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102 辰一つ(午前7時)展開3 中山道・堀部後尾・内藤勘解由良純

 街道沿いに人通りがぽつぽつと生じている。大部分は野良仕事に田畑に向う農民だが、商売関係の旅装束の者も散見される。

 延々の武者行列など、町人・百姓には迷惑千万、道端に寄ってやり過ごすばかりである。

 一昨日の戦いも含め、他郡の宿場にも、中山道上で戦が生じていることが伝わり、武蔵守・管領・公方の耳に入るのも時間の問題だろう。

 そうなれば、いろいろ騒々しいことが降りかかってくるので、どっちが勝つにしても、今日で手打ちにするよりない。

 そして、やるからには勝たねばならん。相手もそう思っているだろうが。


「ご家老、顔がこわばっております」


 作事奉行の矢沢左馬助が声をかけてくる。


「そうか? 戦後のことなど考えておったものでな」

「堀部家中全員が、御館様のように飄々としていられればよのでしょうが、なかなか無理でございますな」

「ああ。今日の戦を考え出すと、数の差があるから、眉間に皺が寄ってしまうよ」

「今、こちらの総勢は2100くらいでしたかね」

「ああ、そうだ」


 まず、四方村に 

  旗本 400

  弟君 100

  源之進様 90

で合計590。


 弟君と源之進様の配下は、与力の槍兵が少し討たれただけだが、旗本は300の槍兵のうち、100ほどが狐に討たれてしまった。


 城下町を発したうち、420の騎馬隊は先行させている。これは、

  梶川 400

  佐々木 20

梶川の方は無傷だったが、騎馬は佐々木和泉の兵が若干の損害を負っている。梶川の配下の半数は半田村からの出発だ。四方村で合流する手はずなのか……聞いてはいないが、心配せずとも良かろう。


 あとは徒の兵、千と百に少し足りないくらいが、ぞろぞろと続く。

  山中 450

  鈴木 90

  大崎 450

  内藤 100

鈴木が率いる町方とその与力は合計で十ほどが討たれた、これはそのまま。山中と大崎の兵はそれなりに損害を受けたが、奴ら自身も、配下・与力も、各自、城下屋敷詰めの小物などで少し穴を埋めた。

 前日は大崎の隊に入れた作事奉行とその与力の合計50ほどは、わしの配下に入れた。槍兵と弓兵を近接させて一体的に組み合わせ、槍兵で前衛を築いて、その背後で弓兵が矢を安心してつがえるというやり方が良いと、一昨日の戦いではっきりしたので、大崎から作事方の兵を貰い受けたのだ。一昨日のように、柵の直後に布陣した槍兵の背後に守られた展開にはなりそうにない。ならば、手勢に槍兵を加えておきたかったのだ。


「これ以上、速く歩けと言うのは無理だな」


 直前にいる大崎の兵たちの後姿を見て、ぼやく。わしと作事奉行は数十人の兵を率いる大将ゆえに乗馬しているが、弓兵・槍兵は徒歩だから、その速さには自ずと限界がある。

 1刻(2時間)に2里(8km)進むのが精一杯だから、だいたい6里先の郡境には、3刻かかる。午一つ(午前11時)から二つ(午前11時半)の間に戦場に到着し、午三つ……正午に戦いを始めるのは、いかにも切羽詰っている。


「兵糧の受け渡しを、未明の早いうちから急かして良うございました」

「ああ、騎馬は暗いうちに進発させられたし、夜明け前に朝飯を食わせて、最後尾のわしの隊が夜明けと同時に城を出たからな上出来だ」

「町人から苦情が来るでしょう、あの太鼓の乱打は」

「昨日、のんびり散会したから、あれくらいでないとみんな機敏に動かん。わしらの出陣を一番最後にしておいて、本当によかった。こういう段取りに慣れている、お主が一緒だったのもよかった」


 左馬助の提案で、兵の宿泊所にした大きな旅籠には、個別に朝飯を用意させるのではなく、城の炊事方が用意しているのと同じ腰兵糧を作らせ、その旅籠に泊まっている兵に配らせたのだ。数人で切り盛りしているような小さな旅籠では応じてもらえなかったが、それでも城の炊事方の負担が随分減り、遅れることが防げたし、朝食を食べてからの出立を徹底できた。

 あと米俵10俵載せの荷車10台と人足30人を用意できたので、四方村の陣屋に米を運ばせることにした。合戦が終わり、全軍が四方村に宿泊するなんてことになったら、四方村の米の在庫が吹き飛びかねない。多少でも補填するように思いついた。


「砦の造営の現場で、食事の算段はいろいろ大変でしたので。外に作り手がいれば楽なのに、とさんざんに思っていたものですから」

「ああ、わかる。人を野外で使う仕事は、食わせることが大変だからな」

「御館さまは、明日の朝の分まで用意しろと仰せになりましたね。お陰で、朝の分も含めて握り飯を一人当たり八つも用意することになりましたが……明日の朝まで合戦がつづくという算段なのでしょうか?」

「戦自体は、今日の日中でけりがつくさ。そのあとだ。勝ったら、田上城下まで追撃とかな。それと、万一、長引いて、初日前日のように、四方村付近で野営となれば、食事の準備は大変だ。旗本と一門は、また四方村に入るにしてもな。それに、四方村の陣屋の米蔵だって無尽蔵ではない。だから、多少でも米も運ぶことにしたのだ」

「なるほど」

「何にしても、あのお人を実務で支えるのは、大変なことだ……はははは」


 左馬助が手がけた大きな造営は、今回の砦が初めてのはずだが、なかなか上手くやってのけたし、あれなら弟君が築城と開墾を行うための良い基礎になるはずだ。

 ぜひあの砦の先がどうなるかを見てみたいものだし、左馬助にも腕の奮いどころをもっと見つけてほしいものだ。それには、やはり戦に勝たねばならんな。


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