表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/52

綺麗な面影(前編)

瑞希昔話回。


 幼い頃から、綺麗な顔をしているねと言われ続けてきた。



 オレは母親に似たらしい。


 オレの母親は綺麗な人だったらしく、叔父から何度も、母親に似て綺麗だと褒められた。

 オレとしては、女の子のようだと言われているみたいで、全く嬉しくは無かった。


 鏡を覗けば、そこに映るのはまるで少女のような自分の姿。

 真っ白な肌にバラ色の頬。

 くっきりとした二重瞼に長い睫毛が沢山くっついている。

 赤い唇なんて、まるで童話に出てくるお姫様のようだ。

 

 浅黒い肌に切れ長の瞳をした、叔父のような男っぽい顔つきに憧れた。

 叔父は、オレの父親の弟なのだが、オレの容姿は一つも叔父に似た所がない。

 そもそも、オレの中に父の面影はどこにも無かったのだ。



 周りのみんなから、綺麗だね、可愛いねと言われる度、かっこいいと言われたくて、一人称を『僕』から『オレ』に変えてみた。

 それでも相変わらず、周囲の子ども達には、女の子のようだと囃し立てられたのだが。



 この母親に似た自分の顔が、オレはずっと嫌いだった。




     ◆ ◇ ◇ ◇




 小学3年生になった、とある春の日の事。


 学校から帰り、荷物を片付け宿題を始めようとしたら、勉強机に面した窓がガラリと開いた。


「瑞希、あそぼー!」

真紗(ますず)?」


 真紗が、窓の向こうからひょっこりと顔を出した。

 隣の家に住む彼女は、年が同じという事もあり、幼い頃から毎日のように顔を合わせ、一緒に遊ぶ仲だ。


 昨日、初めて真紗が屋根伝いにやってきた時は驚いた。危ないよ、と言ってみたけれど全く聞く様子はなく、逆に、私の部屋へおいでよ! と一緒に屋根を渡らされた。


 オレの部屋と真紗の部屋は近い。

 屋根から屋根へ、移動は意外と簡単だった。

 

 真紗の部屋に到着すると、丁度窓から部屋に入るタイミングでおばさんと鉢合わせをし、オレも一緒に怒られた。

 もう、しないでおこう。

 靴が玄関にない状態で、オレの姿がおばさんの目に留まれば、一発でばれてしまう。


「真紗、またそこ通ってきたの?」

「そーだよ。玄関回るのめんどーなんだもん」


 そう言って真紗は嬉しそうに笑う。めんどくさがりの真紗の事だ。きっと、これからはずっとここを通って来るんだろうな…。


「なにやってんの? 瑞希」

「宿題。真紗はもう終わったの?」

「まだ。だって宿題やってたら遊べなくなっちゃうじゃん」

「先に終わらせてから遊ぶんだよ」

「瑞希、お母さんみたいな事言うね」


 不貞腐れる真紗をなだめ、宿題を手に、きちんと玄関から真紗の家にお邪魔する。

 おばさんが、笑顔でオレを迎え入れてくれた。


「瑞希くん、いらっしゃい。宿題持ってきたの? えらいわねえ」


 母さんはちっともオレに笑いかけてくれないけれど、真紗のお母さんはオレにいつも笑顔を見せてくれる。この人がオレの母さんなら良かったのに。

 本当に、真紗が羨ましい。


 真紗の部屋に入ると、双子の妹の真琴もいた。

 双子なんだけれど、雰囲気や性格はまるで似ていない。


「真紗達、これから宿題するの?」

「そうだよ、真琴も一緒にやる?」

「もう終わったからいいわ。遊びに行ってくる」


 そう言って、軽やかに部屋から出て行った。

 真琴は、あまりオレ達と一緒に遊ぼうとしない。

 外で遊ぶのが好きなようで、公園に行く時くらいしか、ついて来てくれない。


 オレ達も、早く宿題終わらせて遊ぼうよ!


 そう言って宿題を片付けたのだが、真紗は少しも進んでいない。

 算数のプリントが真っ白なまま、手が止まっている。

 困っているようなので、解き方を教えていると、おばさんがおやつを持って部屋に入ってきた。


「真紗、瑞希くんに算数教えて貰ってるの?」

「うん。すごいんだよ、宿題がサクサク進んでいくんだよ」

「良かったわねえ…出来のいい幼なじみがいて。瑞希くん、出来の悪い娘だけど、見捨てないでやってね」

「お母さん! 出来が悪いってどういう事よ、もー!」


 返事に困り、取り敢えずにこやかな笑顔を向けると、おばさんは満足そうに微笑み部屋を出て行った。

 真紗は頬を風船のように膨らませている。

 

「こうなったら、おやつ食べよう、おやつ!」


 真紗が、早速おやつに手を伸ばそうとしたので、取り上げる。


「えー! なんでよ、私のおやつ…」

「もう少しで宿題終わるだろ。終わらせてから食べようよ。今食べたらプリントも汚れるよ」

「瑞希、ほんとにお母さんみたいな事言うね…」


 その後、程なく宿題を終えたオレ達は、おやつを食べながら、今日は何をして遊ぶか2人で話し合いをするのだった。




     ◇ ◆ ◇ ◇


 


 その日の夜、夜中にふと目が覚めて一階へ降りた。


 トイレに行った後、再び2階の自室へ戻ろうとすると、リビングの方から、母の怒鳴る声とそれを宥める父の声が漏れ聞こえてきた。


「無理よ。あんな子、可愛いとは思えない」

「可愛い顔してるじゃないか。天使のようだとよく褒められるぞ」

「綺麗すぎるのよ、あの子は。人形の子みたいで気味が悪いわ」


 2人の喧嘩はいつもの事だ。

 どうやらオレが原因のようだ。これまたいつもの事だ。

 

 母はオレの事が好きではない。

 はっきり言ってしまえば、嫌いなんだと思う。


 オレが良い子にしていないからだと、幼い頃はずっと思って過ごしていた。しかし何をどうしても、母がオレに優しく笑いかけてくれる事はなかった。

 オレそのものが嫌いなのだと、最近になってその事実にようやく気づく。

 

 母も、オレの顔が嫌いなのか。

 そんなのもう、どうする事も出来ないじゃないか。


 これ以上耳にするのが辛くなってきたオレは、階段の元へ向かおうと、リビングから背を向けたその時。

 ()()が聞こえた。


「そう言って、あなたはいつもいつも逃げるんだから。一緒に病院だって行ってくれない!」

「もういいじゃないか、瑞希を自分の子だと思えば」


 なんだ、この会話は。


 頭を殴られたような衝撃に襲われ、思わずその場にへたり込む。

 オレの存在に気付いていない2人の言葉は止まらない。


「せめてあの子がもう少し義兄さんに――あなたに似ていたら私も……」


 ………っ!


 その一言に、弾かれるようにオレは二階へと駆け上がる。


 その日の夜はもう、眠りに就く事が出来なかった。




 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ