」

「人を殺さないというのなら、妖怪でも、怨霊でも付き合って構わないんだがな。そうではいられないようだから厄介なんだ」

「うん。旅籠の一家と奉公人は何とか死体の身元を確認できたそうだが、客はそうもいかんらしい」

「津山の連中があの手合いを使い続けるようだと、何としても止めないと不味い。佐藤殿が、人間の恐れる心で器を大きくし、生気を吸って技の原動力にすると言っていたが、旅籠での人の死に方がそれを物語っておるな。今に国じゅうがそうなってしまうぞ」

「一応、津山の殿様には、退治を約束させたのでしょう?」

「あてにならん。今は抜け駆け軍の猪口と狐が一緒に行動しているが、あっさり和解するかもしれない。敵は旗本1000、ほかが2000、猪口の600、それに狐……こちらは2000と数百……まだまだ骨折りせねば勝てんな……」


 とは言え、この従兄は、不敵な笑いを浮かべているのだった。



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