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57 森脇村・おかつの中の玉藻前の猛り【ダウングレード】

R18版のの序盤をさっくりと省きました。その分後半書き足し……まあコレくらいなら大丈夫ですよねえ?

8月27日


「器が大きくなった分、なかなか生気がいっぱいにならないわね」

「気持ちいいんだから、死ぬまであたしから吸い取っていいのよ」

(そうはいかないのよね。このところ繰り返しになっているけど、おこうには、ずっと傍にいて欲しいから)

「おこうちゃんの生気は並外れて回復が速いし、元々多いし。むしろ、枯らして死なすなんてできない」


 わたしたちは朝から快楽に耽った。普通の人間なら、これほどの快楽に溺れれば、動く力さえなくなるだろう。

 だけど、わたしたちにとっては活力の源だ。

 朝餉……おかつもおこうも、ご飯をもりもり食べる。部屋の給仕の下女中しもじょちゅうがびっくりするくらい。

 おかつは、わたしの力を使って生かし続けることができるけど、食事の習慣は忘れられないらしく、おこうと食事を共にする。

 自堕落に女同士の交わりにうつつを抜かしているばかりではない。

 男みたいな髷を結い、男物の装束を羽織り、袴を履いて、野歩きをする。出しなに部屋の掃除に来た下女中が、うっとりした顔で2人を見ていた。やはり衆道の美男の若衆だと思われているようだ。簡単に口説けそう……。夕餉の後にはたっぷりかわいがってやることにしよう。

 今日は、砦の西側に開かれた道を見に行く。この辺の造営は終わっているみたいで、人が向かって来る気配がない。

 北の方にも伸びている道がある。

 どちらも、お世辞にも踏み固められたとは言えない路面。雨が降ったら、ぬかるみそう。そこは急ごしらえということ。

 どこまで奥に入ろうか迷ったけど、おこうが「木を切る音がする」と言った当たりで足を止めた。斧と鋸、鉈を使って、杭や柵の材料を作っているみたいだ。脇に逸れ、森に分け入る。深い森の木々に隠れながら砦を見ると、倒木から長く太い枝を切り出しているようだ。

 あれ?

 砦の周囲が切り開かれているのは、理由が分かる。というか、切り開いた平面よりも、建物や柵代わりの倒木が数丈くらい内側にあるのは当然だ。

 でも……


「お姉さん……所々で変な風に木が倒れてる?」

(おこうちゃんも気づいた? さすがね)


 砦の敷地の外周……森の中に所々、木が倒されているけど、それを辿ると、ごくごく薄い輪が砦を取り巻いている感じになっている。ちょっと見にはわかりにくいけど。

 西に開いた道から、北へ森の際の中山道沿いに延びている小道は、はっきりと「道」とか「辻」とかいうべきもので、誰の目にも存在が明らかだ。

 けど、敷地の外周の輪は普通の人には注意して見てもと気づかない。「線」というか「点の連なり」。所々に木が倒れているだけにしか見えない。倒された木も放置されているし、向きも不規則だ。輪の「線」の地面は踏み固めてもいない。

 でも、そう気がついて森の奥からその流れを追って歩いてみると、間違いなく「つながっている」と実感できる。例えば、この輪に沿って弓兵を置いたら……のこのこ砦に入り込んだやつを取り囲もうというのかしらね。


(策を練ってるのは、堀部の殿様自身なのかしらね?)

「頭をちゃんと使える武士もいるのね」

「これ……津山の軍勢は西から入ってきて、砦を経由して南に抜けようとするから……」

(そうね。郡境は空だし、兵糧もありそうだし。まずは、この砦を押さえ、南に抜けて、四方村を襲うつもりよね)

「あれが兵糧の倉……ほとんど輪の中心ね」


 今回の津山家の出兵にあたっての集結地は津山城下で、兵糧の支給・輸送の都合から、明日の午後あたりから、城下の寺や各武家屋敷に兵が入ることになる。だけど、「謀叛軍」は城下より3里ほど南の森脇村を集結地にしている。そこで荷を集め、1日分の兵糧を兵に配って、29日の明け方にすぐに行動を起こす。でも、何日かは行動するための食糧は、略奪するつもりだ。もちろん、砦を確保すれば、倉の兵糧も手に入ると思うだろう。

 わたしたちには、もはや堀部家がどういう戦の組み立てを考えているのか、わかった。だが、それを周防守に知らせる義理はない。大勢が苦しみ、恐れながら死ぬ。それこそがわたしの望み。一戦が終われば、関八州を傾けるくらいには、力の器は広がるはずだ。


「周防守は何番目の陣にいるのかしら?」

(城下の屋敷での話を思い出す限り、周防守は第2陣以降に回りそうよね)

「なるべく真ん中にして欲しい所ね。一番人が死ぬ場所でしょ?」

「そう。2人で周防守にお願いしないとね」


 なるべく兵の集結を他に悟らせないために、一門の主力は、28日夕刻に到着する。森脇村の寺とその周辺に、兵は夜営することになる。そこに合流すればいいから、四方村からはゆっくりと出かければいい。


(わたしたちは、今日の夕餉と明日の朝餉を、たっぷり食べてから出立しましょう)

「やだ、玉藻姉さん……夕餉と朝餉だなんて。旅籠のいる人みんなを贄にしちゃうのね」

「ふふふ……今夜は何人泊まるのかしらねえ。楽しみだわ」


 わたしたちは森から出て、今度は四方村の西から、北へと砦に向かう道も少しだけ覗いてみる。こっちは資材を運び込んでるし、人通りが多いのか、地面はしっかりしている。ただ、道は細いし、左右の森は深い。砦の存在自体が、とんでもなく悪質な罠……。


(周防守たちの浅知恵じゃだめね)

「家老くらいしっかり考えて戦は組み立てないとね」

「無駄に死んでくれれば、それだけあたしたちの力になるんだし、いいじゃない」


 周防守の次の売り込み先も考えないといけない……そんなことを考えながら、四方村の周囲をさらに回って旅籠へと戻る。夕方でちょうど夕餉を出す時刻だ。


「おかえりなさい」


 給仕の下女中が声をかけてくる。


「ただいま」

「今日もご苦労さんだね」


 2人は男か女かわかりにくい言葉遣いで、下女中と会話を交わし、夕餉の一時を過ごす。


「お前さん……愛嬌のある顔だよね」

「え? 嫌ですよ、からかっちゃあ」


 食事を終え膳を片付けようとする、その女中は照れているのか顔を赤くする。器量は悪くない。それに当世の女中は女郎を兼ねている場合が多い。


「からかってなんかないよ」

「どうせなら……もう少し相手をしておくれ」


 座って膳を入り口の方に寄せた女中の身体を、おかつとおこうが左右から抱きすくめる。


「駄目ですよ……そういう宿じゃないんですから……」


 そうは言っても女中に手向かうつもりはなく、2人の手が体を撫で回すに任せている。

 わたしにとっての夕餉の始まりだ……。

 

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