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暗躍の真琴

真琴視点回。

中3の一学期中間テスト前。


 

 もうすぐ中間テストが始まる。

 

 テスト期間中は部活動が停止するので、私も明るい時間に帰宅が出来る。

 今年は受験生。夏の大会が終われば部活も終了だ。


 受験生らしく机に向かうと、窓からお隣の部屋の様子が目についた。

 真紗(ますず)と瑞希が仲良さげに勉強をしている。


 暫く興味深く観察していると、扉が開く音がした。大きなバッグを抱え、母が部屋に入ってくる。


「真紗、真琴。修学旅行用のカバンが届いたから、ここ置いとくわよ」

「はーい」

「あれ、真琴。真紗は?」

「瑞希んちよ」


 母が窓を向いた。

 真紗と瑞希が、テーブルを挟み向かい合っている様子が見える。


「もう2人とも中学3年生なのに、真紗ってば未だに瑞希くんのお部屋に行くの?」

「みたいね。私は、テスト期間中の事しか知らないけど」


 母が珍しく神妙な顔をしている。


「瑞希くんとお付き合いでもしてるのかしら」

「さあ。なに、お母さん心配してるの?」

「そりゃするわよ。あの子達も年頃なんだし…2人きりで変な事になってなければいいけど…」


 年頃の娘を持つ母親というものは、些細な事でも敏感に反応し、心配してしまうものらしい。


 そんなに不安げな顔しなくたっていいのに。情けない真紗に頼りない瑞希の事、まだ付き合ってすらいないでしょうよ。

 仲が良いのはあの部屋の中にいる時だけで、学校では、真紗ってば瑞希から逃げ回っているんだもの。


 女子の陰口なんて9割嫉妬なんだから、放っておけばいいのに。

 真に受けて本当に馬鹿みたい。


「真紗が瑞希の部屋に行く事に関しては、むしろ安心した方がいいわよ。真紗、瑞希に数学教えて貰っているんだから」

「瑞希くんに勉強教わってるの?」

「そうよー。もうすぐ中間テストでしょ? 瑞希の教えが無ければ赤点よ、真紗」

「あら、そうなの?」

「中1の時、壊滅的だった数学の成績が、2年になって持ち直したのは瑞希のお蔭よ。お母さんもっと感謝した方がいいわ」

「まあ、勉強しているだけならいいけど…」


 窓から覗く2人の様子を見て、母も納得したようだ。真紗が瑞希に恐らく数学を教わり、真面目に勉強をしている。


「あれ、真琴。瑞希くんが真紗の頬に手を当て……」


 ――え?


 部屋の中をチラ見した瞬間、感じた。

 状況は良く分からないけど、これ、たぶん見せてはいけない………!


「お母さん。志望校の事でちょっとお話があるの。いいかな」


 母の手をさらりと取り部屋から追い払う。

 ホントにもう! あの2人ってば、イチャイチャしたいならカーテン位閉めなさいよ…! 


 相変わらず間の抜けた2人に苛つきながら、母の相手をしに1階へと降りて行くのだった。




     ◆ ◇ ◇ ◇




 我が双子の姉は呑気だ。

 世間というものを何も分かっていない。

 男の子の気持ちも親の気持ちも、何もかも分かっていない。



 瑞希と2人で旅行に行きたいな、なんてパソコンの前で嬉しそうに語る真紗を見て戦慄した。


 真紗。宿泊費用ばかり気にしてんじゃないわよ。

 一番気にするべきは、親を説得出来るか否かよ。

 真紗の事だからバカ正直に、瑞希と行くの、なんて言うんでしょうね。目に見えるようだわ。

 

 仕方ない。

 母の説得でもしてやるか。

 ホテルや温泉の誘導を済ませ、にやけ顔の真紗を部屋に残し、そっと一階に降りる。

 テレビを見ながらお菓子を食べていた母に、話を切り出した。


「お母さん。真紗、京都に行くつもりしてるわ」

「へっ? 京都? 京都なんて日帰り出来ないでしょうに、誰と行く気なのよ」

「瑞希よ」

「えっ、瑞希くんとまさか、2人で行くつもりしてるの?」


 母が驚いて私を見た。

 予想通りの反応だ。軽く頷く。


「そうみたい。心配なの?」

「当然でしょ。だって、男の子と2人で泊まりがけの旅なんて…そういう事するつもりなんじゃないの? まだまだ早いわ」

「安心して、部屋は別のようよ」


 真紗に選ばせた宿の詳細をプリントアウトした紙を、母に手渡す。

 それでもやはり、母の不安は拭いきれない様で歯切れは悪い。


「でもねえ…」

「お母さん、旅なんて女友達だけの方が危ないわよ。瑞希と一緒なら、旅先で変な男に引っかかる心配はないわ」

「確かに、そうかも知れないけど…」

「どこの誰かも分からない行きずりの男よりかは、瑞希の方が万倍もマシよ」

「そりゃまあ…」

「それにね、お母さん。瑞希と何かある場合の心配をしているようだけど…逆にあるくらいの方がいいかも知れないのよ」

「…何を言ってるの、真琴」


 眉根を寄せた母に、にっこりと微笑んでみせる。


「お母さん、瑞希の事どう思う?」

「どうって、まあ……頭はいいし、かっこいいし、折り目正しいきちんとした出来の良い子だとは思うけれど…」

「真紗の人生において、瑞希以上の男が現れるとお母さんは思うの?」

「それは……」

「名門校に通っているし、将来性は抜群よね。正直、瑞希より素敵な人捕まえるの、真紗には難しいと思うわ」

「………」

「チャンスはモノにした方がいいんじゃないかな」

「………」


 母も女として思うものがあったのか、暫く考え込んでいたようだが、真紗の旅はめでたく了承されたようだった。




     ◇ ◆ ◇ ◇




 私は真紗の双子の妹だ。

 そして私も、瑞希の幼なじみなのだ。


 だから私は、幼い頃からとっくに分かっていた。

 真紗と瑞希が、お互い好き同士なんだって事。

 然るべき年齢になれば、自然と恋人同士になるだろうと思っていた。だって、どこからどう見てもあの2人、両想いなんだもの。

 

 なのになのに。

 2人がやっとくっついたのが、高校2年の夏。

 遅すぎる。


 瑞希は傍目にも真紗にべったりなので、これはどうやら真紗が悪いのだと睨んではいた。

 真紗は、自分に自信がない。

 出来の良すぎる瑞希に、釣り合わないとか余計な事を考えていそうだ。


 馬鹿みたい。

 釣り合うとかどうだっていい事なのに。

 大事なのは、好きかどうかって事なのに。


 真紗がやけに熱心に化粧の練習をしていたので、やっとこさ瑞希と向き合う気になったか、とあの時は胸をなで下ろした。真紗さえ動けば瑞希は簡単に応じるでしょう。

 肩の荷が下りた思いで迎えた花火大会、2人のキスシーンを見せつけられ、疑惑は確定となった。



 遅まきながらの春に、私なりに、瑞希へご祝儀の気持ちを込め、真紗に(ささや)いた。


「真紗。瑞希をビックリさせる方法、知ってる?」

「何それ、教えて!」

「早起きして、こっそり瑞希の布団に忍び込んでみるのよ。目覚めた瑞希の隣に真紗がいたら、確実に驚いて叫んでくれるわ」

「芸能人の寝起きドッキリみたいなやつか……」


 ふっ。

 単純な真紗の事、きっといつの日か、目覚めると隣で眠っている事でしょう。

 その意味も知らずに。


 

 雪解けが長かった分、春をいつまでも堪能していてください、愛しの我が姉よ。

 私も春を存分に謳歌中なので御座います。


 

 さて、そろそろ眠るとしましょうか。

 窓に鍵をかけて、カーテンを閉める。戸締まりはきちんとしなくちゃね。

 部屋の主の数が1人、足りない気がするんだけれど、気にしない。


 グッナイ!



 私は朝まで、すっきりと眠りにつくのでした。

 





最初のシーンは『ファーストkissの味は』の回の日です。




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