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17 田上城下の旅籠にて久保多村の生存者・おこうの目覚め【ダウングレード】

R18と語り部は同じですが、少し後の時点にストーリーを変更しています。

7月17日


 目の前のきれいなお姉さんは、つい一昨日、あたしのお父もお母も弟や妹を殺した。お父と弟は体を引きちぎられて。お母と妹はカラカラに干からびて。

 でも、もうわたしは普通の人ではなくなった。

 悲しくない。

 ついさっきまでは怖かったのに、もう怖くもない。

 気持ちよすぎて、苦しくなるくらいだった眠る前のことを思い出し、また気持ちよくして欲しいって思っちゃう。


「もう……わかんない。自分がどうされたいのかも……だめ……気持ちいいの停まらない……言うことなんでも聞きますから……あっ……どうにかしてください」

(いいわよ……ほら、目が覚めたら、いろいろ教えてあげるからね)


 正体をなくして眠りに落ちる前に、そんな言葉を交わしたのは覚えている。

 今は夕方? もう夜? 目が開くと、暗いけど、月明かりがあるせいか。おかつさんの白い肌が何となく見える。裸で抱き合ってたんだ。

 お互いに向かい合って寝ていた。何を教えてくれるんだろう。

 顔が赤くなる。

 女の人に、恥ずかしいお願いをしてしまった。恥ずかしいって気持ちもきっと見透かされている。恥ずかしいことを教えて欲しいって思い、ますます恥ずかしい。

 思わず、抱きついて、おかつさんの胸元に顔を埋めちゃう。


「また…………また気持ちよく……してください」


 また淫らでふしだらなお願い……あたしは本当におかしい。気持ちよければ本当に何だって良くなっている。家族を殺した人なのに……。あたしだって殺されるはずだった。でも、この人は、あたしにすごい力があるって言って、村から連れ出した。飼うって言ってた。

 体が火照り、うずく……どうしたらいい? 飼ってくれるんだったら、この火照りを何とかして欲しい。

 思わず自分で弄りそうになった手を、おかつさんが握って停める。起きてたんだ……。


「今は駄目……。ねえ、わたしの中にいる玉藻さんは何だか知ってる?」

「よくわからないわ」

(狐の物の怪……九尾の狐と言ったらわかる?)

「ああ、何かで聞かされたと思う。悪い狐だってくらいしか覚えてないけど」

(わたしを封印している村の民が、わたしの存在を知らないんだもの。それじゃあねえ。結界を守り通せるわけがないわ)


 どうせ物の怪なんて作り話、お伽噺の中だけって思っていたからびっくりしちゃう。でも、あれだけの人を殺し、あたしをおかしくしちゃうほどの不思議な技……。本当にこの人の中にいるんだ……。


「あなたにも、いろいろ手伝ってもらうわ。玉藻さんの希望を叶えるためにね」

「いやだって言ったら?」

「ここでお別れね。動けなくして、ここに置いて行っちゃう」

「い、いやです。置いて行かないで。何でもするから……一緒にいさせてください」


 自分が涙声になっているのがわかる。目の前のおかつさんと見えない玉藻さん……2人がしてくれる気持ちいいことを、もう手放せない。家族だってどうでもよくなっちゃうくらいの気持ちいいこと。なくしたくない……。


「かわいい、かわいい……大丈夫、その気持ちならね。一緒にいてあげる。ほーら、わたしの後に見えるでしょう?」


 おかつさんの手で頭や背中をなでてもらってる間に、白い狐が本当に見えてきた。

 大っきい……本当に9本の尻尾がある。


(わたしを「かわいい」ってのは、なしにしてね)

「あ~、はい」

「玉藻さん、怖いのよ」


 笑顔のおかつさんは少しも怖がっていない。

 狐……玉藻さんが体を起こして、あたしの方を見る。


(目を離さないでね)


 狐の目……黒目のところが、深い赤だ。暗いのにわかるのは、その色で光ってるせい? ぱちぱちとするのは、瞬きしてるせい?


「気持ちを楽に。何も考えなくていいよ。玉藻さんの目だけを見て)


 赤い光が灯ったり、消えたり……あれ? 眠い? ううん、ちょっとちがう……ぼーっとしてくる感じ。ふわふわ……頭の中に何か来る……変……中が引っ張られてる。


「あ……何……ああ……出てくる……頭……中から……あ~……あっ……あっ!」

(できた……)

「あっ……く……何したの?」


 痛くはない……気持ち良いのとも違う……。あれ? 暗い部屋なのに……暗いままにいろいろなものが見えるし、わかる。


(頭の中に眠っていた力の出口を付けたわ)

「あなたもいろいろできるようになったのね」

「何のこと?」

「わかってるでしょう? もう見えている風景が違うわよね。あそこの蝋燭の先を見て……」

「うん……」


 そう。暗いはずなのに、おかつさんの目線の行き先がわかる。その部屋の片隅に、燭台があった。蝋燭の先もはっきり見える。


「じっと見て。火が灯るって考えて」

「うん……」

(できるのよ、あなた。火が灯る。蝋燭の先が熱くなる。どんどん熱くなる……それだけ考えて……)

「……んっ……」

「早い」

(うん。自分の力だけで最初からできるなんて。さすが見込んだだけのことはあるわ)


 おかつさんと玉藻さんの言葉に従って、じーっと先を見つめ、そこが熱くなるようにと思っていたら、本当に火が灯ってしまった。

 部屋の中がものすごく明るく感じた……少し暗く見えるといいと考えたら、ちょうどよい明るさになった。日が弱ったのではなく、目のほうが暗く見えるように調節したのだ。


(わかった? 考える。こうなるようにと思う。力が強くなるほど、それが簡単にできるようになるわ)

「わたしもまだ修行中。でも、わたしは玉藻さんの力や考えを借りれる。だから、あの村で大勢を殺せちゃった。そういう力をあなたも使える。上手に使いこなせるようになったら、私たちに復讐できるかも……」

「本当に?」


 あたしはおかつさんを睨みつける。


「お姉さん……あなたを燃やしていい?」

「いいわよ。あなた、すごい力を持ってる。わたしは玉藻さんの力頼みだけど、あなたは自分の力ですごいことができるようになる。わたしをあなたの力の肥やしにしていいわよ」


 あたしとおかつさんはにらみ合う……本当におかつさんを燃やせる?

 正面に向き合って座ったまま、おかつさんににじり寄る。


「無理……お姉さん……おかつ姉さん……上手に蝋燭に火を点けたんだからご褒美ちょうだい」

「だめよ。あなたの力は強いんだから。その都度、ご褒美なんて言ったら、修行の暇がなくなっちゃう」


 それでもおかつさんは、近寄った私の体を抱きしめてくれた。


「でも……最初だから……これくらいはしてあげる」


 おかつさんは口を吸ってくれた……舌も絡めてくれた……それだけでも溶けちゃいそうな気分……

 




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