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76 未三つ(午後2時)破戒 津山反乱軍・おかつ【ダウングレード】

R18版の後半の描写を削除・変更しています。

 甲冑を着て三間槍を持つ、5尺くらいの身長の男たちでは、半刻(1時間)で1里(4km)、1刻(2時間)で2里(8km)を行くのが精一杯。

 今や抜け駆けの残党軍ではなく、津山の棟梁に対する反乱軍になった兵たちは、懐かしい久保多村についた。この村からなら、もう田上城は1里のところ。


「じゃあ、後でね、猪口さん、吉景さん」

「ああ、運が良ければ、城門の開いている城内に突入して、わしらがこの地を支配する」

「そうなったら、あなたたちにも、周防さんが味わった気持ちよさ、味あわせてあげる」

「そいつは、飽くまでもおまけだな」


 今ひとつ乗りの悪い津山一門の生き残りの吉景さんに対して、恨みのある津山一門のほぼ壊滅に上機嫌の猪口さん……まったく好対照だ。

 久保多村には新しい村人ができていたのが驚き。その村人たちは猪口さんと吉景さんが率いる600近い兵を見て、触らぬ神に祟りなしとばかりに、家に閉じこもったり、遠くの畑まで出て行ったり……。

 番屋の傍に来ると、お侍の死体。郡奉行の配下の侍が詰めていたのだけど、先頭の兵と揉めて、もうあの世に行ってしまっていた。

 わたしが囚われ、犯された番屋のそばには、わたしと玉藻さんが殺した村人をまとめて埋葬して供養する墓もできていた。玉藻姉さんとわたし、それとおこうちゃん、わたしたちの手駒になった5人の足軽は、その番屋の裏の大石のところへ向かった。


「ほら、やっちゃってちょうだい」


 5人の足軽たちは、妖怪ではない。玉藻姉さんやおこうちゃんの技に人としては壊されちゃっているけど、妖怪のような妖気や邪気で動いているわけじゃない。ただの人だ。だから、容赦なく、大石の結界を強める榊や注連縄、御札の類をむしり取り、引きちぎる。

 田上城下で遭った神主が降ろした神の力による結界が、大石には仕掛けられている。でも、今の玉藻姉さんとわたしの力なら……


(いい感じに、力が弱まってきた)

「ほーら、みんな離れて……んーーーーー」

(出よ、我が分身……重石となる結界を滅せよ……気を放て……怨呪……爆散!)


 雲がちょっとあるというくらいの晴天に、いきなり雷鳴が走り、稲光が天空から岩を直撃する。


ズトン!


 瞬間的で、何かが破裂するような大きな音……家々から悲鳴が聞こえる。

 岩は文字通りに爆ぜ、粉々の破片となって、崩れ落ちた。

 結界は消えた。これなら、玉藻姉さんを復活させるために力を使い尽くした小さな殺生石の破片も出て来れる。 


(おいで、我が小さき分身よ……)


 今まで岩のあった場所の上空に、光の球が浮いて出てきた。禍々しい紫の光を帯びた球。


「お願い……わたしと一つになって。おかつ姉さんが玉藻姉さんと一緒になったように……」


 そのおこうちゃんの声に応えるみたいに、紫の光の球はおこうちゃんにまとわりついて、まるで身体の表を転がるように、ぐるぐると巡る。


「あぁ……これ……すごい………気持ちいい……」


 おこうちゃんの身体が立ったまま、ぴくぴく震える。野獣化した足軽どもの野卑な笑顔。おこうちゃんのうちにある力に触れて、球体から9本の光の腕が伸び、球体はおこうちゃんの身体のうちに潜り込む……


「あぁぁ……おぉぉぉぉぉ……うぅ……おぉぉ……あーーーーー」


 紫の光が身体と着物の内でも、背骨から頭へと這い登っていくのがわかる。そして、それが頭蓋に収まった瞬間、光が突如おさまって……。


[もともとは1つなのに……増殖したってこと?]

(どうやら、大成功?)

「すごい……頭の中に、もう1人いる…………あぁ……………」


 わたしと玉藻姉さん、おこうちゃん、復活したもう1匹の狐は、生気のやり取りをして、呪いの力を回復させていく。


「お姉さん、おこうちゃんの中の子、何て呼ぼう?」

(おたまでどう?)

[……うーん……芸がなさすぎ……]

「じゃあ、小さい玉って書いて、こだまちゃんで、どう?」

[うーん……あなたがそう言うんじゃ、しょうがないかぁ]

(おかつちゃん、気がついた?)

「うん、わたしは玉藻姉さんに支配されてるけど、おこうちゃんはこだまちゃんを支配しちゃった。逆なのね」

(そう……でもね、わたしも、おかつの言うことは聞くのよね……おかつが気持ちよくなりたいってお願いは、全部かなえてあげる。ふふふふ……この村……何人ぐらい、女を引き入れたのかしらね?)

「さあ? でも、そんなに数は多くないかな?」


 玉藻姉さんから植え込まれた周囲の人間の気配を察知する技を使うと、だいたい手近の家に10人くらい女がいる。行商で城下に行って戻ってきたという女たちが、いきなり軍勢に出くわしたので、慌てて家に隠れたみたい。ほかは、天気もよかったし、男も女も野良仕事に出ているようだ。

 玉藻姉さんの呼び寄せた稲妻のせいで、誰もここに来ようとは思わないようだ。


「女たちを、引っ張っておいで」


 そう足軽に命じると、奴らはめいめいに家に押し入り、情け容赦なく、槍で脅したり、髪の毛を引っ張ったり、着物の襟を持つように引きずったり……嫌がる女たちを、連れてくる。


「いいよ、お前たち……今、半分、足腰の立たないようにしてあげるから、その娘たちは、お前たちが好きにすればいい……」


……そこからは、わたしたちの力で、この世のものとは思えない乱痴気騒ぎ。最後は女たちの生気を吸い上げて、からからに干からびさせて殺してしまった。

 わたしたちも、5人の足軽たちも、女たちとの交わりで、大いに満足した。


「さあ……城の方は、どうなっているかしらね」

(猪口さんのお手並み拝見ね。きっと力づくで城門に押し入るなんてないでしょう。きっと策があるわ)

「お城でも、いろいろ面白いことがあるといいけど」

[そうね……いっぱい生気がもらえるようなことがあるといいけど]

(もしかすると、少し大人し目に振る舞うことになるかもしれないけどね)


 わたしたちはにこにこの笑顔を浮かべながら、田上城へと歩き出した。




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