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105 巳三つ(午前10時)展開6 郡境北・柴田隊・柴田内匠頭頼信(地図)

「雁行に誘われたかな」


 我が津山陣営は、早々と陣形を決め込んで各自休息を取っている。

 慌てずとも数はこちらが上であり、堀部の連中の方が数が揃っていない。血の気の多い猪武者どもは、敵の数が揃わないうちに本陣に攻め込み、向こうの御館を括り殺せなどとねじ込んでくるが、こちらから正午の開戦を言い立てて、それを破ったのでは、この土地で領地を治めるなどやれなくなる道理だ。

 その意味では、正午までは待ちの一手なのだが、敵の騎馬が二百、我が方の右翼(敵方の左翼)の柵際に出て来た。私のつぶやきを聞いて、若い武将が声をかけてくる。


「殿……どう思われますか?」


 声をかけてきたのは、我が柴田家の副将で領地の差配を任せている次男の柴田源一郎だ。今は惣領の頼成よりしげが長患いで城下の屋敷で伏せっている。それ故、家臣扱いにした20歳の次男坊を頼りにしている。

 とはいえ、まだ、惣領を移したわけではないので、源一郎の言葉づかいは家臣のそれだ。


「わしらが右翼を下げた雁行の陣ゆえに、背後に回り込ませやすい位置に騎馬隊をあげて来たというところだろう」

「なるほど」

「こういう陣形というのは、自分たちがどこを突くつもりなのか、手の内を教えるようなものだ。だが、自分たちの策を自分たちで自覚できるということでもある。御館様の今の意図かわかるか?」

「中山道上を安田様の隊に深く突き入らせて、吉景様、本多様の隊と旗本衆で、奴らの本陣のある台地を包み込むように攻める……ですかね」

「そうすると我が柴田家の役割は?」

「あの騎馬隊につけ入らせないことですね」

「そうだ。特に、全軍の真後ろに出られないことだな。猪口と上手く連携して隙を作らんことだ」


 最後尾の猪口の隊には、狐たちもいる。心配することはないが、狐たちはとどめの一撃に使いたい。その辺は、今回は御館様任せでよい。これまでなら、実質的に備後殿がほとんどの総指揮を執っており、私や一昨日亡くなった戦奉行の伊藤図書などは、その補佐役に甘んじていた。

 とは言え、これまでも備後殿が出馬しない合戦もあり、その際には、御館様が直に采配を握ったし、私がその補佐を行った。北条に対する出兵で、500の兵を大軍の一部として動かすものだったが。

 だから、総兵数3000を超す独立した軍勢を率いるのは、親方様も今回が初めてになる。

 一昨日、1400の兵が討たれたうえ、将としての実力がある3人の奉行を謹慎させねばならなくなったのは、わずかに不安材料だが。この大軍ならという安心感はある。

 本当なら、私か飛騨守が御館様の側にいた方が良いのだが、今回は、私が前線の一翼を担い、飛騨守も中備えとした。旗本筆頭で勘定奉行の岡田が側に付くが、いかんせん経験は浅い。武芸に秀で頭の回転も早いのだが……。


「見たところ、200程度の軍勢だ。一昨日は4、500もの騎馬が一まとまりだったと言うがな。だが、200でも、こちらで200を超すまとまった騎馬隊は馬廻衆だけだ。なかなかお目にかかれない」

「数を合わせただけのこけ脅しではないのですか?」

「外記の話では図書の隊にとどめを刺したし、見事な騎乗っぷりを見せていたそうだ」

「なるほど」

「数の差はあるからな。こっちから仕掛けて、あの騎馬隊を退け、向こうの本陣の左翼に突っ込んでしまいたいな」

「そういう態勢になれば、まず負けはありませぬな」

「負けないように数を揃えてきた。謀で一昨日は負けたが、もう遅れは取らん」

「兵数の差は1000以上ですから」

「あとは致命的な軍配の間違えがなければ……」


 この心配だけは、この商売を続けている限り、生涯ついてくるのだろう。特に合戦が始まる直前には。しかし、敵が兵を二手に分けて、長駆して背後を奇襲しても、こちらが負ける要素はない。どのような謀が待ち受けているにしても、日没までに当方の勝利は疑いがないはずだ。

挿絵(By みてみん)



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