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16 堀部家主席家老・内藤勘解由良純の悩み

7月16日


一、家中の武装を一種類に定めたるは、石高の1割に相当する銀子を毎年9月1日に支給する。

一、望む者は10日以内に主席家老または戦奉行に書面で届けること。

一、届け出た者は、9月1日に閲兵行列を行う故、兵備を整えること。

一、閲兵までに所定の兵備が整わぬ者には、銀子支給は行われぬこと。以上


 親方様が昨日の軍議でそう仰られ、出席者一同、仰天した。だが、親方様が戦で負けないための策であると説明すると、誰もが雪崩をうったように賛成した。


「速度や武装が揃った家と与力をまとめて使えれば、総大将としては戦いやすい」


 言われて見ればその通りだし、御館様が不出馬の戦では、それがしが総大将になるやもしれん。そう想像して1000人くらいの出兵で、隊の編成を考えてみる。

 普段なら100石取りの家老のわしは、兵50、うち馬・弓各10を出すが、総大将の際には馬を20追加する。というのは、軍令の伝奏に必要だからだ。それは他家から借りることが多い。

 だが、馬50を揃えるのはかなり難しい。自分の領地の集落周辺には、馬草はそれほど多くなく、一から馬を生産するのは大変だ。だから、野生馬を捕らえるか、馬産する他村の富農から買い、戦に用いるだけではなく、村内の農耕馬にも使う。

 一方、弓は揃えやすい。領地には腕のいい木工職人がいて重宝しており、注文を出せば、弓を50張り揃えるのは造作もない。侍大将には弓の名人もおり、我が家は弓兵隊を目指すのが一番だと思われた。


「ご家老はこの件の担当にされましたから、ちゃんと悩んで考えていただけてますな」

「う~ん、自分が総大将になったら、面白いぞと思うからなんだがな」


 そんな話を配下の戦奉行に相談するというのも変なものだ。歳は5歳違いだが、こっちが歳上でもあるし。だが、今回の法度の発案者だけに、自分の存念を聞いてもらうには最適だ。


「実際のところ、ご家老は悩んで頂けると信じておりました。今のところ、奉行以下の意向をそれとなく打診したところ、騎馬か槍で即答する者ばかりで困っていたところでして。少しは考えてくれと思っておりました」

「わしが弓隊専門にすると言い出したら、ちょっとは考えるやつも出るか?」

「席次最上位の方が真剣に悩んで決めたと伝われば、態度を改める者も出るでしょう」

「そうか。自分が軍配を預かった時、弓の厚みがそれなりにないと、さすがに困る。前備えが崩れたときには、弓矢を集めて射るのが最も敵の勢いを殺せるからな」

「はい。攻めでも弓は必要ですが、敵の首を取りにくく、手柄を認められにくいという考えもあるようです。いろいろ慣行を改める必要もありますかなあ」


 普通は倒した敵の首を切断し、手柄の証にするのだが、それは他の敵に逃げられたり、乗ぜられたりもする。迅速に敵を一網打尽にしたい時に、動きがばらばらになる時もある。


「例えば、首は置き捨てにして、何か別の証で代えられないかとも思います」

「個々の手柄をどう計るか難しくなるが……。まずは勝つことが本じゃからな。おいおい考えていこう」

「とりあえず、ご家老の家中は弓隊ということで、今のやり取りを吹聴してよろしいですか」

「構わん。弓50張りをまとめた力で、どの家より手柄をあげられると怪奇炎を上げていたとでも言ってくれてもよいぞ」


 軍略面ではもう一つ相談したいこともあった。


「それと、もう一つ、実は城下の越後屋と大沢村の庄屋、それに佐藤と申す最近評判の医師が陳情に参ってな」

「何事でしょう」

「大鍛冶場を作るそうじゃ。ついては城からも資金を出せと」

「はて………このあたりに良質な砂鉄の鉱床がありましたかな?」

「いや、その佐藤が陰陽師でもあり、その技を使って画期的な鉄の製法ができるというのだ。良質な鉄を安上がりに、今までの倍も作れるという」

「大沢村には小鍛冶の名人がいます。面白そうですな」

「うむ、城から金を出したら武具作りを優先させると言っておる。小鍛冶で試しに実演するというので、明日、大沢村に行くことにした」

「御館様のお耳には?」

「うむ、申し上げた。面白そうだから、きちんと見て参れと仰られたよ」

「城全体が『面白ければ万事良し』の風潮に塗れてますな」

「大いにけっこうだ」

「それがしもそう思います。あ、あと一つ。町奉行の左衛門尉さえもんのじょうからなのですが。城下の大津屋が死んだそうです。溜池で土座衛門になったようで」

「うーん。弓の材料は大津屋から仕入れていたのだが……とはいえ、最近は行状が悪かったそうだからな」

「ご家老にも、その評判は耳に入っておりましたか」

「うむ。土座衛門が挙がったのは昨日か?」

「一昨日から行方がわからなかったそうで」

「一昨日というと、嵐のなかを出かけたのかな。ならば自業自得じゃ。息子はまともだし、事実上、店を取り仕切っていたから、特に問題はないだろう」

「はい。小さい町ですから、商売に途切れがなければ、それでいいですよ。それでは、明日の大沢村の件、明後日にも話を聞かせてください」

「うむ。邪魔したな」


 気分は楽になり、あとは、自分の家中をまとめるだけだ。あとは明日の外出のために、夕刻までにできるだけ書類を決裁しておこう。


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