53 四方村への移動中・おこうの残虐
タイトルにマークするほどではないけど、R18版ではちょっとだけ淫靡な描写があったので、念のためその辺りの描写を変えています。
8月23日
時々、おかつ姉さんや玉藻さんが考えることがわからなくなる。あたしは、2人がとても気持ちよくしてくれるから、あの気持ちよさの中で死ねれば、あとは地獄に落ちても平気。だから、屋敷に結界で封じられた時、玉藻さんが生気を吸い尽くしても後悔はなかった。
だから、あの4人に後を見せることはないと思った。
だけど、2人が揃ってこう言った。
「あなたは貴重な戦力なの」
(あそこにいた尼なんか比べ者にならない強さがあるの)
「あなたは潰さないから」
(仲間がいた方が面白いし……)
だから、生かされるのなら2人のよい手駒になろうと思った。2人の心に自分の心を合わせようと思った。
あの結界は、通り抜けようとする妖力が大きいほど、そこに吸い上げられる力も大きくなる。そういう狡猾な罠。尻尾は細く突き抜けることができても、そこから力が吸われる一方だったし、体全体で通り抜けようとすると、あの4人を殺せる力は残らない。
だから、まだしも力が残るやり方を2人は選んだ。
大火球で塀とご神木を吹き飛ばす。相当の力を使うが、いくらかの術を使えるくらいには力が残る。そして、塀のすぐ外の竹林のなかで、腰を下ろせる場所を見つけて、態勢を落ち着けた。あの4人はさっさと逃げていた。
あたしが、屋敷の中に戻って6人の女中4人の男の奉公人を催眠状態にして、連れていく。
まず、奉公人の男一人を催眠状態のまま、28日に森脇村で会いましょうって伝えるよう、周防守さんのところへ使いに出す。
あとの奉公人は、玉藻さんの妖力の器が広がるよう、私が術を使って、じわじわ苦痛を長引かせながら殺しちゃった。その後は、玉藻姉さんの尻尾が女中たちの生気を吸い上げる。女たちは老婆になり、さらには即身仏のようにからからになりながら絶命していった。
あたしもその場でお姉さんたちに気持ちいいことをしてもらいながら、生気を吸い取ってほしかった。でも、田上城の家老たちが、あたしたちを追捕してくることは考えられたから、いつまでもそこにいるわけにはいかなかった。だから、一度、田上郡を出ることにした。
中山道から外れ、森沿いの裏道を使って、まず多田野村に。翌日は森脇村に。それから、四方村に。なぜゆっくりかと言えば、人を殺めながらだから。
「外に出るって楽しい」
(どうして?)
「だって、人を殺しても咎められないから」
「ふふふ……玉藻さんが取り憑いているわたしより、よっぽど玉藻さんに近いわね」
ゆっくりと、村外れの森の際の細道を進む。
村娘を見つけたら、あたしとおかつ姉さんでじゃれついて、森の中に連れ込んで生気をからからに吸い上げる。
だって集落と集落の切れ目の荒れ地なんて、街道筋をちょっと外れれば、見咎める者なんていないのだ。いたとしても、そいつも動けなくして後から始末すればいい。
野盗の集団だったら最高。いくら殺してもいいわけで嬉しくなるらい。おかつお姉さんの中の玉藻さんは、私にお情けをくれながら、力もくれた。その使い方を修練しながら、男たちを恐怖させて殺す。
今も。
十人くらいの野盗に囲まれている。あたしたちが男だろうが女だろうが、捕まえて、身ぐるみ剥がして、慰み者にしてやろうって気で満々だ。
裏道を歩いている小姓など、本来なら野盗にとってはいい獲物のはずだ。脅せば言うことをきく……迂闊にも2人の男たちが近づいてくる。
「残念ね。もう少し骨のある男だといいのに」
「な……ひぎゃ!」
足元の方で、めきっていう心地よい音がする。お姉さんが剛力で相手の膝を蹴り、あっさり折ってしまった。膝が反対に「く」の字に曲がってる。情けなく地面を転がる男。
あたしには、さすがにそこまでの力がない。だけど、手のひらで空気を石より硬い礫にして、それを弩よりも早く飛ばすことができる。
「肝っ玉も小さいんでしょうね」
「何を……ぐあはぁ」
私に近寄ってきたその男には、その気の礫を、言葉通りに肝の臓にぶち当てて破裂させてやった。こっちの男は身体全体を「く」の字に曲げて倒れ、悶絶する。腹腔を血でいっぱいにして死ぬまで、一刻はかかるだろう。
「返り血で、着物を汚しちゃ駄目よ」
「はぁい」
野盗たちは得物を振りかぶって、攻め立ててきたけど、連携がなってない。お姉さんはきれいな身のこなしで、太刀や長刀を交わし、男たちの膝を蹴り飛ばして折り、動けなくする。
あたしはそこまでの身のこなしに自信はないから、次々に気の礫を飛ばし、男たちの臓物を身体の中で破裂させちゃう。
気持ちいい。礫が腹に当たり、変な悲鳴とともに身体を曲げて倒れていくのが楽しい。お姉さんがいないと収まりがつかない身体は、気持ちよさに浸りながら、人殺せる。
あたしには、お姉さんほどの剛力はない。それでも、玉藻さんが身体を弄ってくれながら力が出るようにしてくれたので、並の男くらいの腕力がある。
「ふぅん、そうやるんだ」
お姉さんが足を折った男の手足を、肘や膝のところで折っていく。ぼきぼきぽきぽき、小気味のいい音がし、男の苦痛と恐怖がどんどん高まっていく。お姉さんのなかの玉藻さんの力の器がどんどん広がる。あたしも、自分で倒した男のそばに寄り、身体を蹴っ飛ばして、うつ伏せにする。
「ああ、それならね。肘のところに片膝突いちゃって。下に敷く感じに。そうして、両手で手首を持って。うん、そのまま、引き上げて」
「面白ーい……簡単に折れるぅ」
お姉さんの言うとおりにしたら、ぼきって音ともに、肘のところがぶらぶらになった。緩慢な死に向かっていた男が、突然の激痛に、ぎゃあぎゃあ叫び声をあげる。
「うるさいわねえ……男なんだから、少しは我慢しなさいよ」
さらに反対の腕も同じように折ってしまうと、ギャという悲鳴のあとは「殺して……」と連呼しながら虫の息になる。
「駄目よ。野盗のいうことなんて聞くと思ってんの? あたしたちがか弱い女だったら、死ぬまで嬲り者にしてたくせに」
あたしは、そいつの右の人差し指を捕まえて、第二関節で折ってしまう。ぺき……肘を折った時より軽薄な音。男の顔が涎と涙に汚れ、「やめ……やめ……」とか、声にならない声で、もう何を言ってるのかわけがわからない。十本の指、全部折ってあげると、さすがにもう声も出ない。そうやって他の男も、膝や肘を折る練習……そして、少しいたぶって、死ぬしかないことを自覚させる。
「まだ十五の小娘に蹂躙されるなんて、いい気味よね」
「あら、お姉さんだってまだ二十歳になってないんでしょ。十八だっけ?」
「そうよ……ふふふ。この野盗たちにはいい教訓よね。人を見る目がないと、ひどい目に遭うって」
お姉さんも手足を折り、うつ伏せにして腰骨や背中を踏みつけにして砕いていく……そんな凄惨な殺し方をする。四方村の旅籠に入れば、私の生気もたくさん分けてあげられる。そうすれば、戦までに玉藻さんの妖力も充分に満たしてあげることができる。それは、あたしにも気持ちよく、楽しい時間になる。