京の街を、君と歩きたくて 1
修学旅行その後。1~3
「はあ………」
「瑞希、いい加減落ち込むのやめろよ」
「どうしよう航太。真紗に嫌われてしまった…」
修学旅行を終えて。
オレは、真紗に絶交宣言をされてしまった。
『お願い、もう、私に近寄らないで…。私に話しかけてこないで。もう、瑞希の部屋にも行かないから………!!』
旅行の間ずっと、真紗が気落ちした様子だったので、気になって気になって、力になってあげたくて真紗の傍に行っていたら、あんな事を言われてしまった。
はあ……。
新学期が始まり、真紗との距離を詰めて、なんとか振り向かせようと意気込んでいた所だったのに。振り向かせるどころか、振りだしに戻ってしまったようだ。
どうしよう。あれからずっと顔も合わせてくれない。
もうすぐ期末テストが始まるけれど、まるで来る気配がない。
本気だ。
中1の、あの時と同じだ…。
ガックリと落ち込むオレを慰めるつもりか、はたまたからかうつもりか、航太が珍しくオレの部屋にやってきた。真紗以外の来客は久し振りだ。
「ところで。瑞希の部屋、堀浦の部屋と近いんだな」
「近いね。真紗、いつも窓からやって来るよ。て、よくそこが真紗の部屋だって分かったね」
「姿見えたからな。今さっき帰って来た所かな、着替えしてるようだな。カッターシャツのボタン外してる」
「何見てんだよ航太っ!」
ちらりと窓の向こうに目を遣ると、胸元のボタンを外している真紗の姿が目に入る。
なにやってんだよ真紗……着替える時くらいカーテン閉めろってば…!
慌ててカーテンを閉め、航太の視界から外す。
「ちょっと位いいじゃん。お前毎日見てんだろ?」
「見てないよっ!」
真琴はこんな事絶対にしないけれど、真紗はたまにやらかす。本当に危機管理がなっていない。
「今度会えたら、真紗に言ってやらないと…着替える時はカーテン閉めろって」
「ふーん。開けっ放しにしてたから、見てましたって言うようなもんだよな、それ」」
「………」
からかいに来ただけだな、航太め。
しかし、この軽口に、少し癒されている自分が悲しい。
カーテンの件は放置でいいか。真紗の部屋は通りに面していないから、オレしか見る奴いないしね!
それにしても。
真紗はすぐに腹を立てて怒り出す。
しかし、その分怒りが収まるのも早い。正直、気持ちの切り替えの早さに、驚かされる事も多い。
この前の中間テストの時も、そうだ。
『味、知りたいの? …教えてあげようか』
あんな事を言い、キスをしようとしたオレに腹を立て、真紗は自室に帰ってしまったのだが。
コンコンコン。
1時間もすると、ノックの音が聞こえてきた。
『瑞希ー、そっちに私のノート置いたままになってるよね。忘れてた~』
何事も無かったかのように、ケロッとした顔で、真紗が顔を出した。
切替、早すぎだろ…。
真紗からバニラの甘い香りが漂ってきたので、どうやら、おやつを食べて機嫌が直ったようだ。
その後、なし崩し的に再び勉強会が始まったのだが、何事も無かったかのように振る舞うのに、苦労した。
そんな風に、機嫌を損ねても大抵すぐ、ケロリとした顔を見せてくれる真紗なのに。中1のあの時も今回も、何故かしつこくオレを無視してくる。
何故なんだろう…。
なにかやったのかな、オレ。
「なあ航太。オレ、何がダメだったんだろう」
「話聞いてる限りじゃ……全部じゃね?」
「ひどい……!」
全部? オレの全てがダメって事…?
「だって今までの行動聞いてたらさ、お前ギリッギリまで好意見せて近づいておきながら、肝心の好きって一言が言えてねーんだもん」
「うっ……」
「カマかけて、堀浦の反応、チラッチラしてるだけじゃねーか。このヘタレめ」
「だってさ。真紗の反応見て行けそうなら告ろうかな? とか考えちゃうじゃん。無謀な勝負に出るの、怖いじゃん」
「行動は大胆な癖に。キスしかけといて、なんで好きが言えんかね。遊ばれてるとしか思われてないぞ」
「あれは…真紗がオレの事気にしてる様子だったから、なんだか嬉しくなって、つい、出来心で…」
「すっぱり告れば良かったのに」
「すっぱり告って、すっぱり振られて、今の関係が壊れたらと思うと、怖くてさ…」
「もう壊れてるんじゃねーの?」
「うっ……」
確かに、真紗にはオレの言動が冗談だと思われているようだ。
真紗が鈍いのかと思っていたけれど、オレがはっきりしないせい?
「だいたい! なんだよ。足立にバラされて、なんでそこでチラチラ堀浦の様子見たまま告らず黙ってんだよ」
「だって…突然の事でびっくりして言葉出てこなかったし…心の準備ゼロであんな事言われても…」
「アホかお前。そこはスパッとみんなの前で言わなきゃダメな場面だろ!」
「真紗も青い顔してたから、あのまま言っても、スパッとみんなの前で振られるだけだなーなんて思っちゃってさ…」
「お前がもごもごしてたら、名前出された堀浦が立場無く終わるだけだろうに…」
「せめて、真紗が真っ赤な顔でもじもじしてくれていたら……オレも覚悟決めたのに……」
「失敗すると分かってても、そこは敢えて行けよって話してんだよ」
「うっ……」
確かにあの時、真紗はみんなの視線を浴び、居心地が悪そうだった。
足立さんに真紗が好きなのかと問われ、ついうっかり肯定してしまったばかりに、あんな場面であんな事を言われてしまったのだから、もっとオレがフォローしてやるべきだった。
ごめん、真紗……。
「それに! 宿の売店のアレ、なんだよ。どう見ても堀浦、泣いてたじゃねーか」
「そうなんだよ! 何があったのか気になって聞いても、何も答えてくれないし…」
「だからアホかって言ってんだよ。どこか行けって言われた時点で大人しく引いてやれよ」
「でも、気になって気になって……」
「あのなあ。泣いた顔なんて誰だって見られたくないだろ? この部屋で2人きりとかならまだしも、他に生徒もいるあんなとこで、お前に追及されて、嬉しい訳ないだろ」
「うっ……」
悲しむ真紗がどうしても気になって、その場に居続けたんだけど、真紗は迷惑してたのか…。
どうりで、航太に呼ばれて風呂に行ったら、順番まだだった訳だ。ちっ、邪魔された、なんて憤っていたのだが、風呂は真紗からオレを引き離す口実だったのか。
「神社でも、なにドサクサに紛れて抱き付いてんだよ」
「だって! ……手を掴んだら痛いって言うし…、ああしないと逃げちゃうし…」
「だからって抱き付く事ないだろ? 嫌がられないとか良く思えたな。そんな自信があるのに、なんで告白できないワケ?」
「でも…1人でポツンと寂しそうだったし、オレも真紗と一緒に見て回りたかったし…」
「そういう時はな、足立に頼めよ、説得」
「うっ……」
あの時は夢中だったけれど、今思えば嫌がってたな、腕の中の真紗。
暫く暴れてたし。
「そういえば、離してくれって何度も言われた…」
「な、一般的にはアウトなんだぜ、それ」
「でも……オレ達の姿見た途端逃げたんだよ。オレ、てっきり綾川さんと何かあったのかと思って、前日の涙もそれかと思って、なんとかしてあげたくて……」
「余計なお世話って言葉、知ってるか?」
「うっ……」
辛そうな真紗を、オレの手でどうにかしてあげたくて付き纏っていたのが、どれもこれもアウトだったのか。
てことは何? オレ、よっぽどうざかったの?
近寄らないでとか、話しかけてこないでとか。
はあ………。
「ほんと瑞希、まるで駄目だな」
「余計落ち込むからやめて…何かオレの良いとこ言ってよ。浮上したいから」
「ああすまん。見た目だけはいいな、見た目だけは。堀浦も瑞希の事かっこいいと思ってるんじゃないかな。なんせ、見た目だけはいいからな!」
「嬉しくない…」
それ、中身はいいとこ無いって事だよね?
もう少し、優しい言葉かけてくれたって良くない?
「まあ、安心しろよ瑞希。堀浦もお前の事嫌いじゃないと思うぜ」
「…本当に?」
「むしろ好意はある方だろ! でないと2人きりで勉強なんてしてくれねーよ」
「本当にっ? オレの彼女になってくれそうだと思う?」
「期待は出来ると思うぞ、中学卒業したらな」
「ええ、高校生にならないと無理!? じゃあ同じ高校目指そうかな…」
「高校別にしないと無理じゃねーかな! 同じ所間違っても行くなよ、付き合えなくなるから」
「なんでだよ……」
ため息をついてズボンのポケットに手を入れた。
かさかさとした感触が指に触れる。
「そういえば、女子の群れに囲まれていただろうに、よく神社で1人になれたな」
「あ、それ? トイレ行くフリしてまいた!」
思わず得意げに胸を張る。
真紗に教わったからね!
女子トイレにオレが入って行けないように、男子トイレに女の子は入れないって事を。
「それより、どうすれば元に戻れるんだろう。これもまだ真紗に渡せてないし…」
小さな紙袋をポケットから取り出した。
修学旅行初日、真紗が宿で髪に当てていた赤いヘアピンが入っている。
最終日、真紗に笑って欲しくて、つい買ってしまった。
「それ、宿の売店の袋だろ。もう1ヶ月位経つのに、まだ渡してなかったのかよ」
「だって顔も合わせてくれないんだよ。渡せないじゃないか」
「そこの窓空いてんだから、放り込んできたら?」
「それはさすがに…。そうだ航太、真紗に渡しといてよ」
「瑞希って勉強は出来る癖に、こういうとこホント馬鹿だな! 自分で渡せ」
「航太…」
その後もグダグダと駄話は続き、まったく慰めの言葉をかけてくれない航太なのだが、心の靄は薄れていくのだった。




