22 氷室城下の陰陽師の弟子にして嫁・おせんの浮気症【ダウングレード】
R18版の後半を書き換えました。
7月22日
うちの先生……わたしの夫である佐藤義安が主席家老の内藤勘解由様に、大沢村の鍛冶場の拡張に話を持ちかけたおかげで、お城からも拡張のための資金が出ることが決まり、大沢村の鍛冶場の拡張が着々と進むことになった。
お城の資金の見返りは、武具に加工しやすい薄めの鉄板を優先的に提供すること。兜、面頬、甲冑、矢じり、槍の穂先といった部品または材料をお城側が指定する数まで納めること。それができればお金は返さなくてよいという条件で話し合いはまとまった。
今日は大型のたたら炉が完成し、数日中にさらに大きな大鍛冶炉を作り始める。
「おせんさんと隆之介さんには大層世話になりました」
この話を先生に持ちかけた久兵衛は嬉しそうだ。鍛冶場の指揮を執る六助さんもだ。
大型たたら炉が完成したこの日は、昼過ぎから新しい鍛冶場にござを敷いての宴会……といっても、わたしのほかは、先生の二番弟子の隆之介、久兵衛さん、六助さん、六助さんの弟子になる予定で、この工事の下働きをした大沢村の小作の人たち。さらに新たに雇うことになる職人さんたち。
この人たちはいい人だ。役に立てて嬉しい。
自分たちがやったのは、最初は、炉の下の地面からしっかりと土台と構造が必要で、式神の力を借りた。穴を掘って粘土や砂利を使って、土中の仕組みを整え、しっかり整地する。先生が村に通い詰めることはできなかったので、わたしと隆之介さんでやった。人足を何人も雇って数日かかりの仕事も土神である天空の眷属を使えば、2日で終わる仕事。人の力は造作の細かい難しいところに使うだけでよかった。
その上に粘土で炉を作る。風呂桶のような形で、鉄を取り出す窯度口を設ける。空気を送る管とたたらは要らず、火の式神の姿を抜いた円盤をそこに嵌め込んでいく。こうしておけば火の式神朱雀の地付きの眷属が、その穴から風を送り、材料を赤熱させて鉄だけを取り出しやすくする。
六助さんも精神力が強いせいか、式神と対話でき、送風のやり繰りに不安はない。
「一区切りついて、本当にほっとしましたね」
隣で胡座をかいている隆之介さんが、盃にお酌しながら、話しかけてくる。
夕刻になり、庄屋の久兵衛さんは泊まって行けという。もともと宴会には誘われており、帰るのは明朝と先生には伝えてある。厚意にすっかり甘える気でいた。
「田舎暮らしもいいもので、長逗留してもいいかなと思ってしまいますよ」
「そうねえ」
「医者はいないからすぐ近くにいてくれれば嬉しいし、庄屋さんちなら旅籠を始められるくらいに家は広い。ずっといてくださってかまわないですよ」
「わたしは先生のところにいないとだけど、隆之介さんはお好きなだけどうぞ」
とはいえ、ご城下とは2里もない。女子の私の脚でも歩いて一刻だ。いつでも来れる。
すっかり星が出たけど、夏の盛りで夜もまだ蒸し暑く、汗ばむ。
隆之介さんは酔いつぶれ、近くの六助さんのお宅に引きずられていき、宴会はお開きになった。わたしは庄屋さんの家へとご一緒する。女将さんが出迎えてくれ、離れの客間に案内してくれる。その時につぶやいた。
「汗かいちゃった……行水したいなあ」
「ご用意しますか?」
「お願いしてもいいですか」
「もちろんですよ」
わたしが泊まる部屋の縁側の傍の庭には井戸があり、女将さんが盥を出してくれた。井戸から水を汲み、たちまち盥は水で満たされる。
「終わったら、そのままにしておいていいですよ。朝に片付けますから」
「ありがとうございます」
もう暗いし、井戸端に蝋燭をおいての行水。襦袢も脱いで、盥のなかに座り込んで、身体を手ぬぐいで拭う。
ただ、庭と外を遮ってるのは生け垣だ。視線を感じてしまう。誰かが隙間から覗いている。
わたしは淫らな女だ。先生は妻としても、一番弟子としても、わたしを大事にしてくれる。でも、14のわたしに気持ちのいいことを教えてくれたのに、月に5回くらいしか、わたしと契ってくれない。わたしは毎日でも契りたいのに。だから、17のときから、二番弟子の隆之介さんとは先生の不在の時にまぐわうようになってしまった。隆之介さん以外にも、夜這いをかけられて断った試しがない。子種はもらわないように、自分で調合した薬で上手く始末はつけているけど。
陰陽師としてのわたしは、式の気配だけでなく、人の放つ気を読むことにも長けている。15くらいの子、多分、庄屋さんの息子。まだ女を知らなくて、すごい熱気がわたしに向いてくる。
……どうしよう。でも、わたしが男を知ったのも14の時だし……
わたしはその子を誘うことにした。
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真夜中……さすがに5回も交わり、精を吐き出せば、疲労困憊して当然。寝ちゃうのも仕方がない。わたしも何度気をやっちゃったか覚えていない。
体を起こして、自分の行李から子種を絶やす薬を取り出す。それを自分の奥深くに埋めて、床にまた寝転ぶ。
隣で寝息を立ててる子が、かわいくてしょうがない。初めてだっていう男は隆之介さんとの最初の時以来、二人目だ。その時とは違って、わたしがきちんと教えてあげられて嬉しい。
男の人が年下の若い子を好きになりやすいのもわかる。教えて導くことが面白い。自分も気持ちよくなることに貪欲だし、相手を気持ちよくすることにも一生懸命だもんね。
でも、この子……正吉さんとのことは、この1回きりにしておこう。庄屋さんと先生や鍛冶場との関係を悪くはしたくない。わたしが「浮気女」で、「庄屋の息子を誑かした」なんて話になったら、まずいものね。
まして、わたしは陰陽師で、式神を自在に使える。そういう力を持つ者が、妖怪扱いされることがあるのはよく知っている。
先生だって医師の看板は出しても、陰陽師として自分を売り込むのは珍しい。よほど鉄作りへの興味が強かったんだなと思う。
先生がやる気になったのなら、わたしはそれを精一杯支える。
でも、気持ちのいいことは我慢できないのよね。