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可愛い子からのラブレター 2


 試合が始まった。


 保田君はフォワードのようだ。亜矢ちゃんの目が相手陣側に釘付けられている。


「わ、今の凄かったね」


 そう言って、たまに振り返る亜矢ちゃんに怪しまれないように、私も大人しく笹川君を目で追う事にした。笹川君はエリア内を幅広く動き回っていて、追うのも結構大変だ。


 時折、視界に瑞希が写る。


 練習もろくにしていない癖にやたら上手い。

 ボールを扱う姿は異様にカッコ良くて、なんだか苦々しい気持ちになってくる。


 いつ見ても輝いてるんだから、本当に。



 なるべく瑞希を見ないようにして、私は笹川君を追い続けた。




     ◆ ◇ ◇ ◇




 試合が終わり、選手達はグラウンドでミーティングを行っている。応援の甲斐があったのか、無事、勝利したようだ。


 私が帰ろうとすると、パーカーの裾を掴まれた。


真紗(ますず)ちゃん…あのね私」


 亜矢ちゃんは震えている。


「どうしたの?具合でも悪いの?」

 心配になり肩を掴むも亜矢ちゃんは震えながら首を横に振り、きゅっと眉根を寄せ、心細げに私の方を向いた。


「今日、本当は保田君に…告白しようと思ったの。でも、勇気が出てこなくて…」


 そう言って私を見つめる潤んだ瞳が超カワイイ。

 これで上手くいかない筈がない!

 私は、亜矢ちゃんの力になってあげたくて、背中を押すことにした。


「大丈夫だよ、亜矢ちゃんは可愛いから、保田君もきっと喜んでくれるよ」

「本当ーー?」

「ほんとだって!心細いなら、私も一緒について行ってあげるから!」

「ありがとう、お願い…」


 ミーティングが終わったようで、選手達が散り散りになり始めた。

 私は、姫様を守るナイトのような心持ちで、亜矢ちゃんの隣を歩くのだった。



 保田君はすぐに見つかった。

 というか、向こうの方から、こちらへ向かってやってきた。


「橋野!」


 保田君は、亜矢ちゃんに声を掛けながらやって来た。

 隣に立っている私の事は完全スルーだ。同じクラスの私より、違うクラスの亜矢ちゃんに先に声を掛けるなんて、これ脈ありじゃない?

 期待の眼差しを向ける私を当然のようにスルーし、保田君は亜矢ちゃんに話し掛け続ける。


「さっき、瑞希と話してたろ。仲良いの?」

「えっ…」


 話し掛けられた亜矢ちゃんが嬉しさの余り頬を染める。

 最高に可愛い。


「橋野も、瑞希の応援にきたの?」

「ち、違う…」


 あとちょっと。

 ガンバレ!と応援の意味を込めて、亜矢ちゃんの手をぎゅっと握り締めた。

 言っちゃえ!

 大丈夫!保田君、絶対亜矢ちゃんに気があるから…!


「私…保田君の応援に来たの…」


 俯いてか細い声を出した亜矢ちゃんの可愛いさに、私はすっかり感動してしまった。

 この子は私と違う人種だわ。乙女だわ!


「私…保田君が…好きなの…」


 保田君が嬉しそうに頷いた。

 亜矢ちゃんの頬がピンクに染まる。


 良かった…良かったよ…。



「橋野さんて、保田目当てで来てたのか」


 瑞希が寄って来たにも関わらず私は笑顔のままだ。

 あーー嬉しい!


「そうなんだよね、あ~上手く行ってよかった!」

「真紗、今、すごいにやけてる」


 くすりと瑞希に笑われた。

 しかし!今の私はそれでも笑顔がキープ出来る!



「真紗ちゃん!ありがとう!」


 嬉しそうな亜矢ちゃんが私に近寄って来た。

 綻んだままの私の表情が、次の瞬間凍りついた。



「真紗ちゃんも、告白しなよ!」


 …えっ?


「真紗ちゃんも、試合中ずっと彼見てたでしょ?」


 告白が上手くいき、嬉しさの余りすっかりテンションの上がった亜矢ちゃんと目が合った。

 正面にいる亜矢ちゃんの視線から避けるように左を向く。


「真紗…?」


 私をからかう様な笑みがすっかり抜け、口を開け呆けた様子の瑞希と目が合った。

 まじまじと私の顔を見つめてくる。


 瑞希の視線からも避けるように、今度は右を向く。

 サッカー部の数人が、私達をじっと見ている。

 その中には笹川君の姿も含まれていた。


 ど…どこ向けばいいんだ…!


 最早、上下にしか私の視線の先に安息の地は残されていないようで、私は地面のアリさんに挨拶をする事にした。


「わ、私はいいよ、止めとくよ」

 もごもごとそれだけ言ってみたものの、亜矢ちゃんは引かない。


「真紗ちゃんも心細いなら、私がついて行ってあげるから!私がして貰ったみたいに…私も真紗ちゃんに勇気をあげたいの」


 遠慮します、まじ遠慮します…。

 ぶるぶる首を振った私の様子を、勇気が出ない女の子の姿だと勘違いしたのか、亜矢ちゃんが私の手を引き出した。


 ちょ、ちょ、ちょっと!


「笹川くーん」


 あ、あ、あ、亜矢ちゃ~ん!!


「真紗ちゃんが、笹川くんにお話があるんだって!」



 ひゃあああああ!!!



 笹川君が、軽く首を傾げ目の前の私をじっと見た。


 隣では亜矢ちゃんが、期待するような目つきで私を見つめる。

 保田君始めサッカー部員達が、少し遠巻きの位置から、私達を面白そうに眺めている。

 瑞希が怪訝そうな顔をしてこちらを向いている。



 今の私、絶体絶命のピンチ…!



 涼しい季節の筈なのに、なんだか嫌な汗が吹き出てくる。

 眩暈がしてきそうだ。


 どうしよう。


 亜矢ちゃんが、「頑張って!」なんて耳元で囁き掛け、私の手を、私がそうしたようにぎゅっと握り締めた。


 やばいこれ言わなきゃいけない雰囲気。


 もう引けない。仕方ない、行くしかない。

 なんだか心臓がバクバクしてきた。


 きっと大丈夫。笹川君は私など興味ないはず。

 だって私だよ、さくっと断ってくれるよ。

 こんな色気の欠片も無いような格好してるしね。


 恥かいて終わろう。


 亜矢ちゃんと反対のベクトルをもって。

 祈るような気持ちで、半ばヤケクソ気味に私は声を出した。



「笹川君………スキ…」


「ありがとう、俺でよければ是非」


 笹川君は私を見て、爽やかな笑顔を見せた。

 亜矢ちゃんが嬉しそうに私を見る。


 …………。


 今、なんて?



「あの…笹川クン?」

「堀浦……いや、真紗って呼んでいい?」

「呼び方なんてどーでもいいよ、それより……本当に、いいの?」

「いいよ、付き合おうよ」

「うわっ、良かったねえ、真紗ちゃん。私も嬉しい」


 私、嬉しくないよ亜矢ちゃん…。

 笹川君の返事はまさかのOKだった。


 どうしよう。


 保田君含め、サッカー部員達はニヤニヤして私達を見ている。

 瑞希の姿は、いつの間にか何処かへ消えていた。


 ヤバい。



 絶対絶命のピンチは。

 まだ、始まったばかりだった…。






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